混迷するカメラレンズ市場でどう生き残るのか:シグマCEO山木氏インタビュー(その2)

(その1の続き)


 -キヤノンニコンは高級レンズを更新していく度に、徐々に値段を上げていっています。これまでの円高基調がこの理由の一つなのではないかと思っているのですが、こういった状況はシグマにとってチャンスなのでしょうか?それとも、シグマも他の会社と同じく財務状況が厳しいので、この流れに追随せざるをえないのでしょうか?

山木:私たちはこれまでもずっと高品質な製品を手頃な価格で販売して来ましたし、それがユーザーの方が認識する私たちの姿だと思っています。その意味で、私たちはコスト競争において常に他より先行していると思っています。

もちろん、私たちの会社にも研究開発部門はありますし、そこで新技術や新素材を開発すべく大きな投資をしています。けれども、製品の価格を可能な限り抑えるよう、最大限の努力を行なっています。

私たちの製品は「安価な」代替品ではありません。最高の製品を、より手に取りやすい価格で提供しています。私たちは日本国内に工場を持ち、家族で経営している会社ですので、市場の中で自分たちの立ち位置を自ら決める事ができるのです。

 -通貨の変動はシグマのビジネスにどのような影響を与えているのでしょうか?日本政府の円安政策によって、国内で生産しているメーカーには追い風となっています。

山木:そうですね、ここのところの円安は私たちにとってありがたいです。私たちは全ての製品を日本国内の工場で生産しています。「全製品を国内で」という会社は、カメラ・レンズ業界では私たちだけなのです。数年前に工場を海外に移すことも可能だったのですが、製品の品質を維持するためには国内に残る必要がありました。

また、私たちは製品の部品や材料も、そのほとんどを国内で調達しています。部品を供給してくれている会社とは長い付き合いがありますし、そういうビジネスパートナーを助けるという意味でも、私たちには国内で生産を続ける責任があると思っています。

私は個人的に今の水準でも円は高いと思っていますが、状況は間違いなく以前よりも良くなっていますね。

 -国内で生産しているレンズは何種類くらいなのですか?中国のような人件費の安い国に工場を建てて、もっと安価なレンズを作ることは可能なのでしょうか?それをすることによるデメリットは何かあるのですか?

山木:私たちのレンズは全て日本の会津工場で生産しており、独自に開発したMTF検査機"A1"で全数検査を行なっています。

他の国に生産拠点を移すことは可能かという質問ですが、答えは「イエス」です。しかし、実際にそれを行うかといえば、はっきりと「ノー」と言います。私たちがこれまで成功してこれたのは、研究開発と製造を自分たちでコントロールできたからです。

マーケットを見渡して、新しい製品を紹介する余地があれば、それに向けた開発を行い、写真家たちに高性能で最新のレンズを紹介していく、それが私たちのビジネスです。国内に留まることでしか、こういった高いレベルでのマーケティング・開発・製造を一貫して行えないですから、それをやめることはできません。

海外に移転すれば価格は下げられますが、品質は犠牲になります。そのようなビジネスに興味はありません。国内で付加価値の高い、ユニークな製品を作り続けることで、価格競争に巻き込まれる心配をしなくて済むのです。

 -最近のカメラは、口径食や色収差といったレンズの光学的な問題を、ソフトウェアの処理で解決しています。しかしこの機能は、カメラメーカー製のレンズにしか使えません。例えばシグマのようなサードパーティにとって、この傾向はどのような影響を与えているのでしょうか?

山木:高級な一眼レフにはピント調節機能がありますが、これはシグマのレンズでも使えます。また、私たちはUSBドックを発売しているので、ユーザーはそれぞれの必要に応じてレンズの機能をカスタマイズすることが可能になります。USBドックをパソコンに繋げることで、ファームウェアのアップデートや、各種パラメーターを調節出来ます。

光学的な補正をボディで行うようになっていますが、センサーの画素数が増え続けているので、ユーザーは高性能なレンズを必要とし続けています。この流れが止まることはおそらくないでしょう。ソフトウェア処理は対策の一つですが、最終的な解決はやはり性能の高いレンズを作ることです。

 -開発投資の方針は変わっているのでしょうか?フルサイズ向けにより多くのリソースを割くようになっているのか、それともミラーレス用を重視しているのか、そういった変化はありますか?

山木:カメラ産業の中で、特定の分野に偏ることが良いことだとは思えません。私たちのやるべきことは、全ての写真家に向けて高品質な製品を提供し続けることによって、写真という技術の可能性を切り開くことだと思っています。

 -シグマは交換レンズメーカーとして有名だと思いますが、フォビオンセンサー搭載カメラはビジネスとしてどうなのでしょうか?外側から見てるとどうもカメラ事業は成功しているようには見えないのですが。

山木:私たちはカメラ事業は成功を収めていると判断しています。メリル世代になって性能が飛躍的に向上し、ユーザーの間にもその高画質が浸透してきています。メリルは画質を何よりも優先する真剣な写真家に向けて作られたカメラです。取り扱いの非常に難しいセンサーを搭載していながら、カメラボディや操作系はシンプルであること徹底しています。

フォビオンは他のセンサーとは全く違うので、市場に浸透するのに時間がかかるだろうということは、最初からわかっていました。私たちがメリルを成功だと判断する理由は、その画質です。メリルと同じクオリティの画質は中判カメラでなければ達成できない程のものですし、デジタル中判カメラの値段はSD1 Merrillの5倍もします。

さらに、DP Merrillシリーズは市場に出ているコンパクトカメラの中でも最高の画質ですが、価格でも負けていません。現在は19mm, 30mm, 50mmの三種類のレンズから選ぶことができます。私たちはこのカメラをとても誇りに思っています。

 -シグマのアートシリーズは、F値が明るくて高画質という高品質レンズで、大きな注目を集めています。これからシグマのレンズはツアイスのような、プレミアム感のあるブランドに変わっていくのでしょうか?

山木:私たちがグローバルビジョンを発表したのは、全ての写真家が必要とする、高品質のレンズを提供していくためです。アートレンズだけが高品質なのではありません。コンテンポラリー、アート、スポーツ、三つのカテゴリーのレンズ全てが最高の光学設計で作られ、最新のMTF測定器である"A1"で全数検査されています。

レンズを三つのカテゴリーに分類したのは、ユーザーの方がそれぞれの必要に応じたレンズをすぐに見つけられるようにするためです。私たち自身は、よりよい設計・製造・検査体制を作っていくよう、常に技術を向上させています。

私たちはカメラ市場の中で、多くの人が注目するような製品づくりをしていきたいと、ずっと思っています。ユーザーの需要を満たすような製品を開発し続け、新技術を使うことでこれまで不可能だったものを可能にしていく、そして、それをすべての写真家が手に取りやすい価格で提供する。

シグマはそういったユニークなメーカーであり続けたい、それが私たちの願いです。