山木社長Q&A Part1:なぜペンタックス用のレンズは少ないのか他(その2)


IR:実は今回のインタビューの前にImaging Resourcesの読者に山木社長に尋ねたい質問を募集したんです。その中で、どうしてシグマはペンタックス用のレンズをあまり出していないのか、という質問がありました。特にペンタックス用の望遠レンズを出してほしいと要望がありました。もしマウントを交換するだけで済むのなら、もっとペンタックス用のレンズを作ることは可能ではないのでしょうか?それとも、単にコストの問題なのでしょうか?ペンタックスマウントは比較的少数ですし。

山木:ペンタックスマウントは今でも機械絞りを使っているんですよ。


IR:ああ、なるほど。

山木:それなので、製造は他のマウントとは全く別の話になるのです。たとえ同じ光学系を使っても、ペンタックスマウント用のレンズを作るのは手間がかかります。ペンタックス用だけ特別な部品を使わなければならないですから。

IR:確かに他のマウントと比べてもペンタックスの絞りの調節は全く違う構造ですね。とても面白いです。

山木:私たちとしてもペンタックス用のレンズは可能な限りもっと出したいのですが、需要がとても少ないので頻繁に作ることはできないのです。在庫期間が長くなると私たちにとっても問題になりますから、ペンタックス用をたくさん作ることはできません。例えば300mm F2.8をペンタックス用に、例えば数カ月おきに生産するというようなことは可能かもしれません。しかし、レンズが欲しい人は数カ月後ではなく、今すぐ欲しいのです。けれども、そのように頻繁に生産することはできません。。

IR:なるほど、売り上げが少ないので多くの種類を生産できないけれども、極わずかの生産でも利益を出すことは可能なのですね。生産の間隔をあけることも可能であると。興味深いですね。

超望遠レンズについての質問もいくつかもらっています。シグマの望遠レンズはあまり明るくないのですが、プロは400mm F2.8や600mm F4といったとても明るいレンズを必要とします。アマチュアは最近のカメラの高感度性能の向上もあって、F5.6くらいで十分だという人が大半だと思うのですが、シグマはこのような明るい超望遠レンズを計画したことはあるのですか?

山木:私たちにも既に300-800mm F5.6 EX DG APO HSMや800mm F5.6 EX DG APO HSMがあります。

IR:確かに。ただ、その読者はそれよりはもっと短い、例えば400mm F5.6といったスペックが気になるようです。

山木:随分昔の話になりますけど、かつて私たちも500mm F7.2 APOというレンズを出していました。スペックのわりにとても小型なレンズです。



IR:位相差AFでは動かないのではないですか?

山木:実は動くんですよ。

IR:本当ですか?

山木:位相差はF8まで動くんです。しかし、そのレンズの需要はほとんどなかったですね。

IR:なるほど。

山木:とても苦い経験になりました。今でも覚えています。

IR:つまり同じ失敗を繰り返したくないと。それは理解できます。

もう一つ読者から質問があります。シグマはここ数年スーパーマルチレイヤーコートという言葉を使い始めました。これが読者が実際に聞いてきた質問です。「現在のペンタックスHDコーティングについて何かご存じですか?」と。

シグマは常にコーティングを改良していると思いますし、ペンタックスのコーティングについて話すことも難しいと思いますので、質問を変えます。今のスーパーマルチレイヤーコートは過去のコーティングと比べて何が違うのでしょうか?技術的な説明だったり、その効果について説明をいただくことは可能ですか?

山木:私たちはコーティング技術を常に改善し続けていますし、特にここ数年は大きな進歩がありました。しかし、その具体的な中身について話すのは難しいです。基本的には同じような技術を使って性能が向上しているというだけの話ですし。それをマーケティング的にどう説明するか、という違いはありますけど。

IR:つまり、これまでと同様の何層にも重なった、いくつもの屈折率を持つコーティングで、性能が高くなっていると。

山木:コーティングはフレアやゴーストを防ぐ方法の一つに過ぎません。私たちは鏡筒内部の機械的な部品も反射を防ぐための設計を施しています。



IR:ああ、小山氏がどうしてレンズエレメントの端を黒く塗っているのか説明してくれました。シグマはさらに光線を追跡して鏡筒内に反射するものが何もないか確認していますね。

山木:そうです。そのために私たちは自社でシミュレーションプログラムを開発しました。レンズを設計している最中でもゴーストやフレアをシミュレートしています。私たちにはゴーストとフレアの対策を専門にしているエンジニアが二人いますので、最初のプロトタイプから、発売前モデル、製品モデルと全てのプロセスでゴーストとフレアの対策を行っています。

IR:シグマにはゴーストやフレアだけを調べているエンジニアが二人もいるのですか?

山木:実際には3人です。しかし、そのうちの1人は現在産休中です。

IR:おお、つまりシグマにはゴースト・フレア対策の専門家が3人もいると。素晴らしいですね!スーパーマルチレイヤーコートに関しては過去数年間、継続して改善を続けており、現在のコーティングは数年前と比較してもかなり優れたものであると。

とある読者が現在のシグマのロードマップには300mm F2.8と400mm F2.8があり、おそらく500mm F4も発売予定だと書いていましたが、このとおりですか?

山木:いいえ、それは単なる噂ですね。

IR:ただの噂なんですか?確かにカメラ情報サイトは根拠のない情報を流すことがよくありますからね。

キヤノンニコンのレンズと競争する上で、シグマの基本的な方針というのは、純正と同等かそれ以上の性能のレンズをより安価で、ということなのでしょうか?それとも、同じ値段で純正よりも高い性能のレンズを提供したいのでしょうか?


山木:それは、私たちがどのようにキヤノンニコンと競争しているのか、ということでしょうか?

IR:そうです。どのような戦略をとっているのでしょうか?

山木:基本的な方針はより高性能なレンズをより手にしやすい価格で、というものです。もちろん製品にもよりますけれど、基本的にはこの目標を達成するために努力しています。

IR:他の質問はDP Quattroについてです。発売はいつなのか、もう決まっているのでしょうか?

山木:まだ作っている最中なのでいつになるかはわかりませんが、夏が来る前に出せればと思っています。

IR:夏の前ですか。もし発売されたらテストするのがとても楽しみです!

フォビオンセンサーに関する質問もいくつかあります。今回のインタビューにはフォビオンからも二人同席してもらいました。ただ座って話を聞いてもらっているだけでとても申し訳ないです。

シリ・ラマスワミ(フォビオン社):レンズの話はとても興味深いです。

IR:これから発売される製品についても多くの質問を受け取ったのですが、もちろん全てに返答できないと思います。例えば「18-35mm F1.8のフルサイズ用は?24mm F1.8は?」といったものには答えられないと思います。50mm F1.4 Artの値段もまだ決まっていませんよね?

山木:まだです。

IR:発売されるのはいつ頃になりそうでしょうか?

山木:今年の春ですね。4月か5月になりそうです。

IR:50mm F1.4 Artに関してはもうひとつ質問があります。いわゆる「年輪ボケ」に関してです。


山木:ああ、はい。

IR:前の50mm F1.4はとてもボケが滑らかで素晴らしいレンズだったのですが、新しいレンズは非球面レンズを使っているので、年輪ボケの発生が心配です。これについて何かコメントはありますか?

山木:はい。年輪ボケに関しては私たちも改善に取り組んでいまして、新モデルでは良くなっています。

IR:良くなった?それは良いですね。

山木:さらに、滑らかなボケに関しても細心の注意を払って設計をしています。ボケのシミュレーションをすることができますので、現在の製造前モデルでは計算と同じ、滑らかなボケを得ることができています。

IR:素晴らしい!それは良いニュースですね!

もう一つ、これも返答しにくいだろう質問があります。シグマが既存のミラーレス、例えばマイクロフォーサーズに参入する可能性はあるのでしょうか?もしくは、シグマ自身のミラーレスの規格を作り、参入することは考えていますか?

山木:もし私たちが無限のエンジニアを抱えていたらできるかもしれませんが、リソースは限られています。最優先しているのはシグマのロイヤルカスタマーです。それはもちろん、SDカメラのユーザーです。



IR:そうですね。当然です。もしエンジニアと予算が倍あればできるのでしょう。

山木:できますね。

IR:別の読者もSD1 Merrillのクワトロバージョンについて質問してきています。同様にフォビオンのフルサイズについての質問もありますが、これも返事はしづらいでしょうね。