山木社長Q&A Part1:なぜペンタックス用のレンズは少ないのか他(その3)



カメラのグリップを制作しているとある読者からの質問で、彼はDP Quattroのデザインに非常に感心があるそうです。これはカメラのデザインとしてもとてもユニークだと思うのですが、何か説明をいただけますか?

山木:まず理解してほしいのが、このカメラは恐ろしく解像度が高いカメラだということです。ベイヤー換算で3900万画素相当になります。それなので、ユーザーも普通のコンパクトカメラを使うように、シャッターをカシャカシャ押すというような撮影をしないだろうと思いました。

もちろん、カメラをどのように使うかは全てユーザーに任せていますが、私たちは両手を使ってレンズとグリップを持って、しっかりとカメラを固定し、ブレを最小限に留めるために慎重にシャッターを切ることを想定しています。



IR:カメラの解像度が高いので、両手でしっかりとカメラを持ってほしいと。

山木:はい。しかし、カメラそのものは可能な限り最小のサイズになるように設計しました。カメラ内部にはD4やD800、1DXに匹敵するような巨大なシステムを積んでいるにも関わらず、です。

IR:それほど大きなシステムなのですか?

山木:はい、複数のプロセッサーとアナログフロントエンドに、大量のメモリーを搭載しています。とても大きなシステムですが、ボディはこのサイズまで小さくしました。

IR:なるほど。

山木:Quattroが大きいという人もいるんですが、それは既存のコンパクトカメラと比較した時の話です。でも、これは最高の解像度を持ったカメラなんですよ。

IR:本当にD4を持ち歩いているようなものなんですね。

山木:そうです。センサーから作られるデータサイズも大きいですし。

IR:これが最後の質問になります。新しいレンズを作るとして、どうやって明るさや焦点距離を決めるのでしょうか?次の製品のスペックをどうするのか、どうやって判断するのですか?

山木:そうですね、主に二つの方法があります。一つ目は、私たちには製品開発部門がありますから、そこのメンバーと議論してエンジニアに提案を出します。それに対してエンジニアから実現可能かどうか返事が来ます。

もう一つの方法はエンジニアから私に提案が来る場合です。「こういったレンズが作れるのですが、製品化してはどうでしょうか?」という感じです。後者の場合はものすごい性能のレンズが出来上がってくる事がありますね。

IR:それは考えたことがなかったです。つまり、製品開発部の人間はマーケティング部門と協力してどんな製品に需要があるのか調べているのですね。

山木:はい。私はとりわけ、製品開発部が大きな影響力を持たないように、最新の注意を払っています。もし開発部が完璧な計画を立ててエンジニアがそれに追随するだけだと、そこにマジックは何も起こらないからです。けれども、開発部があまり具体的ではない、コンセプトだけの、スペックに幅のある提案をすると、エンジニアがそれについて真剣に考えて、結果として良い製品が出来上がるのです。

IR:そうやってエンジニアと開発部のバランスをとることで、優れた製品を生産できるのですね。

山木:はい。それにエンジニアの方が開発部よりも知識が豊富ですし。

IR:開発部は例えば「18-200mm F2が欲しい」と言うかもしれませんしね。そういう提案は現実的ではないし、そもそも製造できない可能性もありますから。

山木:一般的には開発部は業界内部の論理で物事を考えていますが、エンジニアは目標とするコンセプトを把握したら、既存の枠組みを超えた解決を生み出すことができます。

IR:なるほど。

山木:スペックから話を進めることもできるんですけど、例えばエンジニアは「もしこのレンズをもっと大きくしていいんだったら、ここの部分が良くなりますよ」みたいな提案をしてくれます。けれども、開発部がとても具体的なスペックの提案をしたらエンジニアはそれに従うだけで、とてもつまらない製品が出来上がります。私はそれが好きではありません。私はエンジニアが何かマジックをするのが好きなんです。「もっと重くしてもいいですか?そうすればここまで行けますよ」私はこれを求めているんです。

IR:開発やマーケティングの人は「これ」が必要だと提案はできるけど、実現可能かどうかはわからないのですね。シグマでは例えば「明るい広角ズームを作ろう」と言うだけで、そのあとはエンジニアが何が実現可能か詰めていくと。その後「コストをこれくらいかけていいなら、これができます」とか「大きくしていいなら、こうできます」と話が続くと。面白いですね。

山木:もちろん、いつもそうやって作っているわけではありません。かなり具体的な要望をマーケティング部から受けて、それに従うこともあります。

IR:これはフォビオンセンサーというよりはカメラに関する質問なのですが、現在のDPというコンセプトは大きなセンサーに単焦点レンズの組み合わせです。DPズームというものを作らないのはなぜなのでしょうか?



山木:何度か調べてみたのですが、レンズがとても巨大になってしまうのは避けられないんです。

IR:ズームにするとコンパクトなカメラというコンセプトが崩れてしまうのですね。

山木:けれども、完全に諦めたわけではありません。現在も調査中です。ただ、考えて欲しいのはDPはAPS-Cサイズのセンサーを搭載しています。私たちはAPS-C用のレンズもいくつか生産していますが、それを組み合わせると・・・

IR:ああ、18-35mm F1.8はそれだけでDPのボディよりも大きくなってしまいますね。なるほど。