SIGMA Photo Pro Monochrome Modeはなぜすごいのか?

シグマは2013年の1月8日に「SIGMA Photo Proにモノクロ専用モードを追加する」と発表したんですが、その詳しい話を聞いて僕は密かにショックを受けました。

「従来のモノクロームは、カラー処理を行った後にモノクローム画像を生成していましたが、今回開発したモノクローム専用の現像は、カラー処理を一切行わずモノクロームの画像生成に最適な処理を行っています。」

との説明なんですが、僕はずっと昔から「SPPのホワイトバランスでモノクロ指定すると『カラー処理を一切行わずモノクロームの画像生成に最適な処理を行ってい』るに違いない」と勝手に思い込んでいたんです(笑)

まさか、今までのモノクロが単にカラーの彩度を落としただけだったとは!マジかよ!

ということで、「え?今までのモノクロは何だったの?」というちょっとした失望と、「ようやく本物のフォビオンのモノクロに出会えるのか!」という喜びが交差した、非常に微妙な気分でアップデートを心待ちにしているわけです(笑)

で、今回はこれだけの話なんですが、どうもネットのあちこちを見てみると、このモノクロモードの処理が今までの方法とはどう違うのか、あんまり広く知れ渡ってないようなので、僕が知ってることと、たぶんこういう処理だろうっていう予測を含めて、単純化したモデルを使って、モノクロモードの仕組みについて解説してみたいと思います。

(ちなみにあくまでも僕の勝手な予想なので実際の処理とは違うかもしれません)


さて、まずフォビオンの基本概念から説明します。

イメージ 1

フォビオンは要するにこんな感じですね。上から青を感知する層、緑を感知する層、赤を感知する層の三つに分かれてます。

光は波長によって色が違ってるんですが、その波長によってシリコンに浸透する深さも変わってくるので、フォビオンは色の違いを記録できるわけです。

イメージ 2

例えば青が10、緑が8、赤が6ある光があるとしましょう。そんで、フォビオンは各層で対応した色を全部捕捉し、別の色は通過するごとに2つずつ、色が減っていくとしましょう。

イメージ 3

イメージとしてはこんな感じです。全部で10+8+6=24の光があって、一番上の層で10+2+2=14を記録、二番目で6+2=8を記録、一番下で2を記録するわけです。

シリコンの特性は物理的に決まってますから、通過する時の光の減衰量は一定です。なので、各層で得られた数字を逆算して、元々あった光の各色ごとの量を正確に再現できるわけです。フォビオンが綺麗なのは各ピクセルで正確に色と輝度が測定できるからなんですね。


問題になってくるのは光の量が足りない時です。各層を通過すると必ず光が減ってしまうので、光の量が足りないと情報が狂ってしまいます。例えば上の図の10,8,6を半分の5,4,3にしてみます。で、各層を通過するごとに減る光の量は変わらない2のままとします。

イメージ 4

一番下の層で記録できるデータがゼロになってしまいました。こうなってしまうと元々の色が「赤がちょっと少なかっただけ」なのか「赤が全くなかった」のか、区別がつきません。この状態からでもどうにか計算して色を作ってると思うんですが、それが本来の色と同じである保証はありません。

厳密には、入ってきた光が途中で消えることはなく、弱い光でも最下層に到達します。しかし、イメージセンサーには暗電流という、常にセンサーに流れている微弱なノイズがあって、センサーに入ってきた光子の量が少ないとノイズに紛れて検出できなくなってしまいます。なので、信号が検出できないくらいの少ない光のデータは実質消えてしまうことになります。

実際のセンサーはもっと複雑で、いろいろな方法で情報を記録できる工夫がされてると思うんですが、「各層を通過していくごとに光が減っていくので、入ってくる光の絶対量が足りないと色の再現が難しくなる」って考えはたぶん変わらないと思います。

なので、フォビオンをカラーセンサーとして考えた時、やっぱり「高感度に弱く、低感度でいい写りをするセンサー」なのは仕方ないのかなと。



さてしかし、これが色のことを忘れてモノクロだけで考えたら、全く話は別になります。高ダイナミックレンジで低感度から高感度まで強い、最強のモノクロセンサーに変わる可能性を秘めているわけです。


最初に見た図をもう一回見てみましょう。

イメージ 5

10+8+6=24の光が入ってきたのを、各層それぞれ14+8+2=24として記録してるわけですね。色のことを考えず、光の絶対量だけで考えたら入ってきた量と測定できた量に変わりはありませんから、完璧に輝度情報の再現ができるわけです。

光の量が半分になった二つ目の図も、もう一回見てみましょう。

イメージ 6

これも、カラーセンサーとして考えたら三番目に情報がないので色の再現がおかしくなりますが、モノクロとして考えると、5+4+3=12の光が入ってきたのを、各層で9+3+0=12として輝度情報を完璧に再現できてます。

さらに光が半分になって青2.5、緑2、赤1.5になったとしましょう。

イメージ 7

二番目、三番目の層では全く情報が記録できていません。この状態では色の再現は不可能です。

けれども、これがモノクロでいいのだとしたら、一番上の層だけで2.5+2+1.5=6の情報を記録できています。これは入ってきた光の量と同じことになるので、輝度の再現はできます。


つまりどういうことか。

これまででは全く絵を作れないようなわずかな光でも、センサーに届いた光をちゃんと測定できるので、高感度に強くなるし、低感度でも暗部の階調が正確になるわけです。


さらに、モノクロモードでは暗部だけでなく、ハイライト方面でも改善が見込まれます。

センサーはバケツのようなもので、そこに光を貯めて、集まった光の量を電気に変えて測定してるのですが、貯められる光の量には限界があります。ある一定量を超えると光が飽和して真っ白に飛んでしまうわけですね。

フォビオンは三層構造なので、一段目、二段目が飛んでしまったら色の再現は不可能で、現像しても色転びが起こったりしていました。しかし、モノクロなら、三段目が飽和しなければデータとして入ってきた光の量を再現できる可能性が高くなります。

プレスリリースで「各層で捉えたRGBそれぞれの輝度情報を忠実に再現し、全体のダイナミックレンジが広がり、ハイライトからシャドーまでのトーンの再現性が良好なモノクローム画像が得られます」と書いてあるので、ハイライトも今まで以上に粘るようになっていると思います。


ということで、フォビオンのモノクロ愛好家として、今回のモノクロモードの実装がどれだけ革新的なのか、簡単に説明してみました。バージョンアップが待ち遠しいですね!