SIGMA CEOインタビュー(その1)

イメージ 1



元記事:An Insight Interview With Sigma CEO


Q:まず、一番大きな疑問なのですが、なぜ台湾に来てメディアや地元の販売店と話をしようとしているのですか?カメラ会社のCEOが行うことではないと思うのですが。

A:初めて台湾に来たのは3年前になります。創業者である私の父が他界しまして、私が会社を引き継ぐことになりました。その時、私は海外のマーケットを直接見て回りたいと思ったのです。台湾に来た理由の一つは、私の母が台北で生まれたからですね。母は日本人なのですが、第二次大戦の前に商売上の理由で一家が台湾に移って来たのです。母はいつも台湾の良い所について私に話してくれました。それでここに来たいと思うようになったのです。

Q:2ヶ月ほど前に「湾生回家」というドキュメンタリーが放送されました。あなたの母のような台湾生まれの日本人を「湾生」と呼ぶのですが、その人達の話です。第二次大戦後にそういった人たちは日本に帰ってしまったのですが、彼らは本当にかつての台湾での生活を懐かしがっているのですね。このドキュメンタリーはぜひ見て欲しいと思います。ほとんどの場面は日本語で話されていますから、これを見ればあなたの母が台湾についてどのような感情を抱いているか、わかると思います。



A:ああ、いいですね!母は台北生まれなんですが、大半は花蓮で生活していました。数カ月前には同窓会もあったそうです。

製品のデザインについて


Q:さて、製品についての話に移りましょう。シグマの製品のデザインは大きく変わってきていると思うのですが、その理由は何ですか?

A:CEOになったあとで、商品ラインナップの再編に取り組みました。それ以前は様々な部署の管理者をしていました。光学部、ソフトウェア部、知的財産権部、その他にもいくつかのプロジェクトの責任者もしました。その時にわかったのが、製品のコンセプトを消費者にうまく伝えられないことがある、ということです。例えば、高品質なレンズを作るとすると、大きく重たくなります。消費者がその製品の背後にあるコンセプトを理解していないと、その製品を良いものだと思わなくなるかもしれません。

なので、まずは製品のコンセプトをはっきりさせようと考えました。そして、消費者がコンセプトをわかりやすくなるように、製品ラインナップを分けることにしたのです。また、私が個人的に工業デザインが好きだということもあります。カメラとか、車、オーディオなどの一般的な工業デザインですね。私が10代だった70年代から80年代には、デザイン的に優れた製品がいくつか売られていたんです。

Q:ご自身が好きな製品をいくつか教えてくれますか?

A:ソニーの80年代の製品デザインは素晴らしいですね。90年代のバング・アンド・オルフセン。これは私が生まれる前ですけど、60年代のブラウンのデザイン。ブラウンはラジオやオーディオをたくさん作っていました。私はそういうものが好きなので、自社の製品もシンプルで洗練されたものにしていきたいですね。

ただ、レンズの設計に関しては話は別です。レンズで最も重要なのは性能です。鏡筒のデザインではありません。何か装飾的なものをレンズに付け加えたら、おそらくやり過ぎになってしまうでしょう。したがって、レンズについては「デザインしないこと」がコンセプトになります。最も単純なデザインで、高品質の硝材や部品を使い、仕上げをして、それで終わりです。これがシグマのデザインのコンセプトです。

イメージ 2


例えば、この金属の光沢部分にはとても精密な加工と酸化処理が必要になります。この金属部分には塗装はしていません。酸化処理だけで均一な仕上げをするには、加工がとても重要になります。製品が高品質であることを伝えるには、それぞれの部品の品質が重要になります。これはその一例ですね。

Q:デザインを担当しているのはシグマの社員なのですか?

A:いいえ、製品のデザインに関しては外部のデザイナーに頼んでいます。岩崎一郎氏です。もちろん、私達にも社内デザイナーがいますけど、コンセプトの核は彼が考えています。現行のSDシリーズは社内デザイナーによるものですけど、dp Quattroシリーズは岩崎氏が手がけました。

製品のデザインは工程が非常に複雑なんですよ。デザイナーが設計図を書き終わったとしても、それで完成ではありません。その図面を元に、工場とエンジニアが製品として生産可能かどうか議論します。その過程で多くのやり取りが必要なので、製品開発チームはデザイナーのオフィスと工場を行ったり来たりしないといけません。

Q:岩崎氏に製品のデザインを頼む時に、具体的にどのような話をしたのですか?

A:そんなにたくさん話したわけではありません。実は私たちは10年以上前からお互いをよく知っているんです。当時の彼の製品に感銘を受けて、お会いする機会があったのですが、その時にいつか将来一緒に仕事をしたいと話しました。ただ、それからしばらくは普通の友人のように付き合いを続けました。私たちは互いの考えをよく知っていますし、シグマの将来の方向性についても同じものを共有しています。なので、実際に新しいプロジェクトを開始する時にも、シグマの方向性やゴール、ビジョンなどを伝えただけで、デザインは全て彼に任せました。

なぜかというと、私はCEOですけど、ただのビジネスマンで、デザインの専門家ではないからです。CEOがデザインの細かいところまで首を突っ込むのは良くないと思っています。世の中にはこのことを誤解してデザインにあれこれ口出しするCEOがいるようですけど、これはデザイナーを混乱させるだけではないかと思います。なので、私はあえてデザインには口出ししません。岩崎氏はシグマについてよく知っていますから、彼を信頼するだけです。

会社について


Q:デザイナーに伝えた「シグマの方向性やゴール、ビジョン」というものが具体的にどのようなものなのか、お話いただけますか?

A:ここで簡潔に話すのは難しいんですけど、だいたい次のようなものです。

シグマは高品質な製品を作る会社でありたい。
シグマは革新的な会社でありたい。
シグマはユーザーに誠実な会社でありたい。
シグマは組織が最小な会社でありたい。
シグマは製品の価格が手頃な会社でありたい。
シグマは高級なブランドではなく、純粋に技術を追求した会社でありたい。
シグマを巨大な企業にしたくない。

Q:これらの目標はあなたの父も持っていたものですか?

A:そう思います。やり方は少し違いますけど、基本的な考えは同じですね。

Q:多くの会社はより強く、大きなものになろうとして、企業を買収したりもします。どうしてシグマは巨大になろうとしないのでしょうか?

A:私たちは非上場の会社です。株式を公開していません。未だに同族経営の会社です。なので、そもそも製品の回転率や売上、利益を上げていく必要がないんですよ。上場企業は株価を維持しなければなりませんから、それらの数字を伸ばしていく必要があります。しかし、シグマに関しては事業を継続することと、従業員の雇用を守ることが一番の目的になります。これはとても重要な事なんです。製品を作り続けること、ユーザーを幸せにすること、そして雇用を維持すること。そのためには、製品、売上、従業員、ユーザー、その全てのバランスを保つ必要があります。そして、そのために、会社が巨大である必要はありません。

もし売上を大きくすることが私たちの目標だとすると、賃金の安い海外に生産拠点を移すことになるでしょう。けれども、私たちは日本に留まることを決めました。一番の理由は高品質な製品を作る必要があるからです。もう一つは従業員の雇用を維持する必要があったからですね。普通、賃金の安い海外に工場を建設すると、最初は国内の工場と平行して生産を行います。そして、ある日突然方針を変えて、国内の工場を縮小し始めます。私達はこういうことをしたくはありませんでした。

シグマの工場は福島県の小さな町にあります。もしこの工場が閉鎖されると、地域社会に与える影響は甚大なものになります。私たちは従業員のみならず地域を守る必要がありました。これは理由の一つに過ぎませんが、いろいろな事情から私たちは急速に成長することを諦め、日本に残って、ここでしかできないことは何かを模索し始めました。シグマの製品が売れ筋のものからハイエンドへと変わっていったのも、このような理由があるからです。

Q:会社を急に大きくしたくはないと仰っていますが、シグマが徐々に成長していって、巨大になってしまったらどうしますか?もっと多くの製品を生産する必要に迫られた時、海外に新たに工場を建設しますか?それとも、それでも日本に留まるのでしょうか?というのも、キヤノンニコンソニーといった会社は国内外の両方に工場を持っているからです。シグマがそれらの会社と同じくらい大きくなったあとでも、まだMADE IN JAPANにこだわりますか?

A:それは良い質問ですね(笑)今の時点では海外に工場を作る気は全くありません。けれども、将来もずっと日本だけで生産するかはわかりません。私たちの考えは、人件費が安いから海外に移る、ということをしないことです。それをし始めると、安い賃金を求めて世界中を回らなければならないですから。例えば現在も人件費が上がっている地域では、企業は生産拠点を他の国に移そうとしています。私たちはそのようなことをするつもりはありません。もし工場を構えるのなら、私たちは地域住民と共に生活をし、彼らを守りたいと思います。

今の時点では、私たちは地元の業者と協力して製造を行っています。私達はこれを「地域調達システム」あるいは「地域製造システム」と呼んでいるのですが、これは製造業では伝統的な手法です。しかし、今日では他の会社はとても大きな調達ネットワークを世界中に持っています。そのような会社は部品を最安値で調達して、最も人件費の安い場所で組み立てを行います。他はグローバルにやっていますけど、私たちはローカルにやっています。シグマと他の企業には大きな違いがあるんですよ。

私たちは、今までのやり方で高品質な製品を作ることはできます。けれども、私たちに馴染みのないグローバルなやり方を取り入れたとしたら、品質の維持が可能かはわかりません。なので、「工場を海外にも作るのか?」という質問に対する答えは「わかりません」です。

Q:社員に対して、特定のスペックのレンズを作るように指示したりはするのですか?

A:そうですね、よくやります。私は自分のオフィスを持っていません。本社の技術部の真ん中に小さな机があるだけです。そこでは150から160人の社員が働いていて、私から見て右側はカメラの開発チームがあり、左側にはレンズ開発チームがあります。私の机のすぐ隣は光学設計チームがいますので、そこのメンバーとよくやり取りをします。

それで私が「こんな感じのレンズ作ってよ」というと、たいてい「社長、アホですか」という返事が来ます(笑)。いつもこんな感じのふざけた会話をエンジニアとしてて、大変勉強になります。もちろん、エンジニアの方から「こんな製品を作りたい」という提案もあります。それが良さそうだったら実際にプロジェクトとして開始します。

Q:それも伝統的な日本の会社のやり方なのですか?

A:おそらく違うと思います。伝統的な日本のやり方は、手続きがもっと形式張ったものだと思います。まず、マーケティングと製品開発部が市場調査を行います。その後、開発計画が立てられ、製造可能かどうか製造部門が議論します。なので、新製品のアイデアマーケティングと製品開発から出てくるのが普通です。

しかし、シグマの場合は、製品のアイデアは立ち話やエンジニアからの提案から出てきます。何が製造可能かということは、エンジニアが一番わかっているんですよ。開発部はわかりません。彼らはコンセプトを作るだけです。なので、エンジニアを自由にさせて、創造性を発揮できるようにするのはとても重要ですね。

日本では、会社の従業員を「サラリーマン」と呼びます。これは文字通り、毎月給料をもらっている人、という意味です。しかし、この言葉には否定的な意味合いもあって、単に上から命令されただけのことをする人、ということでもあります。そのような人は自由ではないし、創造性もありません。私は従業員に、熱心に仕事に取り組んで欲しいと思っています。

Q:オフィスの雰囲気はどのようなものですか?友人のように話したりするのですか?

A:そう願ってますけど、わかりません。直接彼らに尋ねてください(笑)。会社の雰囲気は官僚的ではなく、家庭的なものでありたいと思っています。社員がどのように感じているのかはよくわかりませんが、家庭的な雰囲気がオフィスにあればいいなと思います。