シグマCEO山木和人インタビュー(DSLRマガジン2014)(その3)


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 ― フォビオンセンサーについて質問があります。フォビオンのマーケットシェアはとても小さいと思いますが、今後も開発は続けられるのでしょうか?他のメーカーが多層センサーを開発しているという噂もありますし、事業を継続できる見込みはあるのですか?

山木:将来的にですか?

 ― そうです。今後もシグマだけがフォビオンを使い続けるのか、それとも他社に売却する可能性もあるのでしょうか。

山木:先程も話しましたが、他社が三層センサーを開発しているという噂は承知しています。実は私個人としても他社が多層センサーに向かうのは自然なことだと思っています。解像度と画質を上げるには一層のセンサーでは限界があります。三層がベストです。

しかし、お話したように、このような噂は気にしないようにしています。私はシグマがどのような戦略を取るべきか、ユーザーにどのような価値のあるものを提供できるのか、それをいつも考えています。

 ― シグマがフォビオンに投資した資金は将来回収できそうですか?

山木:ああ!無理です!絶対に不可能です(笑)フォビオンに関わった人はとてもたくさんいるんですよ。フォビオンはセンサーだけではなく、カメラシのステムにもエンジニアは必要ですから、本来なら大企業にしかできないことをやっているんです。三層を作っていると噂されているのはキヤノンですか?

 ― キヤノンソニーですね。

山木:純粋な好奇心として、どうやって彼らが三層の問題を解決するのか、とても興味がありますね。画質のことを考えれば三層に向かうのは当然だと思うのですが、実現しようとするといくつも壁が出てくると思います。

例えば画像処理エンジンを三層専用のものにしなければならないですし、システムも完全に刷新しないといけなくなります。DIGICプロセッサーは使えませんから。このような大きな問題をどのように解決するのか、私には見当もつきません。

 ― 今後、一眼レフ市場が縮小を続けたら、現在の規模でフォビオンに投資を続けることは可能なのでしょうか?

山木:一番最初に考えるべきことは、私たちのコアビジネスが健全かどうかですね。シグマは他の会社とは違いますから。小さな同族経営の会社です。工場や事務所の従業員を維持するために利益を縮小することも可能です。

センサーにかける投資について言えば、考慮に入れなければいけないのは利益や生産性だけではなく、私たちの熱意が大事になります。私たちがカメラ事業に熱心に取り組めば、それを継続していくことは可能だと思います。カメラは父が始めた事業であり、私たちの夢なのです。カメラ事業に参入することが父の長年の夢でした。また、同族経営の会社として、私の大きな動機はシグマのユーザーを幸せにすることです。もちろん、私たちには資金が必要です。しかし、事業全体が好調なら、カメラ事業も続けていけるでしょう。

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 ― シグマのDPシリーズのデザインはいつも業界の標準から少し離れたものでした。しかし、今回のdp Quattroはこれまで発売されたどのカメラとも異なっています。このデザインになったのは意図的に「他のものとは違うデザインにしよう」と思ったからなのでしょうか?あるいは、多くの人の注目を集めようとしたのでしょうか?

山木:ああ、それも理由の一つではあります。しかし、一番の理由ではありません。dp Quattroは分類上はコンパクトカメラなのですが、内部のシステムは例えばキヤノン1Dsと同等なのですよ。画像処理用のチップが二つと、それぞれに対応したメモリーを二つ搭載しています。dp2の長いボディはグリップとレンズの間に、それらのチップを配置しているからです。

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二つ目の理由はどのような形状がカメラを構える時に最適なのかを考えたからです。最もバランスの良い構え方が何かを調べ、出た結論が左手でレンズを支えることです。そのためにレンズ鏡筒を太くしました。

dp2 Quattoroのデザイナーはミラノに住んでいるのですが、彼に出した指示は「今までになかった形のボディをデザインして欲しい」ということです。このカメラは設計思想から特別なカメラです。車に例えて言うと、dpはトヨタではありません。トヨタVWのファミリーカーやミニバンではないんです。

例えるなら2シーターのフェラーリです。フェラーリのユーザーで、シートが2つしかないことや、トランクがないことに不満を持つ人に会ったことがありません。

世の中に出ているカメラのほとんど全てがある約束事の下で作られています。でも、私たちが目指したのはそれとは全く違うものでした。このカメラのユーザーは非常に限られた人たちです。なので、デザイナーも、例えるとロータスのようなものを作ったのです。このカメラが特別なものだとわかるために、細部にわたってこだわって作っています。なので、実際に手に取るだけで、その品質を感じることができると思います。

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 ― ボディが長いのはチップのせいなのですか?

山木:チップですね。グリップのバッテリーの所にもあります。

 ― 車の話になりますが、ジム・ホールが作ったシャパラルという車をご存知でしょうか?これは世界で初めて複合材を使用したレーシングカーです。2Eモデルはボディよりも大きなウィングを搭載しています。シャパラルはいくつかの大きなレースで勝利しました。また、運転手は左足を使ってウィングの位置を調節したそうです。

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シャパラル 2E

山木:本当ですか?

 ― 本当です。私の個人的な見解ではQuattroの革新さというのは、ロータスよりもさらに革新的な、ジム・ホールのシャパラルに近いのではないかと思います。

山木:スペインの車なのですか?

 ― いえ、60年代のアメリカの車です。

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山木:新しいデザインコンセプトが今後どうなるのか、具体的には決まっていないのですが、グローバルビジョンの発表前に発売されたレンズは、順次アート、スポーツ、コンテンポラリーのラインに更新されていく予定です。また、先程も話しましたように、既存のレンズとは全く異なるレンズも作りたいので、今の3つのラインがさらに増える可能性もあります。具体的にいつ頃かはわかりませんが。

 ― 新製品の発売があるとすれば次のCP+がいいタイミングですね。

山木:そうですね。CP+では毎年新製品を発表していますから、2015年2月のCP+でも新製品を発表する予定です。

 ― CP+の前にCESもありますが、シグマは参加しますか?

山木:次回のCESには参加しません。お恥ずかしい話なのですが、会場の南側のiPhoneアクセサリーを発売している会社の隣のブースしか空いてなかったのですよ。

 ― シグマの50mm F1.4とツアイスのOtusのサイズについて聞きたいのですが。

山木:そもそも、シグマが50mm F1.4の開発を始めた時にはOtusについては何も知らなかったんですよ。目標は世界最高のレンズを作ることでしたが、それでも、出来る限り軽量にしたいという目標がありました。ユーザーの要望も調査したのですが、軽量なレンズを欲しがるユーザーはキヤノンニコンの純正を買うだろうという結論になりました。

当時はこの性能のレンズは市場に存在していなかったので、とにかく高画質を追求しようと決めました。結果として出来た50mm F1.4の性能に私は満足しています。そもそもの開発コンセプトはダブルガウスなんですよ。

 ― ダブルガウスは前後対称の構造なので歪曲がとても小さくなるのが特徴です。

山木:そうです。今回はそれをさらに発展させて「ダブル・ダブルガウス」構造にしました。レンズが二つ合わさったようなものです。50mm F1.4を設計したのは35mm F1.4と同じ技術者で、設計思想も似通っています。35mmはレトロフォーカスなので少し構造は違いますけど。

 ― 50mmはレンズ鏡筒も太いですが、これは超音波モーターで強いトルクが必要だからなのでしょうか。

山木:それも理由の一つですが、一番の理由ではありません。レンズ経が大きければモーターにトルクが必要です。モーターの種類によってそれぞれ長所は違います。超音波モーターの長所は動作が静かということですね。

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 ― メーカーによってはステッピングモーターを使用しているものもありますね。

山木:ミラーレス用のレンズやdp2 Quattroのレンズではステッピングモーターの方が良いです。動作がスムーズですし、ミラーレスは動画などいろいろな用途がありますから。一眼レフ用では超音波モーターかリニアモーターがベストでしょう。ステッピングモーターは安価という特徴もあります。

シグマの製品は全て自社で設計・生産をしています。私たちは生産工程を外部に委託したくないからです。製造工程の一部はとても重要ですし、コストを下げつつ品質を維持するためには自社生産をするしかありません。もし生産工程の一部を外注にすれば品質は妥協せざるを得ないし、コストも上がるでしょう。

 ― 会津工場を訪問するのをお勧めしますね。

山木:本当にそうですね。会津工場は日本最大のレンズ工場です。ひょっとすると中国にはもっと大きな工場があるかもしれませんが、一つの敷地内で多種多様なレンズやカメラ用品を作り、数多くの生産工程を見れるのは会津工場だけでしょうね。

先程も話しましたが、高性能なレンズを設計・製造できる工場は将来もっと重要になっていくと思います。

カメラが画素数を増やすのは比較的容易なんですよ。しかし、それに対応できるレンズを作るのは全く別の話です。その観点から言えば、地元で生産をするというのが最も重要になります。最近のビジネスのトレンドは、可能な限り安価で多くの部品を買い、人件費の安いところで組み立てることです。けれども、高級レンズに限ると、この方法は問題が出ます。というのも、品質の管理がとても難しくなるからです。

地元で生産するのはとても楽なんですよ。簡単に集まって顔を見ながら話ができる。例えば0.0001mmの誤差を許容するかどうかについて話し合う場合、外注先と連絡を取りながら話を進めるのはとても難しいです。

もし、利益を追求することだけが目的ならこの方法は時代遅れです。しかし、高品質のレンズを作るにはこれが最適です。