シグマCEOインタビュー:なぜマイクロフォーサーズのレンズは少ない?フルサイズフォビオンは実現可能?(その1)


元記事:Sigma Q&A with Kazuto Yamaki: Why no Micro Four Thirds lenses, and is a full-frame Foveon feasible?


フォトキナ2014で、シグマCEO山木和人氏とインタビューを行ったが、ようやく公開できるようになった。山木氏との対話はいつも楽しく、貴重な情報を与えてくれる。今回のインタビューでは、シグマの最近の製品について、なぜ150-600mmの望遠レンズを二本発表したのか。また、マーケットの需要に応じてどのようにレンズを開発し、ラインナップを揃え、生産体制を整えていくのか、話を聞いた。


デイブ・エッチェルズ(Imaging Resource):今年も残すところ、一四半期となりましたが、ビジネスの調子はいかがでしょうか?シグマは順調ですか?

山木和人:幸運にもとても順調ですね。事業は成長を続けています。それほど急激に伸びているというわけではないのですが、確実に成長しています。実を言うと、一番の問題は製品の供給不足なんですよ。

IR:そうなんですか?

山木:はい、注文を大量に抱えていて、生産が追いついていません。


シグマ会津工場の入り口


IR:原材料が仕入れられないとか、部品が調達できないのですか?ガラスや他の部品の何かが不足しているのですか?

山木:簡単に言うと、私たちの生産能力を超えた注文を受けている状態なのです。

IR:ということは、何かが足りなくて生産できないのではなく、生産量に限りがあるということでしょうか?

山木:そうです。過去2年間にわたり、私たちは生産設備に多大な投資をしてきました。とりわけレンズの研磨と加工処理の能力を上げたのですが、思っていたほど生産量を増やすことが出来ていません。それには理由が2つあります。

一つ目の理由は、最近のシグマのレンズは、過去の製品と比べて、高い性能を発揮するために、より多くのエレメンツを使っているからです。例えばですが、昔13枚から14枚のエレメンツだったレンズは、現在では17枚から18枚、時には20枚、21枚ものエレメンツを使用しています。同じスペックのレンズでも、昔は一つにつき13枚を研磨していればよかったのですが・・・

IR:現在は20枚も研磨しないといけないと。


シグマ150-600mm F5.6-6.3 DG OS HSM Sports
エレメンツは24枚


山木:それが一つ目の理由です。もう一つの理由は、ご存知のように、私たちは生産工程のほとんどを自社で行っており、部品や原料の仕入先はそれほど多くありません。私たちは地元の仕入先しか使いませんから、そもそもの生産量は限られています。例えば中国や台湾の仕入先に頼んで短期的に生産量を上げるようなことが出来ません。

IR:なるほど。単にスイッチを入れれば生産量が増えるというような簡単な問題ではないんですね。具体的にはどの工程がネックになっているのですか?レンズ研磨機が足りないのか、鋳造機が不足しているのか。その両方ですか?

山木:実はその二つは2年前にはボトルネックでした。しかし、現在は投資を行い、研磨はネックになっていません。問題は組立工程です。たくさんの工員を雇うという選択肢もあるのですか、それは出来ません。もちろん、従業員の雇用は続けているのですが、将来のことを考えなくてはいけないのです。将来の見通しは明るいといえば明るいのですが・・・

IR:必要以上に雇うことをしたくないと。なるほど。


シグマ会津工場のレンズ研磨機


山木:もし、多くの人を雇ったあとで、市場が許容範囲を超えて縮小してしまったら、余剰人員を削減しなくてはいけません。これは本当に避けたいんです。雇用に関しては私は常に保守的です。

IR:シグマの雇用に関する考え方は、先代の道広氏の時代から一貫していますね。かつて日本の企業も全て同じような考えでした。従業員をとても大事にし、解雇というのは本当に忌むべきものでした。過去の不景気によって、ほとんどの企業が雇用を第一に考えるという方針を捨て去ってしまいましたが、シグマは今でも従業員を守っており、この方針はシグマの取引先にも広がっています。ほとんど全てのレンズ製造会社が生産拠点を海外に移してしまい、シグマが唯一の取引先という会社もいくつかあります。シグマは自社だけではなく、取引先の従業員やその家族に対する責任もあると、山木氏はこれまでに何度も言及してきました。

カメラ市場に関しては見通しは明るいけれども、慎重に対応したいということでしょうか。

山木:そうですね、決して悲観的ではないのですが、注意深く対応したいと思います。雇用に関して言えば、私たちの地域は地震津波原発事故の関係で、とても人手不足です。復興のために沢山の人が建設や原発のために働いているのです。

IR:なるほど、労働者がそちらの方に流れてしまっているのですね。とても興味深い。シグマの工場は福島第一原子力発電所から車で数時間のところにあります。ここは2011年の地震津波で大きな被害を受けました。この地域の復興をするために大量の労働者が必要になっています。とりわけ福島第一では現在も状況を沈静化させるために作業員が必要なので、ドミノ倒しのように会津の雇用にも影響を及ぼし、シグマとその取引先の雇用にも影響を与えています。



山木:地元の人間は基本的にそこで働きたいものです。それに復興関連事業の給料は良いんですよ。なので、能力のある人を雇用するのは難しくなっています。

IR:なるほど。しかし、シグマの売上が順調で、生産力も向上したというのは良いニュースですね。

山木:はい、とても幸運だと思います。多くのユーザーが私たちの製品を選んでくれたことをありがたく思います。

IR:そうですね。特にここ数年、グローバルビジョンのレンズを発表してからはシグマに対するユーザーの見方がとても変わったと思います。素晴らしいことですね。

さて、今回はいつもほど多くの質問を用意してきわたわけではないのですが、シグマのカメラに関して質問があります。私たちの読者の一人が書いてきたのですが、「クワトロは素晴らしいです。フルサイズのクワトロはまだですか?」と(笑)

クワトロセンサーはフルサイズ化することが可能なのでしょうか?フルサイズのクワトロを作ることが可能なのか、それとも、マーケットの需要が投資に見合わないのでフルサイズ化はしないのでしょうか?


シグマ dp Quattoroシリーズはとても独特のデザインをしている


山木:特定の製品に関する将来の展開については、申し訳ありませんが答えることは出来ません。しかし、より大きなセンサーに対する要望はユーザーの方からたくさん頂いています。

IR:ユーザーからそういう意見が多く来るのですか?

山木:そうです。大量にです。なので、現在この件について調査中です。

IR:私たちの編集者の一人もセンサーサイズについて質問があります。何年も前になりますが、かつてフォビオンには1/1.8インチのセンサーがありました。またここ数年、1インチのセンサーを搭載したカメラが非常に人気です。フォビオンがこの方向に進む可能性はないのでしょうか?ユーザーから1インチのセンサーを作って欲しいという要望はあるのでしょうか?それとも、やはり多くは大型のセンサーを要望しているのでしょうか?

山木:そうですね、私も1インチのセンサーには利点があると思います。とてもいい大きさです。しかし、1インチで高画質な画像を作ろうとすると、現行よりもピクセルサイズを縮小しなければなりません。ピクセルの構造を変えるのにはとても多くの技術的リソースが必要になりますし、時間もかかります。もしピクセル構造を変えるとなると、とても慎重に調査をしなければなりません。


2004年に発売されたポラロイドのx530は小型のフォビオンセンサーを搭載している。
現在のところ、シグマ以外から発売されたフォビオンを使用した民生用のカメラはこれのみ



IR:なるほど、ピクセル構造を変えるというのは全く新しいセンサーを開発するのと同じくらいの手間がかかるのですね。すると、フルサイズ化するならピクセル構造は同じままで単純に画素数を増やすことになると。

山木:それも選択肢の一つです。もちろん、大きなセンサー用にピクセル構造を変えるという方法もあります。

IR:より大きなセンサー用に合わせた構造にするのですね。

山木:しかし、やはりピクセル構造はそのままで、サイズだけを大きくする方が簡単ですね。

IR:面白いですね。そうなるとものすごい解像度になりそうですね。


2013年発売の18-35mm F1.8 DC HSM Artは画期的な設計で、世界初のF1.8通しのズームレンズ


ようやく18-35mm Artの性能に見合うセンサーが出来そうですね。もちろんこのレンズはAPS-C用ですけれども。