山木和人シグマCEOインタビュー




2012年1月17日、シグマ創業者の山木道広氏が78歳で亡くなった。

山木氏はPMA殿堂入り、国連IPC賞受賞、ゴールデンフォトキナピンなど、数多くの国際的な賞を受けた。1961年にシグマ研究所を設立して以来、山木氏はシグマ社を世界的なレンズ会社に発展させた。

山木道広氏の逝去に伴い、新たにシグマのCEOに就任したのは子息の山木和人氏である。今回、シグマの新しいCEO山木和人氏にインタビューを行った。





現在44歳の山木氏がシグマに入社したのは1993年のことである。経営企画室などで勤務した後、道広氏の後を継いで取締役社長に就任した。代表取締役に就任したのは震災からまだ1年も経っていない今年2月のことである。


山木和人「シグマの工場は震源から200キロ離れた日本の東北地方にあります。私たち日本人はある意味で地震には慣れているのですが、あの震災が起こった時にはすぐにこれまでとは全く違うと思いました。

幸い工場に被害はあまりなく、二日後には電力も復旧しました。週末には生産設備の復旧も終えたので、震災の次の週は20%ほど生産量が落ちただけで済み、二週間後には震災前の生産量まで復旧できました。

シグマは自社の部品の99%を国内で生産していますから、タイで起こった洪水はほとんど生産に影響を与えませんでした。ごく僅かな電子部品をパナソニックやサンヨーといったタイで生産を行なっている会社から購入しているのですが、それらはすぐに代替品が見つけられるものばかりです。」



シグマのレンズは原材料から製品に至る製造過程をほとんど全て国内で行なっている。また、レンズになる以前の研磨されていないガラスといった中間生産物も、国内の業者から購入している。

山木和人「日本以外の業者も高品質の部品を作っていると思うのですが、シグマは国内の業者と長く取引しています。例えばHOYAは極めて透明度の高い特注のガラスを卸してくれています。このガラスに金属を加えて洗練させていくのです。

また、温度管理はレンズ生産にとって極めて重要です。レンズが設計した通りの屈折率を得るためには、全ての製造過程を高精度で持続できるものにしなくてはいけません。父がよく言っていたのですが、ほんのわずかな製造上のズレが最終的な製品の品質を大きく損ないます。それを避けるために、全ての工程で高い精度を維持しなくてはいけません。

実際、レンズの生産はカメラの生産よりもはるかに難しいのです。きちんと設計されたカメラを大量生産することは容易ですが、レンズの場合はほとんど全ての製品を基準を満たしているかどうか検査する必要があります。それゆえ、安定した生産体制こそが何よりも重要なのです。今のシグマの生産方式を変えるつもりはありませんし、賃金の安い海外に工場を移転する気もありません。」



シグマはレンズだけでなく、ユニークなカメラも生産している。どうしてレンズメーカーがカメラを生産しているのだろうか。

山木和人「私たちはレンズとカメラを含めた、トータルのシステムを扱う会社になりたいのです。また、デジタルカメラを自ら生産することで、デジタル時代のレンズに何が必要なのか、より深く理解することができます。

また、レンズメーカーとして各メーカーごとの特徴をより深く知る必要があります。例えばキヤノンのカメラはニコンソニーとは異なった特性を持っています。写真はカメラとレンズの組み合わせなので、シグマのレンズはそれぞれのマウントの特性に合わせる必要があります。

私たちが自らのカメラを設計するに当たって考えたのは、既存のマウントのそれぞれの性格をふまえた上で、シグマのカメラがちょうどそれらの中間に位置するようにした、ということです。

シグマはフォビオンセンサーを採用しており、とても解像度の高い絵を作りますから、レンズもそれに合わせた品質にしなければいけません。

また、シグマのカメラのユーザーはとても要求レベルが高いです。彼らは手軽に写真が撮れるだけのカメラを望んではいません。写真に関する豊富な知識を持ち、評価は辛口で、高品質の画像を常に求めています。なので、シグマユーザーからのフィードバックはとても有益です。それに応えることで、高い品質を求めるユーザー全員に応えることになるのです。」



レンズ市場は簡単にお金を稼げるような場所ではない。かつてシュナイダー社を見学に行った時にも同じ事を感じた。最高の品質のレンズでなければ、市場には受け入れられないのだ。このことは、レンズ生産に関わる全ての人にも当てはまる。従業員、販売員、そしてユーザー、レンズに関わる全ての人が求めるもの、それが高い品質なのである。

山木氏は新CEOとして、世界中のシグマの支社や事業所のみならず、町の小さな写真屋をも訪問し続けている。この日本的な礼節こそが、シグマを際立った会社にしている原動力なのかもしれない。

山木和人「もちろん、私たちは会社をもっと大きくしたいとは思っていますが、何よりも大事なのはより良い製品を生産すること、そして、それによってユーザーに喜んでもらうことなのです。」