シグマCEOインタビュー:なぜマイクロフォーサーズのレンズは少ない?フルサイズフォビオンは実現可能?(その3)

dp Quattoroの持ち方に悩んだことはないだろうか?これが正しい持ち方だ!


(その2の続き)


IR:私たちの編集者からまた質問です。以前のインタビューでDPシリーズにズームは出ないのか尋ねました。その時の返事は、サイズが非常に大きくなってしまうので現実的ではないということでした。しかし、現在のdp Quattroシリーズは、ボディそれ自体が非常に大きくなっています。ということで、クワトロはもうボディが大きいのだからステップズームのようなレンズは出来ないのでしょうか。それとも、やはり画質を優先すると単焦点しかないのでしょうか。

山木:それは確かに正しいですね。今のクワトロはボディが大きくなっていますから、大きなレンズになっても大丈夫だと思います。クワトロは右手でグリップを握り、左手でレンズの下部を支える形になっていますから。

IR:確かに両手で持つ設計になってますね。

山木:なので、クワトロのレンズは大きくなる余地はあります。ただ、問題なのは画質です。とても高性能なズームレンズを開発しないといけないですから、これは難しいと思います。

IR:確かに、レンズはセンサーの解像度に合わせないといけないので、とても高い性能が必要ですね。

山木:特に標準ズームレンズは難しいです。広角ズームだったらまだ大丈夫なんですが。

IR:広角のほうが容易なのですか。標準ズームだと・・・

山木:高性能を発揮するのは非常に困難です。

IR:さて、とても興味深い150-600mmレンズが発表されました。しかも同じスペックで2本になります。150-600mm F5-6.3 DG OS HSM Sportsが定価26万円、そして150-600mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporaryが、これはまだ値段は発表されてませんね。だいたいどれくらいになりそうですか?

山木:まだ決めていません。しかし、とても手に入れやすい価格になると思います。このレンズは、元々一つのプロジェクトから開始したんですよ。

IR:そうなんですか?

2008年発売の150-500mm F5-6.3 APO DG OS HSM
このレンズの後継機は2種類発売され、望遠端も伸びている


山木:これは以前発売していた150-500mm F5-6.3 APO DG OS HSMの後継機種にあたります。この望遠端を600mmまで伸ばすことが最初の目標でした。私の記憶では2年前に開発を開始したと思います。

その時設定した目標は、まず高画質を達成することでした。特に色収差を最小限に抑え、同時に600mmを達成することを目指しました。二つ目の目標は、ハイアマチュアやプロ写真家に向けて、防塵防滴性能を備えた鏡筒を作ることでした。そして、最後の目標が150-500mmと同じくらいの、比較的軽量でコンパクトなレンズにすることでした。この三つの目標を妥協する気はなかったのですが、研究をするにつれて、何かを犠牲にしなければ目標を達成するのは不可能だという結論に至りました。

最終的に、このプロジェクトを二つに分けることを決断しました。スポーツラインは大きく、重く、高価になりますが、最高の画質と性能の高い鏡筒を備えたレンズになりました。そして、コンテンポラリーラインのレンズは軽量でコンパクトながらも、良い画質である、そういうレンズを目指しました。

IR:なるほど。開発の段階で、もし3つのゴールを全て達成しようとしたら非常に高価なレンズになってしまうとわかったのですね。さらに、もし画質を再優先するのなら、レンズが重くなってしまうのは避けられないと。

山木:実際には、この二つのレンズは画質でもそれほど差があるわけではないんですよ。特に中央の画質にはほとんど違いはありません。違いを見分けるのは非常に困難だと思います。しかし、望遠端で周辺の画質を比べると、スポーツラインはコンテンポラリーと比べて軸上色収差がわずかになります。

IR:ということは、画質の違いは600mmの周辺に出る軸上色収差だけだと。

山木:レンズの設計というのは非常にデリケートなのです。望遠端の周辺の収差という一点だけを改善したくても、それだけでレンズが巨大になってしまうのです。


SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporary
スポーツラインと比べて軽量で価格も抑えてある


IR:特にこのレンズはエレメンツも多いですから、全てコントロールするのは大変でしょうね。

山木:そうですね。

IR:しかし面白いですね。この二つは解像度の点ではほとんど同じで、軸上色収差の違いだけだと。しかし、軸上色収差そのものはソフト的に処理するのが容易だと思います。シグマはAdobeにレンズプロファイルを提供していますよね。

山木:確かにそうです。けれども、やはりユーザーは性能の良いレンズを欲しがるんですよ。なので、私たちもそれに合わせないといけません。

IR:なるほど、わかります。私も高性能レンズが必要ないと言うつもりではありません。しかし、高価なレンズが買えない人でも、コンテンポラリーラインで十分な高画質を得られるわけですね。

別の見方をすれば、画像処理の手間を惜しまなければ、高性能で軽量なレンズが手に入る、ということでもあります。周辺画質だけをあとから処理すればいいのですから。

もう一つの質問は18-300mm F3.5-6.3 DC Macro OS HSM Contemporaryです。これはシグマ、ニコンキヤノンソニーミノルタペンタックスの各マウント用に開発がアナウンスされています。これがソニーのEマウントやマイクロフォーサーズ用に発売される可能性はあるのでしょうか?

山木:ありません。というのも、そのレンズは従来の一眼レフ用に設計されているからです。もし、ミラーレス用に発売するのならフォーカス方式を変更しないといけないので、光学設計から変えなければなりません。

IR:先ほども話したように、ライブビューだと違う方式を取らなければいけないのですね。

山木:そうです。ミラーレス用だとステッピングモータか、ボイスコイルモータに変更する必要があります。

IR:興味深いですね。

山木:ミラーレスでは、AFの動作中は常に被写体を追い続けていないといけないんです。フォーカスの合う場所を探して常に前後に行ったり来たりするので、常にレンズが動いています。そのために、フォーカス用のレンズはとても軽量である必要があります。

IR:AF速度を早くするために軽くないといけないのですね。

山木:そうです。また、トルクが強くてサイズの小さなモータというのは、それほど多くはありません。やはりレンズを軽くしないといけないのです。

IR:なるほど、非常に軽量にしないといけない。そうなると、レンズ設計そのものが全く別のものになるわけですね。

山木:全く違います。

IR:動画に向けて光学設計を変えるとより高価になるのでしょうか?それとも、画質が犠牲になるのですか?

山木:値段が上がるわけではありません。単純に全く別の設計や製造方法に変わるだけです。

IR:18-300mmのミラーレス用が出ないことを考えると、それを作るのにコストがかかるか、製造が難しいのでしょうね。とても面白いです。

さて、これは個人的な感想なのですが、クワトロのアップデートの頻度と速度にはとても感銘を受けました。私たちがクワトロの画質に問題を見つけたすぐあとで、シグマはそれを改善するアップデートを行いましたね。

山木:実を言うと、問題のほとんどはバグだったのですよ。なので、製品の出荷前に修正されてしかるべきでした。恥ずかしい話です。

IR:バグは修正されましたけど、今後もクワトロのアップデートは行われるのですか?

山木:はい。クワトロの改善は今後も行っていきます。

IR:ユーザーから要望が色々出てると思いますけど、そういうのも実装していくのですね。

山木:そうですね。

IR:この件についてはもう少し話をしたいのですが、残念ながら時間が来てしまいました。今日はとりあえずここで終わりたいと思います。ありがとうございました。

山木:ありがとうございました。あなた方と話をするのはいつもとても楽しいんですよ。技術的な話が多いし、詳しいですから。他のインタビューとは全く違う面白い質問が多いです。

IR:そうなのですか?とても光栄ですね!