シグマSD1レビュー&645D、M9、α900との比較(その3)

その2の続き

SIGMA Photo Pro 5

シグマのRAW現像ソフトSIGMA Photo Pro(SPP)は今のところSD1のRAWを現像できる唯一のソフトである。これは残念なことだ。というのも、私は2008年にDP1をレビューした時にこんなことを書いているからだ。

「残念だがSPPはとても原始的なソフトだ。簡単に使えるが、動作はとても遅く、機能もあまりない」

このレビューから3年経ったが状況はほとんど変わっていない。未だにSPPでは長い時間をかけて現像をしようとは思えない。

Photoshop Camera RAW、LightroomDxO Optics Pro、Apertureといった、他のメーカーの優れた現像ソフトはSD1に対応していない。それどころかシグマは、これらのメーカーと協力することを急いでいないように見える。これはSD1を買おうとしている人を馬鹿にしているようなものだ。

他の全てのカメラメーカーは現在、新しいカメラの発売後すぐ(あるいは発売前)にアップルやDxOAdobeに協力して、カメラボディと技術書を提供し、ユーザーがすぐにこれらのソフトを使えるよう苦心しているからだ。

SPP5には機能がほとんどなくバグだらけだ。それなのでSD1ユーザーはSPPで最低限の作業をして、残りの現像を好みのソフトで行ったほうが良いだろう。SPPではホワイトバランス、グレーポイント指定、コントラストを調整し、シャープネスを最小値まで下げるだけにする。その後、ファイルをProPhotoRGBの16bit TIFFで出力すれば良い。

このTIFFLightroomや他の自分が使っている現像ソフトで読み込んで、残りの作業を行う。何か極端なことをしない限りは画質が悪化するということはない。面倒だけれども、これが現実的な解決策だろう。

(続き:上の文章は私がSPPを何日か使ったあとに書いたのだけれど、丸一週間経って、写真を数百枚SPPで現像した今は考えが変わった。SPPは使いづらいどころではなく、使うのが苦痛になるほど酷いソフトだ。私はこれまでSilkypixが最悪のソフトだと思っていたけど、今は違う。SPP5が最悪だ)

シグマへ:SD1はプロレベルの値段なのだから、ユーザーがもっと高機能で使いやすい現像ソフトを求めるのは当然だ。もしシグマが適切な性能を持つソフトを提供できないのなら、他のソフト会社と協力すべきだ。SD1の画質はもっと良くなるはずだし、それはユーザーにとってもメリットが大きいのではないか。


シャープネスについて

SPPではシャープネスを調整できるのだけれど、SD1にとって適切なシャープネスの量がどれくらいかというのは、ちょっとした議論になっている。そもそも、SD1には普通のベイヤーセンサーに付いているローパスフィルターがないので、シャープネスをかける前から既に画像はパッキリしている。つまり、そんなにたくさんのシャープネスをかける必要はないということだ。

さらに、フォビオンX3センサーはそれ自体が独特の解像感を持ち、一般のベイヤーセンサーと比べて細部のコントラストが高い。それなので、シャープネスのかけ過ぎはかえって画質を損なうことになる。

私はこの問題についてローレンス・マトソンと話し合ってみた。彼自身は-0.4から-1.0あたりが適切なシャープネスの量だと考えているようだ。SD1ユーザーの中には-2.0が適切だという人もいるようだが、その設定で現像したあと、どのような後処理をしているのかは不明である。

私自身はシャープネス-2.0が適切だと判断した。これが何もシャープネスのかかってない状態に見える。私がこの設定にするのは、SPPのシャープネスは被写体によってその効果が大きく変わるからだ。ベイヤーでも同じだが、被写体によって必要なシャープネスの量というのは異なる。

それゆえ、私はSPPでシャープネスを何もかかっていない-2.0に設定し、被写体によってそれぞれ最適なシャープネスを他の現像ソフトでかけることにした。

さらに、ここで話しているようなデータ入力時のシャープネスだけでなく、画像を出力する媒体によってもシャープネスを変えなければならない。画像はネットで使うのか、オフセット印刷をするのか、インクジェットでプリントするのか、その場合はどのような用紙を使うのか、それぞれの状況に応じて必要なシャープネスは異なる。

私が今回使用した作業工程はシャープネスの達人ブルース・フレーザーによって作られたものだ。具体的なプロセスはジェフ・シューウィーと私がサイトのチュートリアルで解説しているので参考にされたい。



Sigma SD1 with 8-16mm @ ISO 100


色の設定

SD1とSPPにはカラーモードと呼ばれる設定がある。カラーモードにはスタンダード、ビビッド、ニュートラル、ポートレート、風景、B/W、セピアのそれぞれがあるが、これらは単にファイルに付けられたメタデータに過ぎない。撮影前にカメラで変更することも、撮影後にSPPで変更することもどちらも可能だからだ。

個人的にスタンダードは少々派手すぎると思うし、ニュートラルは地味すぎると思う。もしスタンダードにセットしたら全ての写真がベルビア調になってしまうし、ニュートラルにしたら曇りの日にアスティアで撮った写真のようになってしまう。

もう一つの問題はコントラストだ。スタンダードモードでさえコントラストは平坦で、SPPで見ると酷く眠たい画像に見える。しかしSPPでは機能が足りなくて、この問題の解決は容易ではない。それなので、TIFFで出力して他の現像ソフトで調整するまでは、撮った写真が本当に良いのか悪いのか判断できない。

もしシグマが業界標準ICCかDNGプロファイルを採用すればこれらの問題はすぐに解決するのだが、それはたぶんないだろうと私は思う。

シグマがSPPのバグを直して機能を強化するまでは、現像は自分でやるしかない。SPPではホワイトバランスとグレーポイントの指定だけをやり、ProPhotoRGBの16bitTIFFに変換する。そのあとファイルをLightroomやCamera RAWなどの高機能な現像ソフトで開き、自分の思い通りの現像をすれば良い。

(このあと詳しく述べるのだが、SD1には色空間に問題があって、色が標準からかけ離れている。それなので、プロファイルの使い方を知らない人は正確な色を出すことは出来ないだろう)


画質テスト

SD1のテストと評価は、2011年7月の第二週にオンタリオのクリーモア近くにある私のスタジオで行った。MacProにNECのPA271Wを接続し、Spectraview IIとEye One Spectro photometerでキャリブレーションとプロファイルの設定を行っている。

SD1以外のカメラの画像はLightroomでRAW現像しプリントしている。SD1の画像はまずSPPでホワイトバランスとグレーポイントの指定を行い、シャープネスを-2.0にしたあとProPhotoRGBの16bitTIFFで保存し、Lightroomで調整している。Lightroomでは私が通常行っているのと同じ設定で、プリント用のシャープネスをかけている。

画質評価のプリントはCanson Bartya Photographique紙(これは私が知るかぎり最高の色再現度を持っている)を使用し、プロファイルはEye One spectro photometerで作成した。使用したプリンターはエプソンのStylus Pro9700、Pro3380、R3000である。画質評価は色温度D65で調整されたGTI製ビューイングステーションで行っている。

以上のプロセスはジェフ・シューウィーと共に行われたもので、他の機材を評価するときと全く同じ方法で今回のテストを行った。

スタジオ撮影はElinchromストロボを使用し、必要に応じてグリッドやソフトボックスを使用した。


画質評価

写真器材を評価する時には主に二つのアプローチがある。一つは数値を中心にした評価方法であり、もう一つは実際の画像を目で見て評価する方法だ。

私は両方のアプローチをとっているけれど、かつては数値による評価を中心にしていた。以前DxO Analyzerの開発にテスターとして参加したこともあり、このソフトは現在様々なウェブやカメラ雑誌で機材の評価に使われている。

このサイトでも何年かDxOを使用して機材評価をしていたことがあるが、結局それは止めてしまった。理由は主に二つある。

一つはソフトを使った評価はとても時間がかかるので、その時間を使って実際に写真を撮った方が有意義だと判断したから。もう一つは、これはとても重要なことなのだけれど、実際のテストで出る数値と私が目で見て確認する画像評価との間に違いがあることが多いからだ。写真というのは結局のところ、人が目で見て鑑賞するものなのだから、チャートやグラフよりも自分の目を信じることにした。

さて、誤解しないで欲しいのだが、私は今でもセンサーやレンズのテクニカルな分析には価値があると思っている。ただ私自身がそのような方法のテストに時間をかけたくはないし、最終的な判断は常に写真そのものを目で見て行うことに変わりはない。

数値はもちろん参考になる。けれども、例えばワインの評価を成分分析を中心に行ったり、クラシック用の楽器を波形を見て評価したりはしないように、写真の評価も数値ではなく自分の目で行うというだけだ。



Sigma SD1 with 701-200mm @ ISO 800