シグマCEOが24-70mm Art、14mm Art、シネレンズ、ソニー、野球について語る


―皆さんこんにちは。Gentec SIGMA Canadaのマイク・ラストです。今日はシグマCEOの山木和人氏にお話を聞くことができました。Gentec SIGMA Canadaへようこそ。お会いできて光栄です。
 
山木:ありがとうございます。
 
―ではさっそく始めましょう。シグマのアートシリーズは、ここカナダでも大きな成功を収めています。過去のシグマの製品から新しいグローバルビジョンシリーズに大きく飛躍するにあたって、いったいどのような考えがあったのでしょうか。
 
山木:新しい方針を決めるにあたって、シグマはどうやってカメラ産業や写真文化に貢献していくべきか、ずっと議論をしてきました。その結果、いわゆる普通のスペックのレンズを作ることが私たちの仕事ではないとの結論に至りました。というのも、ユーザーがそのようなレンズを選ぶときは、大手メーカー製のものを手にするからです。なので、私たちの仕事は、ありきたりではない、高性能なレンズを作ることだと考えました。シグマには優秀なエンジニアがいて、素晴らしい工場がありますから、高性能レンズを作ることが可能なのです。
 
24-70mm F2.8レンズは、ここカナダを始め、アメリカや世界各地で出荷が始まりました。このレンズの開発にはどれくらいの時間がかかったのですか?
 
山木:だいたい2年くらいです。
 
―最終的な製品になるまで、エンジニアはどれくらいの試作品を作るのでしょうか。レンズの形式や配置をいろいろ試したりするのですか?
 
山木:最初にレンズの形式をシミュレーションするのですが、その時点ではあらゆる組み合わせを試します。実際どのくらいのパターンを考えたのかはわかりません。しかし、いったんレンズの配置が決まり、試作品を作ると、そこから構成は変えません。
 
―その時点で24-70mmF2バージョンを試しましたか?
 
山木:今回は試していません。実は別のレンズでF2を試してみたことがあるのですが、その時は非常に困難だと判明し、最終的に中止しました。
 
―つい先日発売になった14mm F1.8 Artレンズが今ここにあるのですが、14mmF1.8というのは世界で初めてのスペックのレンズです。このようなレンズはどうやって製品化されるのですか?例えばエンジニアがあなたの所にやってきて、14mm F1.8を作りたいと言ってくるのか、それとも反対に山木さんがエンジニアの所に行って14mmを作れと言うのか、どのように決めているのでしょうか。
 
山木:これは元々、私とエンジニアが軽くおしゃべりをしていた時に思いついたものです。私は自分のオフィスを持っていません。エンジニアが働いているフロアに私の机があります。そこで、光学設計を担当しているエンジニアとよく世間話をしています。
 
かつてシグマは14mm F2.8というレンズを作っていたのですが、このレンズが生産停止になった後で、新しいバージョンの14mmレンズの需要があることがわかりました。なので、エンジニアに新しい14mmを作れないか聞いたのです。エンジニアは「できます」と言ったのですが、同じ14mmF2.8じゃつまらないよね、という話になりました。じゃあ、F1.8に挑戦してみようかということで、開発が始まったのです。
 
12-24mm F4 Artレンズでは、新しく大口径の非球面レンズを採用しました。これは14mm F1.8レンズにも使われている技術です。12-24mmを開発したときに、この非球面レンズが他のレンズにも応用できると考えていたのでしょうか?
 
山木:実際に12-24mm14mmに使っているのは同じレンズではありません。違うレンズです。しかし、その製造には同じ技術を使っています。12-24mmを開発していた時に、大口径非球面レンズを製造するための技術を新しく採用しました。この経験があったので、エンジニアは14mm F1.8を作ることが可能だとわかっていたのです。なので、同じ技術を使って14mm非球面レンズを開発しました。
 
―ということは、同じ技術を将来、新しいレンズにも採用していけるのでしょうか。
 
山木:はい。将来もっと高性能な広角レンズを作ることが可能になると思います。
 
―この100年でカメラの技術は大きく進歩しました。しかし、レンズそのものは100年前と比べてもそれほど変化していないように見えます。レンズの生産方式やコーティングなど、大きく変わったものもありますが、高性能でなおかつ小さくて軽いといった大きな革新はありません。レンズの将来についてどのようにお考えでしょうか。
 
山木:良い質問ですね。確かに本当の意味での革新的な技術というのはレンズにありません。理由の一つに、今でもガラスをレンズの素材として使っているということがあります。もちろん、他にもレンズに使われているものはありますが、今の時点でも光を通してイメージセンサーに届けるという意味ではガラスが最適な素材なのです。なので、ガラスを使い続ける以上は、既存の技術を使い続けなければなりません。
 
しかし、私たちは常により良い製品を作るために開発を続けています。将来は、もっと小さくて軽い、高性能なレンズを作ることができると考えています。
 
―シグマがシネレンズに参入したのはなぜでしょうか。
 
山木:そもそも以前から、多くの写真家や動画撮影者がシネレンズを作ったらどうかと話してくれていたのです。その後、18-35mm F1.8レンズを発売して、これは元々静止画用のレンズなのですが、動画で使う人が多くいることがわかりました。なので、これは需要があると判断して、シネレンズを開発しようと決断したのです。
 
―シグマのシネレンズは今後どうなっていくのでしょうか。もっと多くのラインアップが追加されていくのですか?
 
山木:はい、今の時点では10種類のシネレンズがありますが、将来はもっと拡充していく予定です。なので、ユーザーの方々には今後の新製品に期待してほしいですね。
 
―シネレンズでは縦長に圧縮して撮影し、上映時に拡大するシネマスコープでの撮影が主流ですが、シネマスコープを撮影できるアナモフィックレンズへの参入には大きな壁があります。多くのユーザーはアダプターを使ってシネマスコープに対応しているのが現状です。シグマは常に革新的な製品を開発してきた会社ですが、アナモフィックレンズへの参入も考えていますか?
 
山木:実はシネレンズの開発を発表してから、シネマスコープに対応したレンズを作って欲しいという要望が、多くのユーザーから寄せられています。現在はまだ研究段階なのですが、もし大きな需要があれば開発も考えたいと思います。
 
―先日シグマのシネレンズをカナダの映画製作会社に紹介する機会があり、大変盛況でした。シグマのシネレンズのみを使った映像作品で、何か気に入ったものはありますか。
 
山木:シネレンズを発売するにあたって、知り合いの作家に依頼して映像を作成しました。「Blur」という短編映画です。これはシグマのウェブサイトやYoutubeでも見ることができます。これが今のところ私が一番気に入っている作品です。
 
―シグマカナダはSigma ARTisan Seriesという、カナダの作家が制作した映像を集めたサイトを始めました。ご覧になられましたか?
 
山木:はい。とても気に入りました。ストーリーもいいし、映像も素晴らしいです。色、諧調、ボケ、BGM、とても良いと思います。
 
―作品のテーマである職人というのも、シグマや会津工場に通じるものがあります。すべてを自分たちで作っていく。
 
山木:そうですね。
 
―シグマカナダのSNSのフォロワーやユーザーからはEマウントレンズに対する要望が多いです。とりわけFEレンズですね。シグマにはMC-11があるので、これを使えばEマウントやFEマウントでも、多くの高性能なレンズを使うことができます。しかし、Eマウント専用のアートシリーズやコンテンポラリーシリーズのレンズはほとんどありません。
 
また、山木氏自身、ソニーのミラーレスを使っていると聞いたことがあります。将来的にEマウント専用レンズはどのようになっていくのでしょうか。
 
山木:私たちはEマウント専用のレンズをもっと増やしていく予定です。また、FEマウント専用のレンズも発売する予定です。MC-11を開発したのは、キヤノンソニー、あるいはシグマとソニーの両方を使っているユーザーのためです。将来的にも、このような複数のマウントを使い分けるユーザーはいると思います。
 
しかし、ソニーEマウントだけを使っているユーザーもいますから、Eマウント専用のレンズを開発しなければならないと思っています。
 
―それは、Eマウントに特化した、例えばより小さなFEマウント用レンズを設計するということでしょうか。現行の50mm F1.435mm F1.4をより小型にしたFEレンズのようなものも発売されるのでしょうか。
 
山木:具体的な製品についてはコメントできません(笑)現在は同じ設計で行くのか、Eマウント専用にするのか、どちらが良いのかを検討中です。
 
―山木氏がシグマのCEOになられてから5年になります。CEOになってからこれまで開発した中で、最も大きな達成や、最も誇りに思うような製品はありますか?
 
山木:35mm F1.4ですね。これはアートシリーズの最初のレンズです。新シリーズを発表するときは、実はとても不安でした。もしこれが成功しなければ、会社全体にとって大きな損失になってしまうのではないかと、大変心配しました。
 
しかし、幸運なことに、多くのユーザーがこのレンズを高く評価してくれました。新シリーズがユーザーに受け入れられたことがわかって、とてもほっとしました。
 
―もし5年前に戻れるとしたら、もう一度やり直したいことはありますか。
 
山木:良い質問ですね。正直わかりません。なぜならいろいろな物事を決めるのは私だけではないからです。経験のあるシグマの社員や、ここカナダのジェンテックといった長い付き合いのある取引先にも助けられてきました。シグマのエンジニアや社員、取引先、そのすべてがベストを尽くしてきたと思います。
 
―山木氏自身も写真撮影を楽しんでいると聞いています。いつも持ち歩いているのはどのようなカメラなのですか。
 
山木:普段はdp2 Quattroを使っています。sd Quattroも使いますね。
 
―個人的に好きな撮影方法や被写体はありますか。スナップや風景写真のような。
 
山木:個人的にスナップ写真が好きですね。もちろん、家族の写真を撮るのも大好きです。
 
―撮った写真をネットで共有したりしますか。それとも現像する時間もないのでしょうか。

山木:時々私のFacebookページに写真を上げたりしていますよ。でも、友達にしか公開していません。正直言って、写真はそんなに上手くないのですよ(笑)
 
―でも楽しんでやっているのですよね。
 
山木:そうです。
 
―それが一番大事です(笑)毎日訪問しているような写真サイトはありますか?
 
山木:dpreviewのような写真情報サイトはいつもチェックしていますね。また、個人的に噂サイトをチェックするのが大好きです。
 
―好きな写真家はいますか。
 
山木:いわゆるファインアート系の写真を見るのが好きですね。例えば、アーヴィング・ペン、アンドレアス・グルスキー、もう少し古い、フランスのジャンル―・シーフの作品。こういったファインアートの写真が好きです。
 
―カナダに来られたのは今回が2回目と聞いています。ここカナダで何かいい思い出はありますか。
 
山木:いろいろな人に会えるのはいつも楽しいですね。とりわけ取引のあるジェンテックの人と会って話をするのがとても楽しいですし、情報を共有したり、将来について話したりするので、とても良い経験をさせていただいています。
 
―山木氏は野球ファンだと聞きました。
 
山木:そうです。大好きですね。学生の時に野球をやっていたのですよ。
 
―そうなんですか。いつ頃されていたのですか?
 
山木:中学校の時に野球部に所属していました。
 
―ポジションはどこですか?
 
山木:ショートです。
 
―素晴らしい(笑)

では次にあげる二つのうち、どちらがいいかという質問をさせてください。簡潔にお答えください。
 
山木:わかりました。
 
単焦点とズーム、どちらが好きですか。
 
山木:単焦点
 
―広角か望遠か。
 
山木:広角が好きです。
 
―ビールか酒か。
 
山木:ワインです(笑)
 
―フィルムかデジタルか。
 
山木:良い質問です。うーん、デジタル。
 
―モノクロかカラーか。
 
山木:撮影するならカラー。見るならモノクロです。
 
―良い回答ですね。砂浜で過ごすか雪の日か。
 
山木:砂浜。
 
―質問は以上です。本日はありがとうございました。