SIGMA CEOインタビュー(その3)

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Q:シグマの製品にはプロジェクト名のようなものはあるのですか?

A:CEOになる前に数年間試してみたことがあります。私がそれぞれの製品にプロジェクト名を付けていったんですよ。個人的に音楽がとても好きなので、ミュージシャンの名前を使いました。最初は良かったんですが、時間が経つにつれてプロジェクト名がたくさんありすぎて、エンジニアが混乱してしまったのですね。どのプロジェクト名がどの製品を指すのかわからなくなってしまった(笑)。不評だったので、結局それ以前のコードナンバーで呼ぶ方法に戻りました。

Q:どんな名前だったのか例を挙げてもらえますか?

A:クラシックだとバッハ、ロックバンドのオアシス、SD10はアズテックでした。これはスコットランドのアズテック・カメラという、あまり知られてないんですけど、私の大好きなバンドです。80年代には有名だったんですけどね。アントニオというプロジェクトもあって、これはアントニオ・カルロス・ジョビンというブラジルのボサノバミュージシャンから取りました。私が大好きなんですよ。


カメラについて


Q:dp0 Quattroは発売されたのにDP0 Merrillが発売されなかったのはなぜですか? 

A:ユーザーの要望が大きかったからです。Merrillシリーズを発売していた頃から、DP1 Merrillの広角バージョンを作って欲しいという声がありましたけど、その当時は無茶だと思っていました。そんなに売れるはずはないと。ものすごくマイナーな製品になります。正直に言うと、開発計画を一度却下したんですよ。発売が可能かどうか社内で議論して、販売台数はごく僅かだろうと考え、断念しました。

けれども、Quattroシリーズを発売してからも要望は途絶えませんでした。私はよくSIGMAユーザーの集まりに参加します。日本や中国、アメリカにはよく行きますし、2ヶ月前はマレーシアのユーザーの集まりにも参加しました。どこへ行ってもみんなdp0を欲しがるんですね。最終的に私も降参して、ユーザーのためにdp0を作ることに決めました。ただこれは、私が欲しかったというのもあるんです。私自身dpシリーズを使っていて、dp1を使っている時にもう少し広角があればと思うことがありました。dpシリーズはとても高解像ですから、広角写真には向いてるんですね。なので、実は私自身もdp0を作りたかったんです(笑)

Q:それで、結局dp0の売上はどうなんですか?

A:あまり売れません(笑)というか、そもそもdpシリーズはそんなに売れるカメラではないですから。ただ、私たちの予測よりは多く売れました。なので、今は満足しています!

Q:一番売れているのはどのモデルなのですか?

A:dp2です。これが一番売れています。他のdpシリーズと比べても1.5倍は売れますね。

Q:MerrillとQuattroではどちらが売れているのですか?

A:台数で言うとMerrillです。製造の終わりの方で値段を大きく下げたので、かなりの数が売れました。

Q:dp Quattroになって、ユーザーはデザインに衝撃を受けたりしませんでしたか?どのようなリアクションでしたか?

A:そうですね・・・一部にものすごく嫌ってるユーザーがいます。概ね好評ですけど。

Q:次のdpシリーズではまたデザインを変更する予定なのですか?

A:わかりません。まだ次のは話し合ってもいないんですよ。

市場について


Q:ユーザーの要望はどのように知るのですか?

A:ネットの書き込みをよく見ています。自分で書いたりはしないんですけど。そういうのを読みながら何が求められているのか推測します。

Q:このインタビューの2週間前に、台湾の読者に質問や要望を募集しました。こんな製品が欲しいようです。

ソニーFE用アートレンズ
24-70mm F2.8 Art
85mm Art
135mm Art
フォビオンミラーレスカメ
M4/3用レンズをもっと

A:135mmは珍しいですね。他のものはよく聞く要望です。

Q:一ヶ月前にキヤノンニコンソニーの高画素機を比較する記事を書いたのですが、ソニーのカメラがあらゆる面で素晴らしい性能を示しました。ソニーが伸びてきている現状についてどう思われますか?

A:ソニーはセンサーの開発技術を持っていますから、私たちからしてもソニーが写真産業で主要なメーカーになっていくのは当然だと思います。製品の差別化にはセンサーとレンズが何よりも重要ですから。他の要素はどのメーカーでも持っているんですよ。カメラ産業で将来的に生き残っていくのは、センサーとレンズの開発技術のある会社だと思います。私たちがフォビオンを買収して技術を確保しているのはそれが理由です。

Q:ソニーはどんどん新しいものを作っていってますけど、キヤノンニコンは比較的保守的に見えます。

A:個人的にそれらの企業の内情に詳しいわけではないんですけど、キヤノンニコンにはたくさんのユーザーがいて、その中にはプロの写真家もいます。プロは写真で食べていますから、信頼できる、動作の安定した機器が何よりも重要なんです。キヤノンニコンもそういうユーザーを無視して新しい技術に飛びつくわけには行かないのではないでしょうか。なので、その二つの企業は両肩に大きな責任を背負っていると思います。特にオリンピックを撮るようなプロは1枚もミスしてはいけないんですよ。あるいは戦場ジャーナリストもカメラが信頼できるかどうかが何よりも大事です。

Q:現在のシグマは主にキヤノンニコンに向けてレンズを作っていますけど、これがソニー向けに変わっていく事はあるのですか?

A:何があってもおかしくはないと思います。ただ、他の企業について何かコメントをする立場にはありません。皆さん一生懸命未来のために働いていますから、将来的にはあらゆる可能性があると思います。

Q:携帯電話のカメラについてはどのように考えていますか?カメラを使って写真を撮る人が減ってしまうので、携帯電話の普及がプレッシャーになったりするのですか?

A:私たちのユーザーはプロや写真愛好家です。彼らは一眼レフやミラーレスといった高性能な機器を必要としていますから、スマートフォンにはあまり影響されません。実際、こういった人たちは多くのカメラを使います。プロでもスマホコンデジ、一眼レフ、ミラーレスを使い分けている人がいます。こういう人たちは高性能なカメラを捨てたりはしないので、私たちのビジネスがスマホに影響を受けるとは思っていません。

また、多くの人がスマホで写真を撮るのは良いことだと思います。そこから写真に興味が出て、良いカメラやレンズを買おうとするかもしれないですから。そういう意味で私たちにとっても好機だと思います。

Q:台湾のマーケットと、他の国の違いは何かありますか?

A:台湾のユーザーは新製品にすぐに反応しますね。アメリカや中国のみならず日本よりも反応が早いです。世界でも台湾が一番反応が早いのではないかと思います。新製品が発売されるとすぐ、台湾の人たちはそれを買い求めます。また、台湾の人は品質をとても重視します。値段よりも品質のほうが大事ですね。台湾のマーケットはとても洗練されていると思いますよ。

Q:各国のマーケットでそれぞれゴールを設定しているのですか?

A:特に決まったゴールはありません。私たちのゴールは写真愛好家やプロの写真家に受け入れてもらうことですけど、これは日本やアメリカ、中国だけではなく、台湾もそうだし、世界中すべての国で言えることです。「受け入れてもらう」というのもちょっと古い言い方ですけど、私たちは製品の品質には細心の注意を払っていますから、受け入れてもらうことはとても大事なことです。

Q:LytroやRicoh Thetaソニーの曲面CMOSといった新しい技術についてどう思われますか?

A:とても興味深いですね。そして、新しい技術が導入されることは産業全体にとっても良いことだと思います。写真ができることが何なのか示すことはとても重要だと思います。ただ、同時に考えなくてはならないことは、それを使うことでユーザーにどのようなメリットがあるのか、ということです。ユーザーにとってあまりメリットがなければ、技術が素晴らしくても受け入れられませんから。なので、新しい技術を使うことでユーザーにどんなメリットがあるのか、私達は常に考えなくてはならないと思います。

Q:dpシリーズの画質は最高レベルだと思いますが、高感度性能はもっと向上して欲しいです。また、SIGMA Photo Proの動作速度も、もっと速くなって欲しいですね。

A:高感度性能が大きな課題であることは、私たちも認識しています。性能の向上には常に取り組んでいますし、努力を継続しています。しかし、フォビオンの開発にはどうしても優先順位が出てきます。

Q:ハッセルブラッドにはマルチショットという技術があります。これは異なった色ごとにシャッターを切って後で合成するものです。フォビオンは撮影が一回で済むので、この技術よりも優れていると私は思います。どうしてフォビオンの中判を作らないのでしょうか?フォビオンは間違いなく高品質な画像を作ることが出来ます。キヤノンニコンソニーといった大企業が長年競争を続けているような市場に、あえて飛び込む必要はないのではないですか?プロ用の機材では高感度のノイズは大きな問題になりません。中判の可能性について考えたことはありますか?

A:もちろんです!当然です!以前8x10のフィルムで撮られた写真を見たことがあるのですが、非常に感銘を受けました。私の夢の一つは、シグマのカメラがあのような高画質の写真を撮れるようになることなんです。中判には個人的にも大きな関心があります。

けれども、今の時点でフォビオンの中判を検討したことはありません。そもそも、中判カメラを作ろうとすると、システム全体をゼロから作らなければならないんです。センサー、カメラ、レンズ、その他付属品・・・。それを揃えるのには大変時間がかかります。しかも残念なことに、私たちから見ても中判の販売台数は非常に少ないんですよ。なので、そこに参入することは出来ません。

Q:中判カメラの売上はdpシリーズよりも少ないのですか?

A:良い質問ですね(笑)!知りません!素晴らしい質問です!

Q:私自身、フォビオンの性能がもっと向上して欲しいと思っています。

A:ベイヤーセンサーはフォビオンよりも遥かに長い歴史があるんです。更に多くの企業が参入して、性能の向上に貢献しています。フォビオンはシグマだけで開発を続けていますから、ベイヤーセンサーと比べて進歩が遅く感じられるかもしれません。ただ、今後も更に性能が上がっていくと思っています。

Q:他の企業と協力してフォビオンの開発をすることを考えたことはないのですか?

A:私達はいつもドアは開けたままにしてあるんですけどね。入ってくる企業が一つもないんですよ。