シグマCEO山木社長インタビュー(Fotografia 2014)(その3)

(その2の続き)


-スマートフォンはサイズの制限もあって小さなセンサーを使わなければいけないですから、画質はどうしても悪くなります。今後はスマートフォンの画質も向上していくと思いますか?

山木:そう思います。しかし、通常のカメラとは異なった方法で進化していくと思います。もちろん、内蔵されるセンサーやレンズの品質も向上していくと思いますが、画質の向上に寄与するのは画像処理エンジンの発展によるところが大きいでしょう。

また、スマートフォンのカメラはハイエンドカメラとは少し違った方向に進んでいくと思います。なぜなら、スマートフォンはコミュニケーションの道具だからです。写真をSNSにアップしたり、楽しんでいるところを写真を撮って友人に直接画像を送ってやり取りしたり、コミュニケーションの道具として写真を使っています。従って、スマートフォンの画像もコミュニケーションに適した形で向上していくと思います。高解像度はあまり必要ない代わりに、小さなディスプレイでも見栄えのするような画像が好まれるでしょう。

しかし、ハイエンドな一眼レフやミラーレスカメラにとって、それは「写真」なのです。ディスプレイで画像を拡大し、大きなサイズにプリントし、隅から隅まで何が写っているのかを確認する。陰影はどうか、グラデーションは滑らかか。こういう「写真」とスマートフォンの「写真」とでは、評価基準が異なります。

一眼レフの液晶ディスプレイも大きくなってきてはいますが、実際のプリントと比べたら遥かに小さいです。なので、スマートフォンとハイエンドカメラとでは、目指しているものが違います。先ほどの質問に答えると、スマートフォンの画質は向上していくと思いますが、方向性は異なるでしょう。

-では、フォビオンの話に移りましょう。シグマがフォビオンを買収したのは2008年です。フォビオンはベイヤーセンサーとは違い、画像補完をする必要がありません。モザイクフィルターを使った画像補完は画質に大きな影響を与えるので、フォビオンの技術は画質を向上させるのにとても重要だと思います。また、フォビオンは輝度モアレは出ますが、偽色は発生しません。現在の課題は感度だと思うのですが、フォビオンの感度性能は向上していくのでしょうか?

山木:フォビオンそのものはとても感度が高いセンサーです。カラーフィルターがありませんから、光をすべて取り込むことが出来ます。しかし、構造上、高感度の画質を向上させるには大変ですね。

-色の再現性はどうなのでしょうか。フォビオンセンサーで取り込んだ異なる周波数の色情報を、実際に目で見たものに近づけることはできますか?ベイヤーセンサーは色の取り扱いが比較的容易だと思います。各色ごとに特定の周波数を取り込んでいるので、その情報を元に色を再現しやすいです。しかし、フォビオンの構造では目で見た通りの正確な色情報の再現が難しいと感じています。

山木:実は、視覚が行っている色情報の処理は、フォビオンの構造と似ているんですよ。フォビオンはBGRの各層ごとに取り込める周波数が重なっています。それぞれの層は純粋な青ではないし、赤でも緑でもありません。

人間の色覚もフォビオンと同じで、それぞれの視細胞は幅広い周波数の色を捉えることが出来ます。錐体細胞L(Large:長波)M(Medium:中波)S(Short:短波のそれぞれの周波数に対応したもので、多くの周波数が重なりあっており、赤・緑・青の純色を捉えるものではないんです。

そのような意味で、フォビオンは人間の視覚にとても似た構造をしているんです。もちろん、これを実際に画像処理して写真にするのはとても大変なのですが、この周波数の重なりがあるおかげで、滑らかで正確なグラデーションを再現することが可能になっています。ベイヤーセンサーは純粋な赤・緑・青しか補足することが出来ませんから情報にギャップがあります。もちろん、ベイヤーセンサーもいくらか重なり合ってる部分はありますが、ギャップの谷間にある情報はほとんど欠落しています。

しかし、フォビオンは全ての色の情報を記録しています。人間の視覚に最も近いのがフォビオンなのです。

フォビオンは色情報をしっかりと補足できるのですが、画像処理になるとまた別の話で、従来の製品と同じような画質を達成するのにはいくつか困難があります。フォビオンに向けた専用の処理方法・処理装置を開発していかなくてはならないからです。

ベイヤーセンサーの画像処理方法はこれまでの蓄積で完全に標準化されています。実はほとんど全てのメーカーが同じ技術を何年にもわたって使い続けているんですよ。ベイヤーセンサーを使用すれば、それらの過去の実績を踏まえた最新の製品を使うことが出来ます。しかし、フォビオンは情報の処理方式が全く違います。なので、私たち自身でフォビオン用の画像処理を開発していかなくてはいけないのです。

-将来的にもう少し大きな、フルサイズで高解像度のフォビオンセンサーを開発する予定はあるのですか?

山木:多くのユーザーから同じ質問を何度も受けているのですが、将来の製品の話でもありますので、コメントは差し控えたいと思います。

個人的にはAPS-Cセンサーにはいくつかメリットがあると思っています。例えば、フルサイズ用のレンズをAPS-Cに使えば、レンズの一番美味しい所を使えます。中心から周辺に至るまで、高画質な画像を得ることが出来ます。実際に写真を目の前にした時、このように均質で高画質であることはとても重要なのです。

例えば私たちのDPシリーズを使えば、そのような均質で高画質な写真を撮ることができます。DPシリーズのレンズは中央から周辺まで非常に高性能なので、写真の隅から隅まで高画質を楽しめます。

しかし、これがフルサイズになると、画面の隅々まで高画質であるというのは、とても難しいのです。このような意味で、APS-Cセンサーにはまだ利点があると思っています。

-しかし、フルサイズには様々な被写体に対応できるというメリットがありますから、ハイアマチュアやプロはやはりフルサイズを好むでしょう。

山木:そのとおりだと思います。また、個人的には中判や8x10のような大判カメラで撮られた画像が好きなのです。このような写真を見ると、その画質にとても驚かされ感動します。

私の個人的な夢は、この8x10で撮られた写真の画質に匹敵するようなカメラを作ることです。そのような意味で、大きなセンサーには大きなメリットがあるということは理解しています。

-つまり、将来的には?

山木:ノーコメントです(笑)

-クワトロセンサーになって、これまでよりも青色の層が高解像度になりました。どうして三つの層のうち、青色だけが高解像度なのでしょうか?

山木:クワトロセンサーは、私たちが1:1:4と呼ぶ構造になっています。1:1:4というのはRGBがそれぞれ1:1:4の比率で、青色が4倍の画素を持ちます。

これに対して、従来のフォビオンセンサーは1:1:1の比率で、RGBの比率も同じです。1:1:1は最初に開発されたフォビオンの構造なのですが、これにはいくつか弱点があります。例えば、画素数を増やしていくと、データサイズもそれに比例して大きくなってしまいます。実際にフォビオンは出力画素数3倍の画素を持ちますから、RAWファイルはデータの読み出しや、画像処理、記録時間、その全てが遅くなってしまいます。これはカメラにとっては大きな問題なのです。また、センサー内部の構造も配線が複雑になってしまいます。

しかし、1:1:4構造にすると、センサーの構造が単純になり、データ量も軽くなります。青色の層はその場所に入った光の輝度情報を補足しますから、下層の情報を利用することで正確な色を再現できます。これはベイヤーの画像補完処理とは全く異なるものです。ベイヤーは異なる場所の情報を組み合わせて画像を演算していますが、クワトロは同じ位置にある画素を計算して色を出しています。青色の層の情報と下層の情報を組み合わせてサンプリングし直しているので、1:1:1構造と同じ品質の画像を作ることが可能になっています。

-最後の質問になります。ヨーロッパやイタリアはシグマにとってどれほど重要な市場なのでしょうか?

山木:ヨーロッパ全体は、もちろんシグマにとってとても重要です。ヨーロッパはシグマにとって一番大きな市場なんです。実際に北米やアジアよりもヨーロッパの方が大きいので、最重要視しています。

また、ヨーロッパの人たちは高品質な製品を評価すると感じています。彼らは高品質な製品を好むので、ヨーロッパ市場で受け入れられるということはとても大事です。

イタリアもとても大事な国です。人々は写真が好きですし、高い品質を好みます。イタリアの人たちは私たちの企業方針を支持してくれていると感じますので、イタリア市場は重要です。

また、私は個人的にイタリアがとても好きなのです。イタリア料理、イタリアのワイン、そして、イタリアの服が好きです。ここイタリアで人々と協力して長い間ビジネスができているということに、とても感謝しています。もっと多くのイタリアの人達に、私たちの製品が受け入れられるようになることが私の夢ですね。

-今回はインタビューに時間を割いていただき、どうもありがとうございました。

山木:ありがとうございました。