山木社長インタビュー (CP+2013)




CP+は日本のカメラメーカーのトップに会えるいい機会である。今回はシグマCEOの山木和人氏に話を伺った。

Digital Focus(以下DF):35mm F1.4レンズの開発経緯をお聞かせ下さい。

山木:今回の開発にあたり心がけたのは最高の光学性能を達成することです。とりわけ軸上色収差をなくすことを目標にしました。軸上色収差は撮影後に補正することがとても難しい収差なので、これを克服したかったのです。

今のデジタルカメラはレンズの欠点をソフト的に処理しているのですが、基本的にこのような補正は画質を損ないます。例えば口径食を補正するとノイズが増えますし、歪曲を補正すると解像度が落ちます。それゆえ、まずは補正されるべき欠点を持たないレンズを開発することが重要になるのです。

DF:D800のような高画素数のカメラが登場し、単焦点でなければその解像度に追いつかないようになってきています。このような高画素数のカメラに対応できるズームレンズを作ることは不可能なのでしょうか?

山木:レンズに不可能はありません。新素材や新技術、新しい開発ソフトの登場などで、これまで不可能だった複雑な設計も可能になり、性能は上がり続けています。高画素センサーに対応するズームレンズを開発することは十分可能です。

DF:DP3と同時にSIGMA Photo Proに新しい機能を追加すると発表されました。このモノクロモードについてもう少し詳しく説明していただけますか?

山木:他のカメラメーカーと同じように私たちのカメラにもモノクロで撮影する機能はあったのですが、それは単にカラー画像の彩度を落としただけのものでした。しかし、新しいモノクロモードは全く異なる方法で現像をしています。

フォビオンセンサーは他の一般的なセンサーと違い、カラーフィルターを使用していません。例えばライカモノクロームに使用しているモノクロセンサーのように、フォビオンは各ピクセルごとに正確に輝度を測定できます。それゆえ、今までよりも階調が豊かでダイナミックレンジの広いモノクロ画像を作ることができるのです。

DF:モノクロモードは特定のカメラにしか実装されないのですか?

山木:モノクロモードはRAWで撮影した時しか使えませんが、基本的にはソフトウェア上で処理します。RAWで撮影し、SIGMA Photo Proを使えばそのままカラーで現像したり、モノクロにしたり自由にできます。また、色の情報は保持したままなので、カラーフィルターを付けたのと同じ効果をモノクロ現像で再現することもできます。

DF:フォビオンなら全てモノクロで現像できるのですか?

山木:メリルセンサーを搭載したフォビオンなら全て使用可能です。フォビオンは世界で1つだけの、本物のカラー写真と本物のモノクロ写真を一台で撮ることのできるカメラになりました。

DF:シグマはミラーレス用にコンパクトな単焦点レンズを作っていますが、ミラーレス用のズームレンズを作る予定はありますか?

山木:まず最初に単焦点を出すことにしたのは、熱心な写真愛好家に向けて画質の良いレンズを提供したかったからです。もちろん、開発は優先順位に従って行なっていくので、将来的にはミラーレス用のズームレンズも発売したいと思っています。

DF:DPシリーズにズームを搭載する可能性はありますか?

山木:難しいですね。過去にもDPシリーズにズームを付け加えるべきかどうか社内で議論をしたのですが、やはり厳しいという結論でした。ボディサイズがどうしても大きくなってしまいますし、小さくすると今度は画質が犠牲になってしまいます。

DF:F1.4レンズに手ブレ補正機能を搭載することは可能なのですか?

山木:技術的には全く問題はありません。個人的に明るいレンズに手ブレ補正は必要ないと考えていますが、ユーザーからの要望が多ければ将来的には搭載していくことになると思います。

DF:フォビオンセンサーの将来についてお話をしていただけますか?

山木:今はまだ秘密にさせて下さい(笑)。私達はまず画質の向上に取り組まなければいけません。なので、次世代フォビオンのセンサーサイズや解像度などのスペックについて話すことはできません。一つ言えるとすれば、フォビオンセンサーを大きくすることに技術的な障害は全くないということです。しかし、今はもっと画質を上げることに集中しています。

DF:DPシリーズの画質は素晴らしいのですが、そのせいか一眼レフであるSDシリーズがあまり評価されていないように見えます。シグマは今後も一眼レフを作り続けていくのでしょうか?

山木:もちろんです。私たちはキヤノンニコンといった巨大なメーカーを相手にしているわけではなく、もっと限られたユーザーに向けてカメラを作っています。日本では特別な目的のためにシグマの一眼レフを使っているユーザーが沢山います。彼らはたいていキヤノンニコンなどの一眼レフも併用しており、フォビオンの画質が必要な時にシグマのカメラを使っています。私たちはこういったユーザーの要望に応えていかなくてはいけません。

DF:シグマが今後動画用のレンズに力を入れていくということはあるのでしょうか?

山木:静止画用のレンズに必要なモーターと動画用に必要なモーターは違います。なので、レンズメーカーが動画用のレンズを作るのは大変です。モーターだけではなく、レンズ配置も全く違う発想で設計しなければなりません。

今一般的に使われているモーターはトルクはあるのですが動作音が大きいので別の方法を考える必要があります。APS-Cフォーサーズといった小さなセンサー用のレンズならまだ何とかなるのですが、フルサイズ用のレンズで画質がよく、さらに高速で静かなモーターを使うとなると、相当難しいのが現状です。

DF:ありがとうございました。