DP2 Merrillレビュー&RX100、M9、NEX-7、X100との比較(その3)

ISO400





ISO100とISO200は素晴らしい画質だ。ISO400はそれより少し劣るが、後処理で必ずノイズリダクションをかけなければならない、というほとではない。ISO400以上になるとかなり画質は怪しくなる。私にとっては、DP2 Merrillは高感度が得意なカメラではない。

暗部も滑らかで、画像を拡大して見たりしない限り、ISO100、200、400ではバンディングノイズもほとんど気にならない。


バッテリー


DP2 Merrillのバッテリーは貧弱だ。だいたいバッテリーひとつで70枚から120枚くらいしか撮れない。バッテリーが持たない原因は二つあって、一つはバッテリーが小さすぎること。もう一つはフォビオンセンサーと二つのプロセッサーの組み合わせが大量の電気を消費することだ。

この問題を解決するにはもっと大きなバッテリーを使うしかないが、ボディは今の時点でかなり大きくなってしまっている。シグマの技術者はおそらく大きなバッテリーを諦めて今のボディサイズを維持したのだろう。その見返りとして、シグマはカメラにバッテリーを二個同包した。私が間違っていなければ、これはデジタルカメラの歴史の中で初の出来事のはずである。

シグマに限らず他のメーカーにも言えることだが、新しいカメラの発売と同時にアクセサリーもすぐに手に入るようになっていないのはとても残念なことだ。この記事の執筆時点では、北アメリカでDP2 Merrill用のBP-41バッテリーを購入することはできない。幸いリコーのDB-65というバッテリーがBP-41と同じらしいが、純正以外の互換バッテリーではケースを削って改造しないと使えないようである。


レンズフード



私は撮影をする時は常にレンズフードを付けている。「常に」だ。せっかく性能の良いレンズを使っておきながら、フレアのせいでコントラストが低くなるのを許容する意味はどこにもないからだ。けれども、バッテリーと同じように、レンズフードも北アメリカで買うことはできなかった。シグマはDP Merrillを出荷するときにレンズフードを一緒に送るのを忘れたに違いない。仕方ないので私はeBayを使って直接日本から買った。


RAW現像


DP2 MerrillはRAW、JPEG、RAW+JPEGのそれぞれの方法で撮影ができる。DP2 Merrillは素人向けのカメラではなく、最高画質を必要とし、それを得るためにどうすればいいかを知っている写真家のためのカメラなので、JPEGで撮影する必要がどれほどあるのか疑問である。

JPEGの画質は十分良いが、DP2 MerrillのRAWはJPEGよりもはるかに優れている。今回の比較では他のプロ用のカメラと同様、私はJPEGを使っていない。JPEGはホワイトバランスが固定されてしまうので、時々ホワイトバランスがおかしくなるDP2 MerrillではJPEGを使いたくはない。RAWならばホワイトバランスをオートにして撮っておけば、あとからいくらでも修正は可能になるからだ。

さらに付け加えると、JPEGはsRGBかAdobeRGBの8bitでしか記録できない。しかしRAWならばそれよりもはるかに広い色域をそのまま記録できるし、色情報を保持したまま、それを16bitのTIFFにして出力することもできる。

DP2 Merrillには専用現像ソフトSIGMA Photo Pro 5.3が付属している。このソフトは他のメーカーが採用しているシルキーピックスほど酷いソフトではないが、動作は鈍く、現像のやり方も特殊だ。SPPには正式なマニュアルは存在せず、ヘルプがあるだけだが、実際にどう使えばいいのかは使っていればすぐに分かる。しかし、SPPでの現像に長い時間をかける意味はあまりないと私は思う。


私のワークフロー


私の行なっているワークフローをここで紹介しよう。まずSDカードからデータをHDD上に移し、SPPを立ちあげて、現像したいファイルを開く。その後少し調整をしたあとProphotoRGBの16bitTIFFに変換する。その後TIFFをLightroom4で開き、その後の現像を行う。

私自身はSPPでは可能な限り画像をいじらない。SPPの全ての機能が、Lightroomよりも、あるいはCaptureOneやApertureよりも劣っていると思うからだ。SPPでどうしてもやらないといけない作業はホワイトバランスの調整だけである。画像によっては多少の調整をする場合もあるが、撮影がしっかり出来ているなら、SPPではホワイトバランスを調整するだけで十分だ。

Adobeが以前フォビオンX3ファイルをサポートしていたように、いつDP2 Merrillをサポートするか気になってる人がいるかもしれない。ここではっきりと明言できないが、Adobeのサポートが可能になるかどうかは全てシグマに責任があると私は考えている。


シャープネス


DP2 Merrillのセンサーが持つ解像力は凄まじい。その性能を最大限に引き出すために、シグマが開発したレンズもまた、恐ろしい解像力を持っている。その二つの組み合わせは素晴らしいもので、小さなボディサイズにもかかわらず、大引き伸ばしにも耐える画像を生み出すことができる。20x24インチ(50x60センチ)にプリントしても素晴らしく滑らかでくっきりとしている。これ以上の大きさのプリントはまだ試していないが、おそらくもっと大きなプリントでも全く問題はないだろう。

カメラとSPPのシャープネスは0のままで撮影を行ったがほとんどの場合はこの設定で適切なシャープがかかっており、問題はなかった。いくつかSPPでシャープネスをマイナスにふる必要があったが、その場合でもLightroomでシャープネスをかける必要は全くなかった。


DP2 Merrillはヘタレ野郎のためのカメラではない


DP2 Merrillはヘタレ野郎が使うべきカメラではない。ヘタレ野郎というのは自分の写真に自信がない連中のことを言う。彼らはたいてい、良いカメラを使っていれば良い写真が撮れると信じてる。そういう奴に限ってやれ構図がどうした、どんな設定でどうやって撮ったかということばかりを気にする。馬鹿馬鹿しいことこの上ない。

本物の写真家は違う。本物は自分が撮りたい写真のためには、どんなカメラが必要なのか、それをわかっているのだ。カメラのスペックを調べたり、他の機種と比較したりすることはただの自慰行為でしかない。大事なことは、実際にカメラを手にして、自分が撮りたい写真のために何が必要なのかを、しっかりとわかることである。

この話は車にたとえるとわかりやすいかもしれない。フェラーリを欲しいと思う人はたくさんいるだろうが、もし毎朝リトルリーグに参加している子供たちを練習場に送り迎えしなければいけないのなら、必要な車はフェラーリではなくミニバンである。

DP2 Merrillに関して言えば、このカメラを使って幸せになれるのは、いくつかある欠点を無視して、画質のポテンシャルを引き出そうとする人である。DP2 Merrillの最高画質を得るためには、迷いやすいAFや、遅い書き込み速度や、使い勝手の悪い現像ソフトや、グラグラ揺れるライブビュー画面に我慢できなければならない。この欠点と引き換えに手に入るのは、3600万画素フルサイズや中判デジタルバックに匹敵する、凄まじい高画質である。これは誇張ではない。実際に私が確かめたことである。

今回のレビューでDP2 MerrillをD800EやPhase One IQ180と比較した画像がないのを不思議に思うかもしれない。これらの高画素数カメラとの比較では、大半の人が予想できると思うが、DP2 Merrillの方が厳しい評価になってしまう。しかし、DP2 Merrillはフルサイズ一眼レフではないし、中判デジタルでもない。その比較を実際に見たら、おそらく多くの人が驚くだろう。

DP2 Merrillは気軽に持ち運べる大きさの、サイズからは信じられない画質を誇る、1500万ピクセルの写真が撮れるカメラである。その解像度はベイヤー2600万画素に匹敵する。操作性はあまり良いとは言いがたいが、それさえ我慢できれば、DP2 Merrillの作り出す画質には、どれだけ口うるさい人であってもそれを黙らせるだけの魅力がある。

シグマはDP2 Merrillでようやく、フォビオンのポテンシャルを最大限まで引き出すことに成功したようだ。このカメラにフォビオンの発明者であるリチャード・ディック・メリルの名を冠するのはふさわしいと言える。おそらくディックは草葉の陰で微笑んでいるに違いない。