シグマCEOインタビュー:なぜマイクロフォーサーズのレンズは少ない?フルサイズフォビオンは実現可能?(その2)


(その1の続き)


IR:読者から別の質問が来ています。「シグマのAPS-C用のコンテンポラリーとアートラインのレンズをマイクロフォーサーズ専用で出さないのはなぜですか?」

APS-C用とマイクロフォーサーズ用とではそもそもセンサーのサイズもバックフォーカスも違いますよね。しかし、マイクロフォーサーズ専用レンズの可能性はあるのでしょうか?既存のレンズをマイクロフォーサーズ専用に作り直すといった要望はあるのですか?

山木:今のところ、それほど大きな要望はありませんね。確かにいくつかのレンズはマイクロフォーサーズ専用に作ったほうが良いと思います。シグマの使命は高性能なレンズを手頃な価格で提供することですが、この場合は需要の大きさがとても重要になります。例えばAPS-C用とマイクロフォーサーズ用を同じ設計で作ったら価格を下げることが出来ます。しかし、マイクロフォーサーズ専用のレンズを作ると、どうしても価格は高くなるでしょう。設計を複数のマウントで共有することで、私たちはレンズの価格を下げることができるのです。

IR:ということは、マイクロフォーサーズ専用を作るとなると、それなりの理由が必要になるわけですね。

山木:そうです。

IR:しかし今の時点では、マイクロフォーサーズ用のレンズの需要はAPS-Cやフルサイズ用と比べても小さく、それほど多くはありません。

山木:その理由の一つは、マイクロフォーサーズにはもう既にたくさんの種類のレンズがあるからでしょうね。

IR:ああ、確かにそうですね。

山木:マイクロフォーサーズのユーザーは現在のレンズラインナップに十分満足していると感じます。それに対して、ソニーのEマウントはあまり多くのレンズはありませんから、私たちもたくさん要望を受けますね。

IR:Eマウントはフルサイズも出ているので、需要が大きいのはそのせいかもしれません。シグマにはとても性能の高いフルサイズ用のレンズもありますし。APS-C用のレンズをマイクロフォーサーズ用に流用するように、フルサイズ用のレンズもEマウントのフルサイズ用として使えそうです。

ソニーのレンズが少ないのには理由があるのかもしれません。パナソニックオリンパスも同じような傾向があるのですが、ソニーは当初、ミラーレスカメラを初心者用として、より強く打ち出していたのではないかと思います。かつてソニーがNEXと呼んでいた当時は、ターゲットとするユーザーはコンパクトカメラからのステップアップだと捉えていたのでしょう。なので、安価なズームレンズなど、性能の良くないレンズばかり発売していました。現在では高性能なレンズのラインナップを揃えようとしていますが、まだ十分ではありません。私も個人的にソニーのミラーレスは好きなのですが、多くにユーザーにとってレンズがネックでした。

また、ソニーの高性能なレンズはとても高価なのです。つまり、一方で廉価なレンズがあり、他方で高級なレンズがあって、その間には大きな格差があります。今、山木社長は微笑んでらっしゃいますが、それはつまり「その通り!」と仰りたいからなのでしょうか?(笑)

山木:ノーコメントです(笑)


2005年発売の10-20mm F4-5.6 EX DC HSM 発売から10年になろうとしている


IR:私たちのスタッフの技術編集者から、もう一つ質問があります。古いシグマのレンズの中には最新のカメラに使うと問題が出る事があるのですが、そのようなレンズのファームウェアをアップデートしたり、チップを交換するサービスはないのでしょうか?カメラとボディそれぞれのことを考えると、単純にチップだけの問題ではないというのもわかるのですが、例えばこの編集者は10-20mm F4-5.6 EX DC HSMを使っていて、最近のニコンのカメラでライブビューによるAFが出来ないと言っています。

解像度がとても高いので、70mm F2.8 DG Macroを私たちのラボでもよく使います。このレンズならボディの解像度が最高でどれくらいなのか調べることができるからです。しかし、これも同じようにいくつかのカメラではライブビューでAFが動作しません。このようなレンズのファームウェアをアップデートしたり、チップを交換する事はできないのでしょうか?

もう一つ質問があります。ライブビューに問題が出る原因は、レンズが高速に動いて止まるという動作をしなければいけないからだと思います。カメラはフォーカスを調べ、レンズが動き、また止まるという一連の動作を高速に行う必要があります。ライブビューの問題はコントラスト検出方式のAFとレンズのモーターの相性が悪いことが原因なのでしょうか?それとも、これはファームウェアで修正できる問題なのでしょうか?

山木:この件に関しては問題が2つあります。まず、そもそもこれらのレンズは静止画用に設計・開発されたということです。ライブビュー用に作られてはいないんです。ライブビューのAFというのは動画のAFととても似ていて、超音波モータはこの方式に向いていません。ステッピングモータや、ボイスコイルモータの方がライブビュー向きです。

IR:なるほど、超音波モータは高速に動いて止まるという動作が苦手なのですね。

山木:そうです。これが一つ目の理由です。もう一つの理由はファームウェアです。AFの動作をライブビュー用に最適化することは不可能ではありません。なので、今後も既存のレンズの性能を上げていくことは可能です。


シグマの超音波モータ


IR:ということは修正は可能なのですね。

山木:今後もレンズのファームウェアアップデートは行っていきます。しかし、それは既存のレンズだけです。生産停止になったレンズのアップデートは行いません。

IR:生産停止のレンズはないのですね。

山木:例えばいくつかのレンズはファームウェアのアップデートをすることでキヤノンのCinema EOS C100に対応できます。もしユーザーがUSBドックを持っていれば自宅でアップデートが出来ますし、私たちのサポートに送ってもらえればアップデートします。現在はキヤノンのCinema EOSに対応しているレンズも何本かありますし、今後もレンズのファームウェアのアップデートは行っていきます。

IR:70mm F2.8 EX DG Macroは現行モデルではないのですか?違う?もう生産停止になったのですか。残念です。これは私の一番のお気に入りのレンズなんです。ただ、もうあまり需要はなかったのでしょうね。

山木:はい、これは私の一番好きなレンズでもあります。確かに他のレンズと比べてあまり需要はありません。あと、このレンズで使ってるガラス素材がもう生産していないんですよ。


生産停止になったシグマ70mm F2.8 EX DG


IR:ああ、もうガラスメーカーから素材を仕入れることが出来ないんですか。なるほど。

山木:彼らが言うには、この素材はとても特殊なガラスなんだそうです。なので、生産を続けることはできなくなりました。

IR:それはとても興味深いですね。かつてシグマの光学設計者と話をした時に、ガラス素材の違いについて説明してくれました。特殊なガラスは通常のガラスとは全く異なる屈折をするそうですね。とても面白い話でしたが、生産停止ですか。残念です。このレンズはその特殊なガラスを使ってるからそこまで高性能なのでしょうね。

山木:そのガラスが具体的にどう影響してるのかはちょっとわからないので、技術者に聞いてみる必要がありますね。

IR:ふむ。となると、シグマが現在発売している中で非常に解像度の高いマクロはどれになるのでしょうか?70mmに近い性能のものは現行モデルだとどれになりますか?

山木:ちょっと焦点距離が長くなってしまいますけど、150mm F2.8 EX DG OS HSM APO Macroか180mm F2.8 EX DG OS HSMが匹敵しますね。とても高性能です。

IR:ああ、180mmですね。確かに高性能です。

山木:105mm F2.8 EX DG OS HSM Macroもとても良いですよ。


SIGMA 180mm F2.8 EX DG OS HSM APO Macro


IR:そうですね。でもやっぱり70mmは特別なレンズだったと思いますよ。つまり、ファームウェアに関しては現行のモデルは常にファームウェアアップデートを行い、動作の不具合に対応していくということでしょうか。今後もファームウェアは更新を続けていくと。

山木:そうです。