シグマCEOが24-70mm Art、14mm Art、シネレンズ、ソニー、野球について語る
―皆さんこんにちは。Gentec SIGMA Canadaのマイク・ラストです。今日はシグマCEOの山木和人氏にお話を聞くことができました。Gentec SIGMA Canadaへようこそ。お会いできて光栄です。
山木:ありがとうございます。
―ではさっそく始めましょう。シグマのアートシリーズは、ここカナダでも大きな成功を収めています。過去のシグマの製品から新しいグローバルビジョンシリーズに大きく飛躍するにあたって、いったいどのような考えがあったのでしょうか。
山木:新しい方針を決めるにあたって、シグマはどうやってカメラ産業や写真文化に貢献していくべきか、ずっと議論をしてきました。その結果、いわゆる普通のスペックのレンズを作ることが私たちの仕事ではないとの結論に至りました。というのも、ユーザーがそのようなレンズを選ぶときは、大手メーカー製のものを手にするからです。なので、私たちの仕事は、ありきたりではない、高性能なレンズを作ることだと考えました。シグマには優秀なエンジニアがいて、素晴らしい工場がありますから、高性能レンズを作ることが可能なのです。
―24-70mm F2.8レンズは、ここカナダを始め、アメリカや世界各地で出荷が始まりました。このレンズの開発にはどれくらいの時間がかかったのですか?
山木:だいたい2年くらいです。
―最終的な製品になるまで、エンジニアはどれくらいの試作品を作るのでしょうか。レンズの形式や配置をいろいろ試したりするのですか?
山木:最初にレンズの形式をシミュレーションするのですが、その時点ではあらゆる組み合わせを試します。実際どのくらいのパターンを考えたのかはわかりません。しかし、いったんレンズの配置が決まり、試作品を作ると、そこから構成は変えません。
―その時点で24-70mmのF2バージョンを試しましたか?
山木:今回は試していません。実は別のレンズでF2を試してみたことがあるのですが、その時は非常に困難だと判明し、最終的に中止しました。
―つい先日発売になった14mm F1.8 Artレンズが今ここにあるのですが、14mmのF1.8というのは世界で初めてのスペックのレンズです。このようなレンズはどうやって製品化されるのですか?例えばエンジニアがあなたの所にやってきて、14mm F1.8を作りたいと言ってくるのか、それとも反対に山木さんがエンジニアの所に行って14mmを作れと言うのか、どのように決めているのでしょうか。
山木:これは元々、私とエンジニアが軽くおしゃべりをしていた時に思いついたものです。私は自分のオフィスを持っていません。エンジニアが働いているフロアに私の机があります。そこで、光学設計を担当しているエンジニアとよく世間話をしています。
かつてシグマは14mm F2.8というレンズを作っていたのですが、このレンズが生産停止になった後で、新しいバージョンの14mmレンズの需要があることがわかりました。なので、エンジニアに新しい14mmを作れないか聞いたのです。エンジニアは「できます」と言ったのですが、同じ14mmのF2.8じゃつまらないよね、という話になりました。じゃあ、F1.8に挑戦してみようかということで、開発が始まったのです。
―12-24mm F4 Artレンズでは、新しく大口径の非球面レンズを採用しました。これは14mm F1.8レンズにも使われている技術です。12-24mmを開発したときに、この非球面レンズが他のレンズにも応用できると考えていたのでしょうか?
山木:実際に12-24mmと14mmに使っているのは同じレンズではありません。違うレンズです。しかし、その製造には同じ技術を使っています。12-24mmを開発していた時に、大口径非球面レンズを製造するための技術を新しく採用しました。この経験があったので、エンジニアは14mm F1.8を作ることが可能だとわかっていたのです。なので、同じ技術を使って14mmの非球面レンズを開発しました。
―ということは、同じ技術を将来、新しいレンズにも採用していけるのでしょうか。
山木:はい。将来もっと高性能な広角レンズを作ることが可能になると思います。
―この100年でカメラの技術は大きく進歩しました。しかし、レンズそのものは100年前と比べてもそれほど変化していないように見えます。レンズの生産方式やコーティングなど、大きく変わったものもありますが、高性能でなおかつ小さくて軽いといった大きな革新はありません。レンズの将来についてどのようにお考えでしょうか。
山木:良い質問ですね。確かに本当の意味での革新的な技術というのはレンズにありません。理由の一つに、今でもガラスをレンズの素材として使っているということがあります。もちろん、他にもレンズに使われているものはありますが、今の時点でも光を通してイメージセンサーに届けるという意味ではガラスが最適な素材なのです。なので、ガラスを使い続ける以上は、既存の技術を使い続けなければなりません。
しかし、私たちは常により良い製品を作るために開発を続けています。将来は、もっと小さくて軽い、高性能なレンズを作ることができると考えています。
―シグマがシネレンズに参入したのはなぜでしょうか。
山木:そもそも以前から、多くの写真家や動画撮影者がシネレンズを作ったらどうかと話してくれていたのです。その後、18-35mm F1.8レンズを発売して、これは元々静止画用のレンズなのですが、動画で使う人が多くいることがわかりました。なので、これは需要があると判断して、シネレンズを開発しようと決断したのです。
―シグマのシネレンズは今後どうなっていくのでしょうか。もっと多くのラインアップが追加されていくのですか?
山木:はい、今の時点では10種類のシネレンズがありますが、将来はもっと拡充していく予定です。なので、ユーザーの方々には今後の新製品に期待してほしいですね。
―シネレンズでは縦長に圧縮して撮影し、上映時に拡大するシネマスコープでの撮影が主流ですが、シネマスコープを撮影できるアナモフィックレンズへの参入には大きな壁があります。多くのユーザーはアダプターを使ってシネマスコープに対応しているのが現状です。シグマは常に革新的な製品を開発してきた会社ですが、アナモフィックレンズへの参入も考えていますか?
山木:実はシネレンズの開発を発表してから、シネマスコープに対応したレンズを作って欲しいという要望が、多くのユーザーから寄せられています。現在はまだ研究段階なのですが、もし大きな需要があれば開発も考えたいと思います。
―先日シグマのシネレンズをカナダの映画製作会社に紹介する機会があり、大変盛況でした。シグマのシネレンズのみを使った映像作品で、何か気に入ったものはありますか。
山木:シネレンズを発売するにあたって、知り合いの作家に依頼して映像を作成しました。「Blur」という短編映画です。これはシグマのウェブサイトやYoutubeでも見ることができます。これが今のところ私が一番気に入っている作品です。
―シグマカナダはSigma ARTisan Seriesという、カナダの作家が制作した映像を集めたサイトを始めました。ご覧になられましたか?
山木:はい。とても気に入りました。ストーリーもいいし、映像も素晴らしいです。色、諧調、ボケ、BGM、とても良いと思います。
―作品のテーマである職人というのも、シグマや会津工場に通じるものがあります。すべてを自分たちで作っていく。
山木:そうですね。
―シグマカナダのSNSのフォロワーやユーザーからはEマウントレンズに対する要望が多いです。とりわけFEレンズですね。シグマにはMC-11があるので、これを使えばEマウントやFEマウントでも、多くの高性能なレンズを使うことができます。しかし、Eマウント専用のアートシリーズやコンテンポラリーシリーズのレンズはほとんどありません。
また、山木氏自身、ソニーのミラーレスを使っていると聞いたことがあります。将来的にEマウント専用レンズはどのようになっていくのでしょうか。
山木:私たちはEマウント専用のレンズをもっと増やしていく予定です。また、FEマウント専用のレンズも発売する予定です。MC-11を開発したのは、キヤノンとソニー、あるいはシグマとソニーの両方を使っているユーザーのためです。将来的にも、このような複数のマウントを使い分けるユーザーはいると思います。
―それは、Eマウントに特化した、例えばより小さなFEマウント用レンズを設計するということでしょうか。現行の50mm F1.4や35mm F1.4をより小型にしたFEレンズのようなものも発売されるのでしょうか。
山木:具体的な製品についてはコメントできません(笑)現在は同じ設計で行くのか、Eマウント専用にするのか、どちらが良いのかを検討中です。
―山木氏がシグマのCEOになられてから5年になります。CEOになってからこれまで開発した中で、最も大きな達成や、最も誇りに思うような製品はありますか?
山木:35mm F1.4ですね。これはアートシリーズの最初のレンズです。新シリーズを発表するときは、実はとても不安でした。もしこれが成功しなければ、会社全体にとって大きな損失になってしまうのではないかと、大変心配しました。
しかし、幸運なことに、多くのユーザーがこのレンズを高く評価してくれました。新シリーズがユーザーに受け入れられたことがわかって、とてもほっとしました。
―もし5年前に戻れるとしたら、もう一度やり直したいことはありますか。
山木:良い質問ですね。正直わかりません。なぜならいろいろな物事を決めるのは私だけではないからです。経験のあるシグマの社員や、ここカナダのジェンテックといった長い付き合いのある取引先にも助けられてきました。シグマのエンジニアや社員、取引先、そのすべてがベストを尽くしてきたと思います。
―山木氏自身も写真撮影を楽しんでいると聞いています。いつも持ち歩いているのはどのようなカメラなのですか。
山木:普段はdp2 Quattroを使っています。sd Quattroも使いますね。
―個人的に好きな撮影方法や被写体はありますか。スナップや風景写真のような。
山木:個人的にスナップ写真が好きですね。もちろん、家族の写真を撮るのも大好きです。
―撮った写真をネットで共有したりしますか。それとも現像する時間もないのでしょうか。
山木:時々私のFacebookページに写真を上げたりしていますよ。でも、友達にしか公開していません。正直言って、写真はそんなに上手くないのですよ(笑)
―でも楽しんでやっているのですよね。
山木:そうです。
―それが一番大事です(笑)毎日訪問しているような写真サイトはありますか?
山木:dpreviewのような写真情報サイトはいつもチェックしていますね。また、個人的に噂サイトをチェックするのが大好きです。
―好きな写真家はいますか。
山木:いわゆるファインアート系の写真を見るのが好きですね。例えば、アーヴィング・ペン、アンドレアス・グルスキー、もう少し古い、フランスのジャンル―・シーフの作品。こういったファインアートの写真が好きです。
―カナダに来られたのは今回が2回目と聞いています。ここカナダで何かいい思い出はありますか。
山木:いろいろな人に会えるのはいつも楽しいですね。とりわけ取引のあるジェンテックの人と会って話をするのがとても楽しいですし、情報を共有したり、将来について話したりするので、とても良い経験をさせていただいています。
―山木氏は野球ファンだと聞きました。
山木:そうです。大好きですね。学生の時に野球をやっていたのですよ。
―そうなんですか。いつ頃されていたのですか?
山木:中学校の時に野球部に所属していました。
―ポジションはどこですか?
山木:ショートです。
―素晴らしい(笑)
では次にあげる二つのうち、どちらがいいかという質問をさせてください。簡潔にお答えください。
山木:わかりました。
―単焦点とズーム、どちらが好きですか。
山木:単焦点。
―広角か望遠か。
山木:広角が好きです。
―ビールか酒か。
山木:ワインです(笑)
―フィルムかデジタルか。
山木:良い質問です。うーん、デジタル。
―モノクロかカラーか。
山木:撮影するならカラー。見るならモノクロです。
―良い回答ですね。砂浜で過ごすか雪の日か。
山木:砂浜。
―質問は以上です。本日はありがとうございました。
CP+2017 シグマインタビュー「ユーザーにはひたすら性能を追求したレンズを求める人がいるんです」
CP+2017の会場で シグマの新製品14mm F1.8を手にする山木CEO
シグマは今年のCP+で4本の新しいレンズを発表した。14mm F1.8 DG HSM Art, 24-70mm F2.8 DG OS HSM Art, 135mm F1.8 DG HSM Art, そして100-400mm F5-6.3 DG OS HSMだ。CP+の会場で山木氏に新しいレンズについて話を聞いた。
―:以前のインタビューで、シグマは広角レンズをもっと発売したいと話されていました。12-24mmや14mmを出したことで、目標は達成したとお考えですか。
山木:そうですね。けれども、まだ満足はしていません。もっとたくさんの広角レンズを作る必要があると考えています。明るい14mmのレンズというのは、ユーザーから欲しいと言われていたレンズの一つです。既存の14mmレンズはF2.8がほとんどですから、F1.8というのは大きな挑戦でした。
シグマの新しい14mmはこれまで発売された中で最も明るいF1.8を達成している。さらに、既存のより暗いレンズよりも性能は上だという。
―:アートシリーズのレンズを作ることでシグマが得たものは何でしょうか。
山木:性能をひたすら追求したレンズに需要があるということですね。シグマという会社は、他社がやらないような製品を作る会社だと思っています。もし、今売られているのと同じようなレンズばかり作っていたらカメラ業界に何も貢献できないし、ユーザーにもメリットはありません。なので、アートシリーズは最高性能を追求することにしたんです。
アートシリーズはかさばるし重たいです。それは事実です。しかし性能が高いからユーザーに買ってもらえる。そのことが分かったのは良かったですね。
山木:はい、その計画です。ソニーEマウントのフルサイズ用レンズを開発する予定です。将来的にはEマウントレンズの種類を増やしていくつもりです。ただ、それには時間がかかります。一つのレンズを開発するのに、通常は2年から3年かかるんですよ。なので、仮に今開発をスタートしたとしても、発売は2年後になります。
―:新しいアートシリーズは簡易な防塵防滴性能を持っていますが、何か理由はあるのですか。
山木:ユーザーからの要望があったからですね。レンズマウント内に雨や雪が侵入するのでマウント部をシーリングして欲しいという声がありました。もう一つの理由は最近の傾向に倣ったからです。他社さんも防塵防滴レンズを出していますし。
―:防塵防滴にすることで設計がより複雑になったりするのですか。
山木:いいえ、そんなことはありません。今回のはマウント部にシーリングをしただけです。当社のスポーツシリーズのような完全な防塵防滴ではありません。例えば150-600mmはフォーカスリングやズームリングなど、すべての部分にシーリングを施しています。
―:グローバルビジョンレンズのなかで、開発が最も困難だったレンズは何でしょうか。
山木:12-24mmですね。これはとても大きな非球面レンズを使っているんですが、開発時点ではこのようなレンズを使っている会社はなかったし、そもそもそれを製造する装置すらありませんでした。なので、自社で大口径非球面レンズを製造する装置を開発したんです。しかし、その技術があったおかげで、新しい14mm F1.8レンズを作ることができました。
シグマの12-24mmは最前面に巨大な非球面レンズを持つ、とても複雑な設計だ。
―:グローバルビジョンをスタートさせてから5年が経ちました。この間の最も大きな達成は何でしょうか。
山木:まず私は今でも満足しきっていません。もっとやらなければならないことがたくさんあります。しかし、ここ最近はシグマが高品質な製品を作る会社だと認知されてきたようで、とても幸せですね。以前はシグマはただのサードパーティーメーカーで、安くて性能の悪いレンズを売る会社だと思う人もいましたから。しかし、人々のシグマに対する見方は徐々に変わってきていると感じます。そのことを大変うれしく思います。
―:キヤノンやニコンの機材を使うプロ写真家はCPS(キヤノンプロフェッショナルサービス)やNPS(ニコンプロフェッショナルサービス)といったサービスを利用しています。シグマも同じようなプロ向けのサービスを行う可能性はあるのでしょうか。
山木:シグマもそういったサービスを行わなければならないと思います。日本ではもうすでにプロ用のサポートを準備し始めています。また、できるだけ早く同様のサービスを全世界で展開したいと思っています。
―:以前のインタビューで、シグマが急成長することを望んでいないと話されていました。そのことによって小さな会社であることのメリットが失われるからです。現在でも同じ考えなのでしょうか。
山木:そうですね、急成長というのはあまり良いことではありません。もちろん私たちの会社も成長していかなければならないのですが、少しずつ大きくなっていくべきです。現在の優先事項は、高品質の製品を製造できる会社にしていくことです。そうすれば、売上高、販売本数、利益は自ずとついて来ます。会社を大きくすることが目的ではありません。製品の品質であり、それを作る技術が大切です。
実のところ、この5年間で生産するレンズの数は減っているんですよ。安価なレンズの数を減らしていったからです。けれども、レンズの生産能力は拡大し続けています。高性能なレンズはより多くの枚数のレンズを必要とするからです。安価なレンズは10枚から15枚ほどのレンズで作れますけど、高性能なものは15枚から20枚、場合によってはもっと多くのレンズが必要になります。一本のレンズを作るのに今までより多くの生産能力が必要になってきています。事実、この5年で生産設備にものすごい投資をしてきました。
―:シグマや富士フィルムはシネレンズにも参入し始めました。この分野の成長率はどのくらいだとお考えですか。
山木:わかりません。実はシネレンズを作る前に市場調査をしたのですが、まったくわからなかったんです。どこにもデータがなかった。大体これくらいだろうという推測しかできなかったんですね。ただ、市場そのものは今後も伸びてくだろうとは考えました。
動画が要求する解像度は静止画よりも低いです。そしてシグマはここ数年、3600万画素以上の解像度でも耐えられるレンズを開発してきました。これは動画にすると8Kに相当します。既存のシネレンズはここまでの解像度は持っていないので、最高性能のシネレンズを手ごろな価格で提供できるのではないかと考えました。
シグマのシネレンズ18-35mm T2は18-35mm F1.8レンズにギアを取り付けた形になる。スーパー35サイズをカバーし、18-35mmをズームするのに350℃の回転角を持ち、精密な操作を可能にしている。
―:シネレンズのシェア目標はありますか。
山木:ありません。今はこの市場がどのように成長していくか見守っている段階です。もちろんこうなってほしいという夢はありますけど、現実はそうではないですから。
編集後記
山木氏と話をするのをいつも楽しみにしている。その理由の一つはもちろん、インタビューをするときは、ほとんどが新製品の発表直後だからだ。しかし、最も大きな理由は、単にシグマのCEOが素晴らしい人物だからだ。公正で、包み隠さず、シグマの計画や将来について率直に話してくれる。山木氏はカメラ業界ではライバル企業からも敬意を持たれている。
ライバル企業といえば、新製品の14mm F1.8は既存のレンズの性能に飽き足らないユーザーからの強い要望に応えるために開発したように感じた。シグマは広角レンズの開発に長い歴史を持っている。新しい14mmやその前の12-24mmはシグマからの自信を持った回答である。もし、14mmが山木氏の言うような高性能なレンズだとしたら(そして、シグマのアートシリーズの性能が期待外れだったことはほとんどないことから)このレンズは風景、建築、そして星景写真の分野で基準となるだろう。当サイトで近々サンプルをお目にかけることができると期待している。
もう一つ興味深かったのは、シグマが安価なシネレンズ市場に参入したことだ。今の時点では、シグマはキヤノンのシネマイオスレンズのような製品と戦おうとはしていない。シグマは(フジと同様に)ミラーレスカメラを使っているような新世代のビデオグラファー向けに製品を作っている。シグマのシネレンズは静止画向けに設計されたものにもかかわらず、性能はトップクラスだ。しかし、報道や映画といった専門家からは、焦点距離を変えたときのピント面のズレなどが問題となると聞いたことがある。ハイエンドのシネレンズが数百万円もするのには、それなりの理由があるのだ。
シグマの次の製品はどのようなものになるのだろうか。山木氏がさらに広角のレンズを開発しているとしても驚かない。新型の24-70mmも出たので、これに続く70-200mmの新型が近い将来発売になるかもしれない。
フォトキナ2016 山木社長プレゼンテーション(その2)
次に紹介するレンズは500mm F4 DG OS HSM Sportsです。
このレンズは本物のプロ用機材として開発をしました。そして、その目標は達成できたと思っています。
光学性能はほとんど完璧と言っていいレベルです。
(歓声)
このレンズは防塵防滴で、できるだけ軽くなるように鏡筒にはマグネシウムを採用しています。
この図の青い部分にマグネシウムを使用しています。
このレンズはプロ写真家の使用に応えるために、多くの機能を備えています。このようなレンズを発売できることに、私はとても誇りを持っています。
最後に紹介するのは85mm F1.4 DG HSM Artです(歓声)。
皆さんご存知のように、このスペックで最高のレンズはカールツァイスのOtusです。
私たちはこのレンズにとても大きな敬意を払っています。新しいレンズの光学性能はこのレンズを基準に開発を行っています。
Otusは素晴らしいレンズですが、マニュアルフォーカスしか使えません。つまり、これも繰り返しになりますが、非常に限られた人しかこの素晴らしい性能を楽しめないのです。
私たちの目標は、最低でもOtsuと同等の高性能なレンズを、オートフォーカス付きで提供することです。そして、私たちはこれを実現できたと思っています。
光学性能は申し分なく、ボケも非常に滑らかです。できるだけ早く皆様にこのレンズを体験してほしいと思います。
発売は2016年11月です。価格は未定ですが、Otusの半額以下で提供できるのではと思います。
最後に、ここでシグマの新しいラインであるシネレンズについて発表できることをとても光栄に思います。
2週間前にアムステルダムで開かれたIBCで、私たちは新しいシネレンズを合計8本発表しました。
3本のズームレンズと、5本の単焦点レンズです。
シネレンズのコンセプトは「100%継続・100%新規」です。これは少し不思議に聞こえるかもしれませんので、ここで紹介をしたいと思います。
シグマのシネレンズはいわゆる「換装」レンズです。既存のアートレンズをシネレンズに合うよう、部品を換装しました。つまり、レンズも内部の鏡室も、全てアートレンズと100%同じものを使用しています。この結果、アートレンズの高い光学性能をそのまま継続することができました。
しかし、シネレンズはそれ以外の機械部分を全て変更しました。
いわゆる普通の換装レンズは、ギア付きのリングにするなどの、少し表面を変えたものばかりです。しかし、本当のプロ用の機材を作るために、光学部分以外の全ての部品を新規に開発することにしました。これがもう一つの100%です。
「100%継続・100%新規」というのは、高い光学性能を100%維持しつつ、100%新規の部品を使うということです。これがシグマ・シネレンズの基本的な考え方になります。これによって、プロ用のシネレンズを非常に手に取りやすい価格で提供することが可能になりました。これが私たちが最終的に目指したことです。
ここでシネレンズの特徴をいくつかご紹介したいと思います。
第一に、シグマ・シネレンズは一揃いのセットである、ということです。
シネレンズには3つの製品ラインがあります。
18-35mm T2や50-100mm T2を含む、大口径ズームライン
24-35mm T2.2を含む、フルサイズズームライン
20mm T1.5、24mm T1.5,、35mm T1.5、50mm T1.5、そして、85mm T1.5を含む、フルサイズ用大口径単焦点レンズライン
私たちはこれらのフルラインナップをシネレンズと同時に発表することができました。さらに、これらのレンズは他のメーカーにはない、革新的なレンズです。
T2のズームレンズをこの価格・サイズで販売している会社は他にありません。
T2.2のフルサイズ用ズームレンズを販売している会社はありません。
T1.5のフルサイズ用単焦点レンズのセットを販売してる会社は他にありません。
シグマは他にはないスペックのシネレンズを揃えています。
また、皆さんご存知のように、アートシリーズはとても解像度が高いです。したがって、6kから8kの動画を撮影するのにも十分な性能を持っています。
今回のシネレンズでは動画用に適した、頑丈な鏡筒を採用しています。ほとんどの部品は金属でできています。
シネレンズは、フォローフォーカスを使用することができます。フォーカスリングには歯車がついています。
さらに、絞りリング、フォーカスリング、ズームリングの3つは、同じ位置に設定してあります。
したがって、シネマトグラファーは装置の設定を変えることなく、レンズを交換することが可能になります。レンズは防塵防滴性能を備えていますので、砂漠やとても暑い場所でも使用することができます。
シネレンズの発売日・価格は未定です。
ご清聴ありがとうございました。
元動画
フォトキナ2016 山木社長プレゼンテーション(その1)
本日はお忙しい中お集まりいただきまして大変ありがとうございます。シグマを代表して篤くお礼申し上げます。ありがとうございました。
今日のプレゼンテーションでは3つのことについてお話させていただきます。まず最初に現在シグマが置かれている経済状況について説明いたします。次に、今回フォトキナで発表した3つの新製品について説明をします。最後に私たちの新しい製品ラインであるシネレンズについて説明したいと思います。
さて、始めましょう。
これはここ4~5年間の交換レンズ市場のグラフです。ご存知のように、交換レンズ市場は依然として縮小を続けています。もし今の状況が今年の年末まで続けば、市場規模は2012年と比べて40%減少するだろうと予測しています。
覚えていらっしゃる方もおられるかもしれませんが、シグマは4年前、2012年のフォトキナでアート・スポーツ・コンテンポラリーの新ラインを発表しました。この新ラインの成功のおかげで、我が社の売上高は2012年比で27%上昇しました。イエイ!(拍手)
実際には、私たちがこのような成功を収められたのは、今晩ここにおられる方々のサポートがあったからだと思っています。どうもありがとうございました。
もう一つの理由は、私たちが革新的な製品を作ってきたからです。そのうちの製品のいくつかは、私たちの成長の助けとなりました。私は「革新」こそが、現在のような厳しい経済状況に打ち勝つ唯一の方法だと強く信じています。
昨年発表した、革新的な製品のいくつかをここでご紹介しようと思います。
まずは24-35mm F2 DG HSM Artです。これは世界初のフルサイズ用F2ズームレンズです。
20mm F1.4 DG HSM Art。これも世界初の20mmでF1.4を達成したレンズです。
50-100mm F1.8 DC HSM Art。中望遠のF1.8ズームレンズです。このスペックのレンズも世界初となります。
これらはシグマの革新的な製品のうちの一部でしかありません。しかし、私はこれらの製品が、カメラ市場で新しい需要を作り出したと信じています。
これは中国の方々にとって奇妙に映るようで、どうしてシグマだけがこのような革新的な製品を作れるのか不思議だそうです。そして、彼らはシグマを「黒魔術使い」の会社だと呼ぶようになりました(笑)
個人的にこういうのは大好きなんですが(笑)、皆さんご存知のように私たちは黒魔術使いの集団ではありません。実際にシグマにいるのは野心的なエンジニアと、熱心な職人なのです。
シグマの研究開発部門にいるエンジニアと会津工場にいる職人は、互いに協力して、こういった革新的な製品を作るために、ずっと熱心に仕事をしてきました。今後もカメラ市場の一助になるような、あるいはより活性化させるような製品を作っていきたいと思います。
さて、ここでフォトキナで発表した3つのレンズについてお話します。
最初は12-24mm F4 DG HSM Artです。
それ以降、シグマは最も広角なズームレンズを発売する会社であり続けました。
その後も、18-35mm、17-35mm、15-30mm、と発売していき、2003年には最初の12-24mmの広角ズームレンズを発売しました。
私がこのニュースを初めて聞いたとき、「マジかよ!」と思わず口に出してしまいました(笑)。なぜなら、私たちはすでに今回の12-24mmの開発を始めてしまっていたからです。正直に言うと、キヤノンは素晴らしいレンズを開発したと思います。性能も品質も素晴らしいです。キヤノンはものすごい製品を作りました。
しかし、このレンズの弱点は値段です。この値段では限られたプロ写真家くらいしか、レンズを手に入れることができないでしょう。
私たちの記録は破られてしまいましたが、すでに進めていた開発を止めることはしませんでした。その代わりに、当初掲げていた目標を達成することに集中しました。
当初の目標とは、「最高の品質を、手に取りやすい価格で提供する」ということです。そうすれば、より多くの人が超広角の写真を楽しむことができるようになります。
この困難な目標を達成するために、私たちは大口径グラスモールド非球面レンズを開発しました。
高画質な広角レンズを製造するためには、非球面レンズの生産が鍵となります。キヤノンも11-24mmに大口径の非球面レンズを採用しています。しかし、キヤノンはレンズの生産にいわゆる「研磨技術」を使っています。これは文字通りレンズを一枚一枚研磨して、非球面を作っていく作業です。研磨は大口径の非球面レンズを生産するのに以前から行われている方式です。
しかし、シグマも同じようにレンズを研磨したら、生産コストを下げることは不可能になります。私たちの目標は大口径非球面を低コストで生産することです。そのために、新しく大口径の非球面レンズをグラスモールド(レンズを加熱して金型にプレスする方式)で生産する技術を確立しました。
グラスモールドそれ自体は、非球面レンズを安価に生産する手段として非常に優れているのですが、これまでは小さなレンズしか生産することはできませんでした。
この図の右端のレンズが、今回の12-24mmで採用した非球面レンズです。実際の口径は82mmになります。中央のレンズは20mm F1.4で使用している非球面レンズです。このレンズは現在市場に出回っているグラスモールドの非球面のうちで、最も大きなものの一つです。見てわかるように、新しい非球面レンズはそれまでのレンズと比較して非常に大きくなっています。これは成形技術としては大きな飛躍となるものです。
このレンズのために、実はかなり大きな投資をしました。なぜなら、将来的には研磨方式ではなく、グラスモールドが非球面レンズの生産の中心になっていくと確信しているからです。将来を見据えて、今回の開発を行いました。
この新しい非球面のお陰で、レンズの性能自体も非常に高い物になりました。MTF値はとても高く、歪曲はほとんどありません。
レンズの発売は2016年の10月を予定しています。価格は未定ですが、より多くの人が広角レンズを楽しめるようになると思います。
元動画
SIGMA CEOインタビュー(その4)
Q:キヤノンがシグマを買収するのではという噂がありました。これは本当なのでしょうか?
A:噂についてコメントをすることはできません。そういったビジネスに関する噂はなおさらです。私たちは非上場企業ですから別に良いんですけど、あちらは上場企業です。なので、株価に影響を与えそうな発言は慎みたいと思います。
A:そういうことでしたら、このインタビューの後でソニーのCEOに電話して、フォビオンを勧めておいてくれませんか?(笑)
個人的なことについて
Q:会社の経営に関して、あなたとあなたの父とで何か違いはありますか?
A:似たようなものだと思いますよ。父も自分のオフィスを持っていませんでしたし。実際、父の机は今でも技術部の真ん中に置いたままです。私の小さな机の隣にあります。父の机は在任していた時のままです。父も同じようにエンジニアとよく話をしていました。
ただ、父のほうが先見の明があったし、アイデアも豊富でした。私よりもはるかに強力なリーダーシップがありましたね。私はそんなに押しの強いリーダーではありませんし、あんなカリスマもありません。私は本当に普通の人間なんです。なので、エンジニアからの助けがたくさん必要です。助けを得るために、彼らの熱意や創造力、発想力を発揮できるような環境を作る必要があります。エンジニアを本当に頼りにしています。
Q:あなたの父は工学を専攻していたのですか?
A:そうです。父の専攻は電子工学です。しかし、彼が27歳で会社を創業した時には、必要な知識は全て持っていました。光学や機械については、専門の電子よりも詳しかったくらいです。彼は創業前に別の会社で働いていた時に、それらの知識を身に付けました。
Q:ではあなたの専攻は何なのですか?
A:経営学です。そして、入社後に機械設計部の責任者に任命されました(笑)
Q:でも、技術について何も知識がないのに、どうやってエンジニアを率いることができるのですか?
A:たぶん、みんな優しかったんです。最初は彼らが何を話しているのかさえわかりませんでした。しかし、皆が私にもわかるような方法で説明をしてくれました。そこのエンジニアからはたくさんのことを学びました。実際はわずか1年半しかその部署にいなかったんですけど。
Q:シグマのCEOとして最も難しい仕事は何ですか?
A:難しいですか?とりあえず従業員はみんな私を助けてくれます。社員や取引先から助けてもらえるので、私はとても恵まれていると思います。仕事はとても楽しいですよ。
Q:会社にはあなたよりも年配の従業員が多いのですか?
A:いやいやいや、私も結構な年齢です。ほとんどの社員は私よりも若いです。
Q:あなたの父からCEOであることについて何か学んだのですか?
A:そうですね。私が小さい時から父は「お前が会社を引き継ぎなさい」と言っていました。しかも、私の家は本社の最上階にありましたから。家を出て帰ってくる度に社員を顔を合わせて、おしゃべりをしていました。
Q:ということは、小さい時から会社を引き継ぐということをわかっていたのですか?
A:父が私に引き継いで欲しがっていることは知っていました。ただ、その能力はないと思っていたんですよ。そんなに賢い方ではなかったし、父のような強いリーダーシップもありませんでしたから。
Q:あなたの父に会社を継ぐことについて反論したりはしなかったのですか?そんな能力はない、と言ってみたりとか。
A:父はとても強い人だったので、そんなことは言えませんでした。会社を継ぐことについてはいつも母に相談していました。母はいつも「あなたの人生なのだから、あなたが自分で決めなさい」と言っていました。
Q:会社に入ったのはいつですか?
A:学校を出てすぐです。
Q:将来シグマを継ぐ準備のためにですか?
A:そうです。最初は別の大企業に入って、仕事のやり方を勉強しようと思っていたんですよ。けれども、大学の教授が卒業したらすぐにシグマに入ったほうが良いとアドバイスをしてくれました。その教授は元々民間企業で何年も働いていて、そのあとで大学教授になった方なんですけど、日本の企業文化について詳しかったんです。
例えば別の会社で10年やってプロジェクトリーダーみたいな肩書でシグマに入ったとすると、従業員は私を受け入れないかもしれません。私は創業者の息子という理由だけで帰ってきたとみなされるわけです。日本ではチームを作って感情を共有し、一緒に働くということが非常に大きな意味を持ちます。社員の理解を得て、チームを作ることを理解するには、若いうちに会社に入って一緒に働く方が良いんです。そうやって社員は私を受け入れて、リーダーとして認識してくれます。これがその教授からのアドバイスだったのですが、今思うと彼は正しかったですね。
Q:ということは、社員は皆、あなたがいずれは会社を継ぐということをわかっていたのですか?
A:うーん、そうだと思います、たぶん。会社に入る前から、たくさんの社員とはずっと知り合いだったんです。なにせ本社の上に家があったので、私も彼らを家族の一員のように感じていました。しかし、お互いをよく知っていることと、リーダーとして認められることは全く別の話です。創業者の息子が会社を継ぐだけでは、その人を尊敬するかどうかわかりませんから。なので、まずは同僚として受け入れてもらうことが大事でした。
Q:社員はあなたのことをどのように考えているのですか?
A:わかりません。電話して聞いてみてください(笑)。良いことを言って欲しいですけど、わからないですね。
Q:あなたの父は厳しい人でしたか?社員がミスをしたら怒るようなことがあったのでしょうか?あなたも厳しいのですか?
A:父はとても厳しかったです。彼は典型的な日本のエンジニアであり創業者だったと思います。社員がミスをすると怒ることもありました。それに対して私はとても気楽です。私があまりにも気軽なので、年配の社員の中には戸惑う人もいました。そういう社員は私にもっと厳しくするように、もっと威厳を持って振る舞うように言ってきます。でも、私はそういう性格ではないんですよ。なので、今でも肩肘張らずに冗談ばかり言っています。中には企業のトップとしてふさわしくないので、態度を変えるように言ってくる人もいるんですけど、単純にできないものはできないんですよね。
Q:あなたは自分の息子や娘に会社を継ぐことについて話をしていますか?
A:個人的にはしていません。私たちはもう本社の最上階に住んでいませんしね(笑)ただ、親戚の集まりなどで、誰かが息子にそういう話はしたみたいです。けれども、それが彼のプレッシャーになってほしくはないです。まだ12歳ですから。
Q:でも、あなたが12歳の時には既に父から会社を継ぐことは聞かされていたのですよね?
A:そうですね、もっと早かったです。確か6歳か7歳の時でした。最初は真面目に考えていなかったんですけど、時間が経つにつれて、とても大変で困難なことだとわかりました。私が13歳か14歳の時には、本当に会社を継ぐことが嫌でした。
Q:小さい時からあなたの父はずっと働いていたのですか?
A:そうです。朝から晩まで、平日も週末もです。基本的に365日ずっと仕事をしていました。
Q:そろそろインタビューの終わりに近づいてきました。台湾のユーザーに対して何か伝えておきたいことはありますか?
A:まずは、震災の援助をしていただいたことにお礼を申し上げたいと思います。台湾の方々が最も多くの寄付を日本にしてくれたと記憶しています。主に台湾からの寄付によって、津波被害を受けた病院を再建することが出来ました。日本人の一人として、台湾の人々の援助に厚く御礼を申し上げます。
また、台湾のユーザーにはシグマの製品をサポートしていただいてとても感謝しています。たくさんの台湾の方々にシグマの製品をご購入いただいています。製品を楽しく使ってもらうことは私たちのビジネスの基礎ですし、また大きなモチベーションでもあります。台湾のユーザーにはいつも感謝しています。
SIGMA CEOインタビュー(その3)
Q:シグマの製品にはプロジェクト名のようなものはあるのですか?
A:CEOになる前に数年間試してみたことがあります。私がそれぞれの製品にプロジェクト名を付けていったんですよ。個人的に音楽がとても好きなので、ミュージシャンの名前を使いました。最初は良かったんですが、時間が経つにつれてプロジェクト名がたくさんありすぎて、エンジニアが混乱してしまったのですね。どのプロジェクト名がどの製品を指すのかわからなくなってしまった(笑)。不評だったので、結局それ以前のコードナンバーで呼ぶ方法に戻りました。
Q:どんな名前だったのか例を挙げてもらえますか?
A:クラシックだとバッハ、ロックバンドのオアシス、SD10はアズテックでした。これはスコットランドのアズテック・カメラという、あまり知られてないんですけど、私の大好きなバンドです。80年代には有名だったんですけどね。アントニオというプロジェクトもあって、これはアントニオ・カルロス・ジョビンというブラジルのボサノバミュージシャンから取りました。私が大好きなんですよ。
カメラについて
Q:dp0 Quattroは発売されたのにDP0 Merrillが発売されなかったのはなぜですか?
A:ユーザーの要望が大きかったからです。Merrillシリーズを発売していた頃から、DP1 Merrillの広角バージョンを作って欲しいという声がありましたけど、その当時は無茶だと思っていました。そんなに売れるはずはないと。ものすごくマイナーな製品になります。正直に言うと、開発計画を一度却下したんですよ。発売が可能かどうか社内で議論して、販売台数はごく僅かだろうと考え、断念しました。
けれども、Quattroシリーズを発売してからも要望は途絶えませんでした。私はよくSIGMAユーザーの集まりに参加します。日本や中国、アメリカにはよく行きますし、2ヶ月前はマレーシアのユーザーの集まりにも参加しました。どこへ行ってもみんなdp0を欲しがるんですね。最終的に私も降参して、ユーザーのためにdp0を作ることに決めました。ただこれは、私が欲しかったというのもあるんです。私自身dpシリーズを使っていて、dp1を使っている時にもう少し広角があればと思うことがありました。dpシリーズはとても高解像ですから、広角写真には向いてるんですね。なので、実は私自身もdp0を作りたかったんです(笑)
Q:それで、結局dp0の売上はどうなんですか?
A:あまり売れません(笑)というか、そもそもdpシリーズはそんなに売れるカメラではないですから。ただ、私たちの予測よりは多く売れました。なので、今は満足しています!
Q:一番売れているのはどのモデルなのですか?
A:dp2です。これが一番売れています。他のdpシリーズと比べても1.5倍は売れますね。
Q:MerrillとQuattroではどちらが売れているのですか?
A:台数で言うとMerrillです。製造の終わりの方で値段を大きく下げたので、かなりの数が売れました。
Q:dp Quattroになって、ユーザーはデザインに衝撃を受けたりしませんでしたか?どのようなリアクションでしたか?
A:そうですね・・・一部にものすごく嫌ってるユーザーがいます。概ね好評ですけど。
Q:次のdpシリーズではまたデザインを変更する予定なのですか?
A:わかりません。まだ次のは話し合ってもいないんですよ。
市場について
Q:ユーザーの要望はどのように知るのですか?
A:ネットの書き込みをよく見ています。自分で書いたりはしないんですけど。そういうのを読みながら何が求められているのか推測します。
Q:このインタビューの2週間前に、台湾の読者に質問や要望を募集しました。こんな製品が欲しいようです。
ソニーFE用アートレンズ
24-70mm F2.8 Art
85mm Art
135mm Art
フォビオンミラーレスカメラ
M4/3用レンズをもっと
A:135mmは珍しいですね。他のものはよく聞く要望です。
A:ソニーはセンサーの開発技術を持っていますから、私たちからしてもソニーが写真産業で主要なメーカーになっていくのは当然だと思います。製品の差別化にはセンサーとレンズが何よりも重要ですから。他の要素はどのメーカーでも持っているんですよ。カメラ産業で将来的に生き残っていくのは、センサーとレンズの開発技術のある会社だと思います。私たちがフォビオンを買収して技術を確保しているのはそれが理由です。
A:個人的にそれらの企業の内情に詳しいわけではないんですけど、キヤノンとニコンにはたくさんのユーザーがいて、その中にはプロの写真家もいます。プロは写真で食べていますから、信頼できる、動作の安定した機器が何よりも重要なんです。キヤノンもニコンもそういうユーザーを無視して新しい技術に飛びつくわけには行かないのではないでしょうか。なので、その二つの企業は両肩に大きな責任を背負っていると思います。特にオリンピックを撮るようなプロは1枚もミスしてはいけないんですよ。あるいは戦場ジャーナリストもカメラが信頼できるかどうかが何よりも大事です。
A:何があってもおかしくはないと思います。ただ、他の企業について何かコメントをする立場にはありません。皆さん一生懸命未来のために働いていますから、将来的にはあらゆる可能性があると思います。
Q:携帯電話のカメラについてはどのように考えていますか?カメラを使って写真を撮る人が減ってしまうので、携帯電話の普及がプレッシャーになったりするのですか?
A:私たちのユーザーはプロや写真愛好家です。彼らは一眼レフやミラーレスといった高性能な機器を必要としていますから、スマートフォンにはあまり影響されません。実際、こういった人たちは多くのカメラを使います。プロでもスマホ、コンデジ、一眼レフ、ミラーレスを使い分けている人がいます。こういう人たちは高性能なカメラを捨てたりはしないので、私たちのビジネスがスマホに影響を受けるとは思っていません。
また、多くの人がスマホで写真を撮るのは良いことだと思います。そこから写真に興味が出て、良いカメラやレンズを買おうとするかもしれないですから。そういう意味で私たちにとっても好機だと思います。
Q:台湾のマーケットと、他の国の違いは何かありますか?
A:台湾のユーザーは新製品にすぐに反応しますね。アメリカや中国のみならず日本よりも反応が早いです。世界でも台湾が一番反応が早いのではないかと思います。新製品が発売されるとすぐ、台湾の人たちはそれを買い求めます。また、台湾の人は品質をとても重視します。値段よりも品質のほうが大事ですね。台湾のマーケットはとても洗練されていると思いますよ。
Q:各国のマーケットでそれぞれゴールを設定しているのですか?
A:特に決まったゴールはありません。私たちのゴールは写真愛好家やプロの写真家に受け入れてもらうことですけど、これは日本やアメリカ、中国だけではなく、台湾もそうだし、世界中すべての国で言えることです。「受け入れてもらう」というのもちょっと古い言い方ですけど、私たちは製品の品質には細心の注意を払っていますから、受け入れてもらうことはとても大事なことです。
A:とても興味深いですね。そして、新しい技術が導入されることは産業全体にとっても良いことだと思います。写真ができることが何なのか示すことはとても重要だと思います。ただ、同時に考えなくてはならないことは、それを使うことでユーザーにどのようなメリットがあるのか、ということです。ユーザーにとってあまりメリットがなければ、技術が素晴らしくても受け入れられませんから。なので、新しい技術を使うことでユーザーにどんなメリットがあるのか、私達は常に考えなくてはならないと思います。
Q:dpシリーズの画質は最高レベルだと思いますが、高感度性能はもっと向上して欲しいです。また、SIGMA Photo Proの動作速度も、もっと速くなって欲しいですね。
A:高感度性能が大きな課題であることは、私たちも認識しています。性能の向上には常に取り組んでいますし、努力を継続しています。しかし、フォビオンの開発にはどうしても優先順位が出てきます。
Q:ハッセルブラッドにはマルチショットという技術があります。これは異なった色ごとにシャッターを切って後で合成するものです。フォビオンは撮影が一回で済むので、この技術よりも優れていると私は思います。どうしてフォビオンの中判を作らないのでしょうか?フォビオンは間違いなく高品質な画像を作ることが出来ます。キヤノンやニコン、ソニーといった大企業が長年競争を続けているような市場に、あえて飛び込む必要はないのではないですか?プロ用の機材では高感度のノイズは大きな問題になりません。中判の可能性について考えたことはありますか?
A:もちろんです!当然です!以前8x10のフィルムで撮られた写真を見たことがあるのですが、非常に感銘を受けました。私の夢の一つは、シグマのカメラがあのような高画質の写真を撮れるようになることなんです。中判には個人的にも大きな関心があります。
けれども、今の時点でフォビオンの中判を検討したことはありません。そもそも、中判カメラを作ろうとすると、システム全体をゼロから作らなければならないんです。センサー、カメラ、レンズ、その他付属品・・・。それを揃えるのには大変時間がかかります。しかも残念なことに、私たちから見ても中判の販売台数は非常に少ないんですよ。なので、そこに参入することは出来ません。
Q:中判カメラの売上はdpシリーズよりも少ないのですか?
A:良い質問ですね(笑)!知りません!素晴らしい質問です!
Q:私自身、フォビオンの性能がもっと向上して欲しいと思っています。
A:ベイヤーセンサーはフォビオンよりも遥かに長い歴史があるんです。更に多くの企業が参入して、性能の向上に貢献しています。フォビオンはシグマだけで開発を続けていますから、ベイヤーセンサーと比べて進歩が遅く感じられるかもしれません。ただ、今後も更に性能が上がっていくと思っています。
Q:他の企業と協力してフォビオンの開発をすることを考えたことはないのですか?
A:私達はいつもドアは開けたままにしてあるんですけどね。入ってくる企業が一つもないんですよ。
SIGMA CEOインタビュー(その2)
Q:欲しい人材はどのようにして採用するのですか?
A:やり方はとても普通ですよ。採用情報サイトに募集を出します。基本的に大卒を採用します。日本のトップ層の大学の学生を採用できているので、私達はとても恵まれていると思います。自分でカメラやレンズを作りたいと思う学生はシグマに来るんです。他の大企業に行ってしまうと、オフィス機器や家電製品の部署に配置されてしまう可能性もありますから。シグマに来ればカメラとレンズしかありません。そういう熱意のある学生を採用できているのでとても助かっています。
Q:学生ですか?インターンシップのことですか?
A:日本ではインターンシップはあまり一般的ではないんです。大学生が4年生の時に面接をして、卒業後に採用するという約束をします。日本ではこれが普通のやり方です。
Q:どのような性格の従業員が一番必要ですか?
A:特にこれといったものはエンジニアには求めていません。なぜなら、様々なタイプの従業員が必要だからです。例えば、会社にはとても優秀で独創的なエンジニアが必要です。そういう人たちが革新的な製品や優れた製品を開発するからです。
しかし、全てのエンジニアが独創的だと、会社にとってはあまり良くないんです。なぜなら、製品の開発には地味な作業ができるエンジニアも必要だからです。デザインの細部、データのやり取り、製図、レンズ配置を詰めていって、それからプロトタイプを作り、性能を確かめる。これらの工程には非常に長い時間がかかります。こういった作業は独創的なエンジニアがする仕事ではありません。そういうエンジニアは常に新しい物を作りたがるんです。製品を仕上げて販売にまで持って行くには別のエンジニアの助けがいります。
もし会社に独創的なエンジニアしかいなかったら、製品を販売することはできなくなります。なので、会社には様々なタイプのエンジニアが必要です。最高の人材はどのような人か、とは言えません。チームワークが何よりも大事なんです。
Q:会社にエンジニアは何人いるのですか?
A:どういう人を「エンジニア」と呼ぶかでも変わるのですが、本社には170から180人のエンジニアがいます。これは本社に勤務している全従業員の80%になります。
Q:以前キヤノンの方に新卒から始めてレンズ作りの達人になるまでどれくらいの年数が必要なのか尋ねたことがあります。答えは30年でした。シグマも同じくらいなのでしょうか?
A:シグマにはそういうマイスター制度みたいなものはありませんが、30年以上レンズ作りをしている社員は何人もいます。ただ、何をもって「達人」とするかで意味合いは変わると思います。例えば、経験のある社員はとても重要ですけど、大量生産の現場に「達人」は必要ないんですね。それよりも生産方法を開発できる社員が重要になります。試作品が完成すると、設計図を見て、ガラスの素材を調べます。そして、最適な研磨方法を考え、その後で製造ラインでレンズを研磨する方法を考えます。
製造ラインではデータをセットして機械で研磨します。これは自動で動作しますから、プログラムさえセットすれば普通の人でもレンズの研磨作業ができるんですよ。大量生産することを前提にすると、おそらく5年ほどで研磨技術に必要な知識は身につくと思います。そのような社員は厳密には「達人」ではないですけど、研磨に必要な知識はありますし、状況に対応する能力もあります。
Q:本当の意味での「達人」はシグマに何人くらいいるのですか?
A:そんなにたくさんはいません。少ないですね。経験豊富な達人となると、10人以下だと思います。しかし、工場の生産ラインには経験のある社員がたくさんいます。生産現場を管理してる社員は最低でも5年の経験がありますし、10年から20年のベテランもいます。彼らが主に品質を管理していて、そういう社員がたくさんいます。
Q:社員の昇進制度はあるのですか?毎年試験を受けるといったものです。
A:似たような制度はありますね。どのような仕事をしているのかにもよりますけど。
レンズについて
Q:私たちはつい先日20mm F1.4のテスト記事を書いたばかりなのですが、そもそもどうして20mm F1.4にしようと思ったのですか?というのも、高性能な広角レンズの24mm F1.4が出たばかりだったので、多くの人は次のレンズは85mm F1.4や24-70mm F2.8になるだろうと予測していたからです。けれども実際に発売されたのは20mm F1.4です。なぜですか?
A:単に優先順位の問題です。次が何かはお話できないんですけど、基本的には既存のラインナップを全て新しいレンズに置き換える予定です。かつてシグマには20mm F1.8というレンズがありましたから、それを更新する必要がありました。また、更新する時に前のモデルと同じスペックというのは面白くないですし、そもそも20mm F1.4というスペックのレンズは世の中になかったんです。私たちは「世界初」の製品を作るのが好きなんですよ。
Q:私たちの記事ではいつも、「シグマは変態企業」だと書いています。今までにない、例えば18-35mm F1.8のようなレンズを作ってしまうからです。どうして、こういったレンズを作ろうとするのですか?こういう独特のレンズを作ろうとする動機は何なのでしょうか?
A:まず、さっきも話したように、私たちは「世界初」が好きです。これが第一の理由ですね。こういった新しい製品を発売していくことで、レンズやカメラの市場が発展していくと信じています。もし、昔からのスペックに留まってしまったら、みんな飽きてしまうと思うんです。レンズ産業の可能性を、私たちが切り開いていけると思っています。常に新しい物、革新的なものを追求し続ける。これが私たちのモチベーションになります。そのような意味で、写真産業や写真文化にも貢献できるのではないかと考えています。
Q:最も売れ行きの良いレンズは何ですか?トップ3を教えて下さい。
A:販売本数でいったら次の3つですね。
1位 18-250mm F3.5-6.3 DC Macro OS
2位 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM
3位 70-300mm F4-5.6 DG Macro
売上だと、次の3つになります。
1位 Contemporary/Sports 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM
2位 Art 35mm F1.4 DG HSM
3位 Art 50mm F1.4 DG HSM
18-250mm F3.5-6.3が一番数が出てるのは、高倍率ズームは基本的によく売れるからです。単焦点はそもそも需要が少ないですね。
Q:しかし、市場での売れ行きを考える必要があるのなら、どうしてアートシリーズをラインナップの中心に置いているのですか?
A:そもそも、高品質の製品を作ってユーザーに喜んでもらうことが私たちのモチベーションです。だからアートシリーズを作ろうと思いました。また、現実的な理由もあって、私たちは今でも日本で生産を行っていますから、製造コストは高いです。なので、高倍率ズームのような売れ筋商品では、あまり利益が出ないんです。単焦点や10-600mmなどのニッチな商品を作っていかなければなりません。
Q:高倍率ズームはどうしてF6.3まで暗くなるのですか?F5.6やF4で作ることは出来ないのですか?
A:それはレンズを小さく作る必要があるからですね。明るくしようと思うとどうしてもサイズは大きくなってしまいます。旅行に行く時に巨大なレンズを持って行きたくはないですよね?
Q:サイズが小さくて明るいレンズというものが技術的に可能なら、そういうレンズを作ることはできるのですか?
A:基本的にレンズは今でも古典物理学の世界でできています。明るいレンズはサイズを大きくする必要があります。また、性能を高くしようと思ったらこれも大きくなる要因です。もちろん、可能な限り小さくするようにしていますけど。例えば20mm F1.4は小さくはないです。このレンズはとても大きな直径の非球面レンズを使っています。もしこのレンズを使わなかったら、もっとサイズが大きくなるところでした。非球面レンズのようなサイズの小型化に寄与する技術は、常に開発を続けています。
A:素晴らしい技術だと思います。ニコンは凄いことをやったなと思いますね。将来的に私たちもそういった技術を開発していきたいです。
Q:ニコンやツアイスはカメラ用のレンズの他にメガネのレンズを作っています。シグマも参入を検討したことはありますか?
A:ないですね。私たちはカメラとレンズに集中しています。また、カメラとメガネは必要な技術が少し違うんですよ。今持ってる技術でメガネ用レンズを作れるとは思いません。
Q:つい先日シグマはWRプロテクターを発表しました。この製品について詳しく教えてもらえますか?
A:WRフィルターはセラミックで出来ています。これは普通のガラスではありません。このフィルターの製造方法はこれまでのフィルターとは全く違うんです。普通のフィルターと比較すると、10倍の強度があります。強化ガラスを使ったフィルターよりも強度があります。値段は安くはないんですけど、20万、30万するようなレンズを使ってるユーザーからすると、厳しい状況でも耐えられる、信頼できるフィルターは必要なんです。
Q:このフィルターを開発するのにどれくらいの期間がかかりましたか?エンジニアにこういうものを作れと指示したのですか?
A:開発期間は1年位だと思います。実はガラス素材そのものは私たちが開発したものではありません。セラミックの中に透明なものがあるということは知っていたのですが、透過率が悪くてレンズには使えなかったんです。メーカーと協力して透過率を上げようとしたんですが、これに数ヶ月ほどかかりました。そして、フィルターとして使用可能なセラミックの開発に成功しました。それで製品化を決めたんです。
Q:シグマは自社でガラスを生産していないのですか?
A:してません。HOYAやオハラなどのメーカーから購入しています。