Photo Life マガジンによる山木社長インタビュー



山木和人氏は2012年にシグマの最高経営責任者に就任した。シグマは1961年に設立され、以来50年にわたって彼の父である山木道広氏によって経営されてきた。山木和人氏がカナダを訪れるということで、Photo Lifeマガジンは氏と電話インタビューをする機会を得た。


レンズを設計する上で困難なことは何ですか?

デジタル一眼レフは画素数をどんどん増やし、解像度がますます高くなっています。レンズもそれに対応できるよう、高い解像度を持っていなければいけません。その中で、スペック、光学性能、サイズのバランスをとるのはとても難しいです。仮にとても性能の良いレンズを作ったとしても、あまりにも巨大だったら写真家には歓迎されません。また、標準ズームレンズは最も開発が困難なレンズです。広角から中望遠までカバーしつつ、適切なバランスを保たなければなりませんから。


シグマは新しくレンズのカテゴリーをArt, Contemporary, Sportsに再編しました。これはなぜでしょうか?

私たちはかつて小型のズームレンズを作っていました。とてもコンパクトだったのですが、収差は他のレンズよりも多くなってしまいました。レンズ設計というのは基本的には物理の法則に従います。そこに魔法はありません。小さなレンズを作ればそれと引き換えに収差が残る。仮に他に優れた部分があっても、ユーザーはやはり不満に思います。なので、それぞれのレンズの背景にある考えを、はっきりと示す事が大事だと考えました。

Artラインは光学性能に特化しています。なので、他のレンズと比べて少し大きく重いかもしれません。Contemporaryラインは毎日使われることを想定しているので、大きさやサイズも使いやすいようにしています。

しかし、カテゴリーを分けたのにはもう一つ理由があります。私は以前いくつかの開発部門で責任者として働いていました。実際に私は機械エンジニアとしてキャリアをスタートしています。それゆえ、それぞれのエンジニアに明確でわかりやすいコンセプトを伝えられたら、皆が混乱しないで良い仕事ができるということを知っています。なので、カテゴリーを分けたのは単にマーケティングの問題だけではなく、社員がしっかりと目的を持って開発に取り組めるという意味もあるのです。



先日マウント交換サービスが発表されました。ユーザーの間でマウントを行き来することが増えているのでしょうか?

フィルム時代はユーザーは一つのマウントに固執する傾向がありましたが、今はずいぶん変わりました。マウントを変更したり、複数マウントを持つユーザーは増えています。


シグマは新素材TSC(耐熱複合材)を導入しました。このことによるメリットは何でしょうか?

私たちはレンズに金属と複合材の両方を使っています。それぞれ素材ごとに長所はありますが、精度がとても高いという点ではプラスチックの方が優れています。しかし、プラスチックには熱に弱いという欠点があります。それゆえ、アルミニウムと同じ特性を持つプラスチックを開発してくれないかと、業者に頼んだのです。


TSCを使い始めてから2年が経ちますが、レンズ性能が変わったということはあるのでしょうか?

通常、プラスチックと金属部品を使う場合、接合面に遊びを持たせる必要があります。レンズは極低温下や高温下で使用される可能性があるので遊びがいります。TSCは金属と同じ特性なので、接合面の遊びも最小限に留めることができます。このことによって光軸をより正確にコントロールでき、より性能の高いレンズを作ることができるようになりました。


ここカナダではシグマのMerrillシリーズのカメラを見かけることはあまりありません。シグマのカメラについてどのようなマーケティングプランをお持ちなのでしょうか?

シグマは私の父によって設立されました。そして、カメラを作ることが私の父の夢でした。彼の夢はシグマをカメラシステムを作れる会社に成長させることだったのです。私は彼のビジネスを引き継ぎましたが、同時に彼の夢も受け継いでいます。私たちは「シグマをカメラシステムを作れる会社にする」という父の夢を追い続けますし、新しいカメラの開発もやめません。

カメラシステムを提供できるのは私たちにとっても大きな喜びです。なぜなら、システムを通じて、私たちは会社の哲学やメッセージを皆さまに伝えることができるからです。


山木社長はTwitterでの活動でも有名ですが、ソーシャルメディアはどれほど重要なのでしょうか?

シグマは小さな会社です。しかし、とてもユニークな会社だと思っています。私はシグマを特徴のあるブランド、個性のあるブランドにしたいのです。それゆえ、私にとって、ユーザーの皆さまと直接コミュニケーションを取り、私たちの哲学や考え、使命やビジネスについて語っていくことがとても重要だと思っています。