山木社長Q&A Part1:なぜペンタックス用のレンズは少ないのか他(その1)




横浜で今年の2月に行われたCP+の会場で、私たちイメージングリソースは、多くのカメラ産業の経営者たちにインタビューをすることができた。今回はシグマCEOの山木和人氏に話を伺った。このインタビューで特に印象に残ったのが、サードパーティーのレンズメーカーはペンタックス用の交換レンズを作らない理由や、発表されたばかりのDPQuattroの形状の理由といった話だ。

デイヴ・エッチェルズ(ImagingResources:IR:カメラ産業はここ数年ますます細分化が進んでいます。かつてはキヤノンニコンが全てを牛耳っていましたが、もはや状況は変わってきていると思います。オリンパスパナソニックマイクロフォーサーズがあり、ソニーEマウント、FEマウント、Aマウントをそれぞれ出している。フジもXマウントを持っています。こういった新しい勢力がマーケットのシェアを奪いつつあるので、レンズメーカーも多くのマウントに対応していかなくてはいけません。このような状況に対して、シグマの戦略はどのようなものなのでしょうか?



山木:可能な限り多くのマウントをサポートすることが、交換レンズメーカである当社の使命だと考えています。私たちのユーザーは写真愛好家が多いですから、そのマウントのユーザーに真剣な写真家が多ければ、できるだけサポートしていきたいと思います。もちろん、当社にも限界はあり、とりわけエンジニアの数は少ないですから、どのマウントをサポートするのかは慎重に判断しなければなりません。原則としてはできるだけ多くのマウントをサポートしたいというのは変わりません。

IR:多くのミラーレスはフランジバックがとても短いですから、似た設計のレンズを複数のマウントで使うことは可能なのでしょうか?例えば一番フランジバックが長いものを基準にレンズを設計し、他のマウントでは単に鏡筒を長くすることで対応するといったような。

山木:全く同じ光学系でですか?

IR:そうです。

山木:そうですね、可能だと思います。同じ設計で他のマウントに使うことはできます。

IR:それぞれマウントの諸元に合わせて、チップを書き換えるのですか。

山木:そうなります。

IR:シグマのマウント交換サービスに対して多くの読者から賞賛の声をもらっています。とても好評のようですね。

山木:ありがとうございます。

IR:ユーザーにとってはメリットが大きいですからね。シグマはミラーレス用にDNシリーズを発売していますが、私たちの編集者の一人がEOS M用のレンズを出す予定があるのか気にかけていました。

山木:まだ決定していません。

IR:まだ決まっていないと。そうですね、確かにEOSMの売り上げはとても少ないですから。

山木:そのようですね。

IR:確か以前、レンズ製造のコストが上がっているという話を伺ったと思うのですが、18-35mmF1.8 DC HSM Artレンズの値段はとてもリーズナブルでした。多くの人はコストがかなりかかっているので、もっと高いだろうと思っていたからです。レンズの調整と検査の過程を統合することでコストが下がったとか、他のメーカーよりも効率的な生産方式をとっているとか、そういった工夫で製造コストが抑えられたのでしょうか?



山木:実を言うと、このレンズの製造コストはとても高いのです。性能が良いので、高価な材料を使わなければなりませんでしたし。レンズのクオリティはとても高いのですが、値段はそれほどではないと思っています。製品の値付けというのは実はかなり戦略的に行っているんですよ。例えばこれはAPS-C用のレンズなのですが、APS-Cカメラのボディの値段は下がり続けています。なので、もしレンズの値段がとても高くなってしまったら、多くのユーザーにとってあまり魅力的に映らないだろうと判断しました。

IR:なるほど、もし性能そのままの値段を付けてしまったらボディ価格と釣り合わなくなってしまうので、APS-Cユーザーが手に取りやすい価格にあえて設定したわけですね。今週シグマの本社を訪れた時にエンジニアの人にも聞いたのですが、この18-35mmを作るきっかけというのは何だったのでしょうか?何らかの目標や戦略といったものがあったのでしょうか?

山木:実を言うと、このプロジェクトは父が主導したものだったんです。彼がまだ会社を経営していた時にスタートしました。



IR:本当ですか?ということは、もう何年も前から始まっていたのですね。

山木:はい。彼は世界初のF1.8ズームを作りたいという希望を持っていました。それがすべての始まりです。その当時、私は光学設計部門を率いていて、こうエンジニアに言ったのです。「社長からF1.8ズームを作れという指示をもらいました。どうすれば実現できるのか研究を始めましょう」と。

その後、レンズの製造は可能だという結論に達したので、製品化に動き出したのです。最終的にこのスペックに落ち着いたのは、APS-Cセンサーは被写界深度がフルサイズよりも深いので、F1.8ズームならユーザーにとって良い解決になるだろうという判断があったからです。

IR:それは興味深いですね。実際の設計は3年、あるいは4年ほどかかっているのですか?

山木:設計を始めてからですか?いや、おそらく2年ほどですね。

IR:わずか2年ですか。

山木:2年とちょっとです。

IR:私は今週の月曜にレンズ設計者の小山氏と話をしたのですが、このレンズを作ったのは人々を「あっ!」と言わせたかったからなのだと。私は実際に多くの人が「あっ!」と言いましたよと返事をしました。

山木:ありがとうございます!

IR:現在シグマは既に発売済みのレンズを新たにグローバルビジョンレンズとして再開発をしています。新しいレンズは実際に新しく設計をし直しているのか、それとも単にコーティングを変えてUSBドックに対応させているだけなのでしょうか?USBドックを使用することでチップの書き換えやAFの微調整、AF速度、手ブレ補正の効き具合といったものをユーザーが設定することが可能になりますが。



山木:基本的にほとんど全てのレンズは全く新しいレンズです。全て設計をゼロからやっています。唯一の例外は120-300mmF2.8 DG OS HSM Sportsレンズです。これは光学系の設計は同じですが、機械部品を変更し、ファームウェアも変えました。それ以外のレンズは全て最初から作りなおしています。

IR:それは大変な作業ですね。

山木:そもそも、グローバルビジョンのレンズは製造のコンセプトそのものから、以前のレンズとは違うのです。なので、それに合わせて設計もゼロからやらなくてはいけません。しかし、120-300mmだけは最初から光学性能が新しいコンセプトに合致すると判断したので、それは変えませんでした。変えたのは機械部とファームウェアだけです。



IR:以前の工場見学の時に聞いたことですが、現在山木氏が行っていることは、先代の山木道広氏が行っていたことと、少し変わってきているとのことでした。例えばかつてはレンズの発売時に設定を完全に決めてしまっていましたが、現在はユーザーが調整できる余地を残すようになっています。これが120-300mmをグローバルビジョンで出す時に行いたかったことなのでしょうか?それとも、もっと光学的な部分での改善を意図したものなのでしょうか?

山木:ユーザーの調整の幅をもたせることですね。それが狙いです。

IR:うちの編集者もグローバルビジョンのレンズにはとてもワクワクさせてもらっているのですが、DNシリーズだけは後続のレンズが出てくる気配がありません。これは単にリソースが限られているのが原因で、将来的にはもっと多くのDNレンズが発売されると期待していいのでしょうか?

山木:それは単に優先順位の問題です。当社としても、もっとDNレンズを発売したいのですが、現在は既存の一眼レフ用の交換レンズの方が需要が多いのです。とりわけD800のような高解像度のカメラにはもっと性能の高いレンズが必要ですから、どうしてもそちらを優先しなくてはいけません。

IR:なるほど、もちろん実際に市場に出ている数も一眼レフのほうが多いですし、売り上げもミラーレスより遥かに多いですからね。

もう一つ販売戦略に関して質問があります。サムソンは自身をミラーレス市場における主要なメーカーであると宣伝しています。私も正確な数字は把握していないのですが、サムソンはミラーレスの売り上げはトップ3に入っていると言っていますし、来年にはトップになることを目標にしています。実際にサムソンがトップになるかどうかはわからないのですが、クリスマスからの年末商戦ではサムソンの売り上げは2位でした。

山木:本当ですか?

IR:はい。ミラーレスの中で、ですけれども。もちろんミラーレスそのものは、一眼レフと比べ依然として小さなマーケットですが、サムソンがミラーレス市場を引っ張るようになってきています。シグマはサムソンNXをサポートする予定はありますか?さきほど、可能な限り全てのマウントをサポートしたいとおっしゃっていましたが。



山木:まだ計画はないですね。

IR:なるほど、わかりました。他にもソニーFEマウントについての質問もありました。もちろん答えはNoだと思うのですが。まだFEマウントはとても少数ですし。

山木:実はFEマウントに対する要望はたくさんもらっているんです。

IR:そうなんですか?面白いですね!確かにFEマウントユーザーは画質に対してはとても要求が高そうですから、シグマのグローバルビジョンのレンズを求めるのも理にかなっていますね。

今後発売予定の50mm F1.4 DG HSM Art18-200mm F3.5-6.3 DC Macro OS HSM Contemporaryの発売日と価格はもう決まっているのでしょうか?

山木:今検討しているところです。

IR:例えばフルサイズ用の28-300mmのようなレンズをグローバルビジョン用に発売する予定はないのでしょうか?これはとても古い、フルサイズ用のレンズですけど。

山木:タムロンがちょうど同じスペックでレンズを出しましたね。需要が大きければ出すかもしれません。

IR:需要があればということですね。以前もお話されていましたが、フルサイズカメラのユーザーは画質に対する要求がとても高いです。このような高倍率ズームをフルサイズ用に作るとユーザーの要求に答えるのは難しくなるのでしょうか?

山木:レンズ設計に魔法はありません。もし10倍ズームを作ったら、単焦点と比べて画質は妥協しなければなりません。私たちは高倍率ズームよりも、性能の高いレンズを出すことを優先しています。

IR:これは答えることが可能なのか、そもそも公開していい話しなのかわかりませんが、最近発売されたニコンのカメラに互換性の問題があることを発見しました。D5300Dfです。解像度がとても高いのでテストに70mmF2.8 EX DG Macroをよく使うのですが、このレンズをニコンのボディに組み合わせて使うと露出に問題が出ることがありました。

山木:本当ですか?その話は初めて聞きました。

IR:私たちはこれまでもサードパーティーのレンズとカメラボディとの互換性問題をいくつか経験してきました。特にニコンのボディに多いです。このような問題は、カメラメーカーが意図的にサードパーティーを排除しようとして行われていると思いますか?

山木:全く検討もつきません。

IR:これは難しい話だと思いますけど、カメラメーカーが何をやっているのかはわからないのでしょうか?

山木:私は個人的にカメラメーカーのエンジニアとも付き合いがあります。もちろんすべての人を知っているわけではないのですが、彼らのものの考え方はよくわかっているつもりです。エンジニアという人達は意図的にそういう行動をするような人ではないと私は思っています。彼らは単に自社製品の性能を向上させているだけです。

IR:つまり、問題を改善し、より良い製品を作ろうとしているだけだと。

山木:そうです。その結果として問題が起こる可能性はありますが、それを意図的にやっているとは思えません。それはないと思います。

IR:興味深いですね。確かにエンジニアとはそういう人たちだというのは納得できます。彼らは単に自社製品を改善しているだけで、サードパーティーを排除しようとしているわけではないと。