シグマSD1レビュー&645D、M9、α900との比較(その5)

その4の続き

解像度

下の画像はそれぞれのカメラのピクセル等倍である。重ねて言う必要はないと思うが、全ての画像の露出は適切で、フォーカスは厳重にチェックしてあり、三脚にセットして、スタジオでフラッシュを使用して撮られたものである。

画像のサイズがそれぞれ異なっているのは、画像解像度が1500万画素から4000万画素までバラバラだからだ。全ての画像はLightroomで最適なシャープネスをかけてある。SD1のサンプルも同様にSPPのシャープネス-2.0で出力したあとLightroomで同じシャープネス処理をしている。SPPのシャープネス0は効果が強すぎるからだ。

SD1



イカ M9



ローパスフィルターを使用していない三つのカメラ、SD1、M9、645Dの画像は明らかにより解像度が高い。ソニーα900α55はさほど解像度は高くない。全てのマウントで使える同一のレンズは存在していないので、レンズの違いの影響はあるかもしれないが、今回の撮影では全て単焦点レンズを使用し、最適な絞りで撮っている。それなので、ローパスフィルターの違いがはっきりと出たのはさほど驚くには値しない。


色ノイズ


SD1 ISO6400        α900 ISO6400


これはあまり多くの人が気にしていないことなのかもしれないけれど、既存の現像ソフトによる色ノイズ除去のプログラムはベイヤーセンサー向けに開発されたものだ。ベイヤー方式を使用していないフォビオンX3センサーでは色の補完をしないので、原理上色ノイズは発生しないし、SD1でももちろんそうである。このことについて私は深く考えたことはなかったのだけれど、今回のテストで、高感度でのノイズをシグマはどのように処理しているのか、とても気になった。

上の画像はSD1のピクセル等倍と、今回の比較で使ったカメラの中では最も高感度ノイズの多いα900とのISO6400での比較である。私は両方の画像に、現在発売されているソフトの中ではおそらく最高のノイズ除去の性能を持つ、Lightroom3のノイズ減少ツールを使って、出来るかぎりノイズを減らすよう努力した。

結果は面白いものになった。SD1の画像にはより多くのディテールが残っているが、おそらくこれは被写界深度の違いのせいだ。カラーチャートは解像度の比較では参考にしていない。ここで問題なのは、SD1では白いヤナギに載った色ノイズが除去できていないということだ。これは他のセンサーでは見られない現象なので、フォビオンセンサーに特有のものだろう。

それ以外には特に見るべきものはない。個人的にはどちらのカメラでもISO800以上は使いたくはないと思った。


実画像を見て

フォビオンセンサーの画像には特有の「立体感」がある、という話はこれまでたくさん見聞きしてきた。今回ようやく、その立体感というものが何なのか、わかったように思う。そこには特別な魔法のようなものはない。また、SD1に関しては、現行のSPPに問題があって、話が少しややこしい。

SD1にはローパスフィルターがついていない。解像度の高いレンズで撮影すると、被写体の細部までしっかり記録できるので、印刷してもディスプレイで見ても画像に奥行きと立体感を感じることが出来る。

しかし、これはSD1と他のフォビオンセンサー搭載機に限られた話ではない。この解像感はセンサーの構造の違いではなく、単にローパスフィルターがあるかないか、ということに起因するからだ。

立体感は同じローパスフィルターのないライカM8、M9で撮られた画像からも、多くのユーザーが感じているものだ。さらに、多くのデジタル中判カメラやデジタルバックでもローパスフィルターを使用していないので、比較で示したように、ペンタックス645Dの画像からも立体感は感じられる。

SD1に搭載されたフォビオンセンサーの利点は、色の補完を行っていないということである。このことは、布地の撮影には大きなメリットだろう。けれども、他の多くのユーザーにとってこれは決定的な違いにはなり得ない。

ベイヤーとは違い、色の補完を行っていないので、SD1の画像には色ノイズは発生しない。ベイヤーでは最低感度ですら、目に見えない程度ではあるがある程度の色ノイズが出る。この違いがフォビオンセンサーのファンがその画質を賞賛する主な理由だろう。

ここで確認しておきたいのは、ベイヤーが色の補完を行っているのと同じように、旧来のフォビオンセンサーでは、オリジナルサイズ以上の大きさにプリントする時に、画素補完を行わなければいけなかったということだ。出力サイズが1500万画素のSD1になって初めて、画素補完を行わないでも通常のプリントが出来るようになったが、大きなサイズにプリントするときはやはり補完が必要である。

SD1の画像を現像できるのはSIGMA Photo Pro 5だけだが、カメラの発売と同時に発表された現在のバージョンには致命的なバグがある。Mac用のバージョンではソフトのクラッシュが報告されているが、私が使用していたときは一週間に一度起こっただけだった。

別のSPPの問題は、明らかにやり過ぎと思われるシャープネスだ。これは-2.0に設定して、他のソフトでシャープをかけ直す必要がある。

また、色調も明らかに暖色に偏りすぎている。ICCプロファイルやDNGプロファイルをSPPでは使用できないし、他の現像ソフトはSD1に対応していないので、ユーザーが自身のプロファイルを作成することはできない。カラーホイールを使ってもこの色の偏りは直せないので、70年代のアグファロームの色調が好きな人以外は、SD1の色については諦めるしかない。


値段について

正直に話そう。SD1の値段は高すぎる。馬鹿にしているのかと思うくらいだ。

SD1は1000ドル程度の品質のボディを持つ、中級APS-Cカメラである。ニコンD3xやキヤノン1Dsのようなプロ機種にある特徴や機能は何もないし、フルサイズの5DIIやα900にも及ばない。

今から数ヶ月先にこれらのメーカーから3000万画素クラスの新型フラッグシップが出ると予想されている現在、動画もない、ライブビューもない、テザリングもない、そしてプロ用のサポートプログラムもないSD1の値段設定は、端的に言って、ありえない。SD1の唯一の強みはその画質が今後向上するかもしれないという可能性だけである。

今まで見てきたように、SD1の画像には確かに他のカメラとは違う特別な魅力がある。過去のシグマのカメラにあったこれらの魅力は、SD1という最新のカメラの中にも見ることが出来る。

SD1は魔法のカメラなのか?もちろん違う。SD1は他の中級機よりも機能面で性能が高いのか?そんなことはない。しかし、画質に関してだけは他の中級カメラよりも優れているかもしれない。だから、ここで困惑してしまう。

現在のSD1の値段、6900ドルは高すぎる。何も擁護できない。私の判断からすると、あらゆる面を考慮しても、SD1にその値段の価値はない。SD1は1000ドルのボディに6000ドルのセンサーがついているカメラだということになる。これは馬鹿げている。

もしSD1が2500ドル以下だったら全世界で何万台も売れるだろうし、それに伴ってレンズの売り上げも急上昇するだろう。しかし、現在の値段では、シグマはせいぜい月に数百台売れば良い方だ。これはセンサーの製造コストの面から考えても厳しい。なぜなら、この量ではどの工場でもSD1用の特製センサーを、安価で製造することは出来ないからだ。



Sigma SD1 with 70-200mm f/2.8 @ ISO 800



結論

私はSD1が好きだ。大好きだ、と言っても良い。

操作は変だし面倒だ。現像ソフトは本当に使い物にならない。書き込み時間は遅いし、その間は液晶画面で操作が出来ない。そのせいで何度も歯がゆい思いをした。

けれども、その画質は、色が変だという問題はあるけれど、本当に素晴らしい。SD1は4500万画素のカメラではないし、シグマが主張しているような3000万画素にも届いていない。けれども、ローパスフィルターがないこともあって大きいサイズでプリントすると2400万画素のカメラを凌駕する。小さなプリントやネット上で鑑賞するときも、まだその利点は残っている。

SD1の色空間はおかしいし、ユーザーが簡単に調整することも難しいので、シグマがなるべく早くこの問題を修正することを期待している。


私の結論は、SD1が2000ドルのカメラだったらきっと購入しただろう、ということだ。SD1の画質は魅力的だ。これ以上カメラとマウントを増やすことはしたくないのだけれど、SD1なら私の好みのプリントを作ることが出来るからだ。しかし、この非現実的な価格のせいで、SD1はほとんど売れないだろう。

今の値段でSD1を買うべきかどうかは、自分自身の気持ちと預金残高がどれくらいかによる。もしSD1が欲しいと思うなら、まずSD1を取り扱っていて、テスト撮影をさせてくれる店を探した方が良いと私は思う。

今回はSD1にテストのランキングを付けることはやめておく。というのも、SD1には確かに多くの魅力があるけれど、現在の値段では他のカメラと全く競争にならないからだ。

7000ドルあればライカM9ニコンD3x、キヤノン1DsMk3が買えるし、もう少しお金を出せばペンタックス645Dが買える。645Dはローパスフィルターのない4000万画素センサーを搭載し、画質ではSD1の遥か上をいく。カメラとして見ても全ての面で645DはSD1より優れている。

シグマがユーザーの声を聞き入れてSD1の値段を改定することを期待しよう。SD1の画質はもっと多くの人が楽しむべきだし、画質そのものも今よりもっと良くなるはずだからだ。






その1へ戻る