山木社長インタビュー in 台湾 2013 (その1)


カメラ愛好家の間では長い間、シグマのレンズは扱いやすく、値段の割に性能がいいと評判だった。愛好家の多くは性能の良い純正のレンズを欲しがったものだが、高値ゆえなかなか手が出なかった。しかし、シグマのレンズカタログを見ると同じスペックのレンズが7割から半額ほどの値段で買えるのだ。シグマのレンズは純正の代替品として、多くの人に愛されてきた。

しかし、そういったシグマのイメージはここ数年で急激に変わりつつある。シグマの最高級のレンズの中には、キヤノンニコンといった大手メーカーの純正品よりも性能が高いものも出始めた。つい先日発表されたAPS-C用のレンズ、18-35mmF1.8なども、純正にはないスペックだ。

このような変化がなぜ起こったのか。その秘密を解く鍵の一つが、昨年CEOに就任した山木和人氏だろう。氏は現在45歳。先代のCEOである山木道広氏が亡くなられたあと、その地位を継いだ。

今回山木氏が台湾を訪問されたのを機に、お話を伺うことが出来た。

 -まず初めに、つい先日35mmF1.4 HSM17-70mmF2.8-4TIPAAwardsを受賞されたと発表がありました。おめでとうございます。私自身もこのレンズは賞に値するレンズだと感じています。

山木:どうもありがとうございます。

 -インタビューのために、貴重なお時間を割いていただいたことに感謝いたします。ようこそ、台湾へ。今回が初めての来訪なのでしょうか?台湾についてどう感じられましたか?

山木:はい、今回が初めてです。実を言うと、台湾にはずっと昔から来てみたいと思っていたのですよ。というのも、私の母が台湾生まれなのです。彼女は日本人なのですが、台北で生まれ、花蓮で育ちました。母は大戦後に日本に帰ってきたのですが、いつも台湾はいい所だと言っていました。なので、ずっとここには来たかったのです。

 -それは驚きですね。もしまた台湾に来る機会があれば、カメラを持って花蓮へ足を伸ばしてみて下さい。撮影にうってつけないい場所がたくさんありますよ。

山木:是非そうしたいですね(笑)

 -先代の山木道広氏は偉大な発明家であると同時に、優れた経営者でもありました。氏が与えられた影響の中で、もっとも大きいものというのは何でしょうか?

山木:まず最初に思い浮かぶのは勤勉であるということですね。シグマを創業して以来、父は週末であっても丸一日休むということはしませんでした。長期休暇で海外に行くときにも、必ず訪問先でビジネスを行なっていました。

また父はお金のためではなく、責任感のために仕事をしました。何よりも従業員のことを考え、自分のことはいつも後回しにしていました。このような姿勢は私にも非常に大きな影響を与えています。

 -レンズ設計についても学んだのですか?

山木:彼の専門であった機械工学ですね。私はまだ学生だったのですが、彼に連れられて会社の機械部門に行き、色々なことを学ぶことができました。

 -インターネットで社長のお写真を拝見したことがあるのですか、芸術についても造詣が深いと感じました。

山木:いやいや(笑)私はただのビジネスマンですよ。その後は製造部門、ソフト部門、光学部門といろいろな場所を回ったので、多くの技術者と共に働くことができました。

 -社長が2012年にCEOになられてから、シグマの製品にはこれまで以上に野心的なものが増えてきているように感じます。CEOになられてからなにか大きな変化というのがあったのでしょうか?

山木:実を言うと、父と私とでやっていることに大きな違いはほとんどないのですよ。もちろん、生前には意見の食い違いもありました。しかし、会社の哲学と目指すところというのは常に同じです。違いがあるとすれば細かなところだけですね。

私自身のことを言えば、ユーザーの皆さまを驚かせるような製品づくりがしたいです。私たちはリソースも限られた小さな会社ですが、今でも日本で製品を作り続けています。その理由は高品質で他にはない、特別な製品を作りたいからです。私達の製品で皆さまの心を動かしたい、それが私の願いですね。

 -シグマの製品では新しくアート、コンテンポラリー、スポーツと、レンズのラインナップを3つのラインに分けました。これは社長のアイデアなのでしょうか?

山木:はい、そうです。これまでも色々なアイデアを思いついてはいたのですが、今回ようやく形にすることができました。

実はこれまでに何度かシグマのカタログを見たユーザーの方から「これを見てもいったいどのレンズが一番性能が良いのか良くわからない」という意見をいただいていました。直接私にも質問が来ることもあり、もちろん、それについてはすぐに答えることは出来るのですが、全世界のユーザーに直接答えて回ることはできません。それなので、もっとわかりやすい形で私たちの製品を紹介する方法はないかと模索していたのです。

技術者とも何度も協議して、どういう意図で設計したのか、長所は何で、短所は何か、それをどうやってユーザーにわかりやすい形で伝えられるのか。今の3つのラインに分けることで、ユーザーの方がそれぞれに最適な製品をすぐに選べられるようになったと思っています。

例えばカメラを新しいものにしても、出てくる絵が圧倒的に変わるということはあまりありません。しかし、レンズは変えた瞬間に違いがわかります。これこそがカメラの醍醐味です。今回新しく3つのラインを作ったことで、レンズの違いをもっとわかりやすく、楽しめるようになりました。

もし、表現こそが何よりも大事なら、アートレンズが最適です。大きさは多少かさばるかもしれませんが、最高の画質を保証します。もし、散歩の途中に何かを気軽に撮りたいという目的なら、コンテンポラリーレンズが一番使い勝手がいいでしょう。こうやって目的によってレンズを変えていくことで、これまでよりももっと写真を楽しめるようになるのです。また、私達の意図をユーザーの皆さまが汲んでいただくことで、これまで以上にコミュニケーションが活発になることも期待しています。