SIGMA CEOインタビュー(その2)

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(その1の続き)

Q:欲しい人材はどのようにして採用するのですか?

A:やり方はとても普通ですよ。採用情報サイトに募集を出します。基本的に大卒を採用します。日本のトップ層の大学の学生を採用できているので、私達はとても恵まれていると思います。自分でカメラやレンズを作りたいと思う学生はシグマに来るんです。他の大企業に行ってしまうと、オフィス機器や家電製品の部署に配置されてしまう可能性もありますから。シグマに来ればカメラとレンズしかありません。そういう熱意のある学生を採用できているのでとても助かっています。

Q:学生ですか?インターンシップのことですか?

A:日本ではインターンシップはあまり一般的ではないんです。大学生が4年生の時に面接をして、卒業後に採用するという約束をします。日本ではこれが普通のやり方です。

Q:どのような性格の従業員が一番必要ですか?

A:特にこれといったものはエンジニアには求めていません。なぜなら、様々なタイプの従業員が必要だからです。例えば、会社にはとても優秀で独創的なエンジニアが必要です。そういう人たちが革新的な製品や優れた製品を開発するからです。

しかし、全てのエンジニアが独創的だと、会社にとってはあまり良くないんです。なぜなら、製品の開発には地味な作業ができるエンジニアも必要だからです。デザインの細部、データのやり取り、製図、レンズ配置を詰めていって、それからプロトタイプを作り、性能を確かめる。これらの工程には非常に長い時間がかかります。こういった作業は独創的なエンジニアがする仕事ではありません。そういうエンジニアは常に新しい物を作りたがるんです。製品を仕上げて販売にまで持って行くには別のエンジニアの助けがいります。

もし会社に独創的なエンジニアしかいなかったら、製品を販売することはできなくなります。なので、会社には様々なタイプのエンジニアが必要です。最高の人材はどのような人か、とは言えません。チームワークが何よりも大事なんです。

Q:会社にエンジニアは何人いるのですか?

A:どういう人を「エンジニア」と呼ぶかでも変わるのですが、本社には170から180人のエンジニアがいます。これは本社に勤務している全従業員の80%になります。

Q:以前キヤノンの方に新卒から始めてレンズ作りの達人になるまでどれくらいの年数が必要なのか尋ねたことがあります。答えは30年でした。シグマも同じくらいなのでしょうか?

A:シグマにはそういうマイスター制度みたいなものはありませんが、30年以上レンズ作りをしている社員は何人もいます。ただ、何をもって「達人」とするかで意味合いは変わると思います。例えば、経験のある社員はとても重要ですけど、大量生産の現場に「達人」は必要ないんですね。それよりも生産方法を開発できる社員が重要になります。試作品が完成すると、設計図を見て、ガラスの素材を調べます。そして、最適な研磨方法を考え、その後で製造ラインでレンズを研磨する方法を考えます。

製造ラインではデータをセットして機械で研磨します。これは自動で動作しますから、プログラムさえセットすれば普通の人でもレンズの研磨作業ができるんですよ。大量生産することを前提にすると、おそらく5年ほどで研磨技術に必要な知識は身につくと思います。そのような社員は厳密には「達人」ではないですけど、研磨に必要な知識はありますし、状況に対応する能力もあります。

Q:本当の意味での「達人」はシグマに何人くらいいるのですか?

A:そんなにたくさんはいません。少ないですね。経験豊富な達人となると、10人以下だと思います。しかし、工場の生産ラインには経験のある社員がたくさんいます。生産現場を管理してる社員は最低でも5年の経験がありますし、10年から20年のベテランもいます。彼らが主に品質を管理していて、そういう社員がたくさんいます。

Q:社員の昇進制度はあるのですか?毎年試験を受けるといったものです。

A:似たような制度はありますね。どのような仕事をしているのかにもよりますけど。

レンズについて


Q:私たちはつい先日20mm F1.4のテスト記事を書いたばかりなのですが、そもそもどうして20mm F1.4にしようと思ったのですか?というのも、高性能な広角レンズの24mm F1.4が出たばかりだったので、多くの人は次のレンズは85mm F1.4や24-70mm F2.8になるだろうと予測していたからです。けれども実際に発売されたのは20mm F1.4です。なぜですか?

A:単に優先順位の問題です。次が何かはお話できないんですけど、基本的には既存のラインナップを全て新しいレンズに置き換える予定です。かつてシグマには20mm F1.8というレンズがありましたから、それを更新する必要がありました。また、更新する時に前のモデルと同じスペックというのは面白くないですし、そもそも20mm F1.4というスペックのレンズは世の中になかったんです。私たちは「世界初」の製品を作るのが好きなんですよ。

Q:私たちの記事ではいつも、「シグマは変態企業」だと書いています。今までにない、例えば18-35mm F1.8のようなレンズを作ってしまうからです。どうして、こういったレンズを作ろうとするのですか?こういう独特のレンズを作ろうとする動機は何なのでしょうか?

A:まず、さっきも話したように、私たちは「世界初」が好きです。これが第一の理由ですね。こういった新しい製品を発売していくことで、レンズやカメラの市場が発展していくと信じています。もし、昔からのスペックに留まってしまったら、みんな飽きてしまうと思うんです。レンズ産業の可能性を、私たちが切り開いていけると思っています。常に新しい物、革新的なものを追求し続ける。これが私たちのモチベーションになります。そのような意味で、写真産業や写真文化にも貢献できるのではないかと考えています。

Q:最も売れ行きの良いレンズは何ですか?トップ3を教えて下さい。

A:販売本数でいったら次の3つですね。

1位 18-250mm F3.5-6.3 DC Macro OS
2位 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM
3位 70-300mm F4-5.6 DG Macro

売上だと、次の3つになります。

1位 Contemporary/Sports 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM
2位 Art 35mm F1.4 DG HSM
3位 Art 50mm F1.4 DG HSM

18-250mm F3.5-6.3が一番数が出てるのは、高倍率ズームは基本的によく売れるからです。単焦点はそもそも需要が少ないですね。

Q:しかし、市場での売れ行きを考える必要があるのなら、どうしてアートシリーズをラインナップの中心に置いているのですか?

A:そもそも、高品質の製品を作ってユーザーに喜んでもらうことが私たちのモチベーションです。だからアートシリーズを作ろうと思いました。また、現実的な理由もあって、私たちは今でも日本で生産を行っていますから、製造コストは高いです。なので、高倍率ズームのような売れ筋商品では、あまり利益が出ないんです。単焦点や10-600mmなどのニッチな商品を作っていかなければなりません。

Q:高倍率ズームはどうしてF6.3まで暗くなるのですか?F5.6やF4で作ることは出来ないのですか?

A:それはレンズを小さく作る必要があるからですね。明るくしようと思うとどうしてもサイズは大きくなってしまいます。旅行に行く時に巨大なレンズを持って行きたくはないですよね?

Q:サイズが小さくて明るいレンズというものが技術的に可能なら、そういうレンズを作ることはできるのですか?

A:基本的にレンズは今でも古典物理学の世界でできています。明るいレンズはサイズを大きくする必要があります。また、性能を高くしようと思ったらこれも大きくなる要因です。もちろん、可能な限り小さくするようにしていますけど。例えば20mm F1.4は小さくはないです。このレンズはとても大きな直径の非球面レンズを使っています。もしこのレンズを使わなかったら、もっとサイズが大きくなるところでした。非球面レンズのようなサイズの小型化に寄与する技術は、常に開発を続けています。

Q:ニコンは300mm F4を発売しましたね。フレネルレンズを使って大幅なサイズの縮小がされました。このレンズについてどう思いますか?

A:素晴らしい技術だと思います。ニコンは凄いことをやったなと思いますね。将来的に私たちもそういった技術を開発していきたいです。

Q:ニコンやツアイスはカメラ用のレンズの他にメガネのレンズを作っています。シグマも参入を検討したことはありますか?

A:ないですね。私たちはカメラとレンズに集中しています。また、カメラとメガネは必要な技術が少し違うんですよ。今持ってる技術でメガネ用レンズを作れるとは思いません。

Q:つい先日シグマはWRプロテクターを発表しました。この製品について詳しく教えてもらえますか?

A:WRフィルターはセラミックで出来ています。これは普通のガラスではありません。このフィルターの製造方法はこれまでのフィルターとは全く違うんです。普通のフィルターと比較すると、10倍の強度があります。強化ガラスを使ったフィルターよりも強度があります。値段は安くはないんですけど、20万、30万するようなレンズを使ってるユーザーからすると、厳しい状況でも耐えられる、信頼できるフィルターは必要なんです。

Q:このフィルターを開発するのにどれくらいの期間がかかりましたか?エンジニアにこういうものを作れと指示したのですか?

A:開発期間は1年位だと思います。実はガラス素材そのものは私たちが開発したものではありません。セラミックの中に透明なものがあるということは知っていたのですが、透過率が悪くてレンズには使えなかったんです。メーカーと協力して透過率を上げようとしたんですが、これに数ヶ月ほどかかりました。そして、フィルターとして使用可能なセラミックの開発に成功しました。それで製品化を決めたんです。

Q:シグマは自社でガラスを生産していないのですか?

A:してません。HOYAやオハラなどのメーカーから購入しています。

Q:20mm F1.4 ArtにはFLDが使われています。これは蛍石に近い低分散性能を持つガラスです。どうして蛍石そのものを使って、もっと高性能なレンズを作らないのですか?

A:非常に高価だからです。FLDは蛍石と同等の働きをして、蛍石よりも安価です。天然の蛍石を使ったらレンズの値段はもっと高くなってしまいます。レンズが高価になってしまうと、私たちのゴールである「手頃な価格の製品を作ってユーザーを幸せにすること」ができなくなってしまいます。