シグマは高級レンズでカメラマーケットをリードする(その2)

(その1の続き)


Q:CADやCAEといったコンピュータの発達で、レンズ設計はどのように変わりましたか?もちろん、レンズ設計の時に、最適な配置を見つけるため多くのシミュレータを走らせていると思います。

山木:コンピュータによってレンズ設計のあり方は全く変わりました。私が入社した頃でも、設計者はパソコンにデータを入力し計算をさせていたのですが、光線の追跡を行うだけでも20分から30分はかかっていました。現在では同じ作業は30秒でできます。今のエンジニアはパソコンを使ってとても能率的に仕事ができています。

しかし、問題になってくるのはレンズは設計だけではダメだということです。レンズエレメントを研磨するのはとても難しいので、設計できても実際に製造できるかどうかが問題になってくるのです。レンズ製造業者にとって、工場の製造能力というのは依然として重要です。シグマの工場は難しいエレメントも生産できますので、シグマのレンズ設計は自由度が高いのです。シグマが世界最高だとは言いませんが、業界の中でも最高レベルにいることは確かです。

Q:150-600mmの超望遠レンズを二種類発表したのはなぜなのでしょうか?

山木:元々は一つのレンズの設計から始まったんです。現行の150-500mmの後継機はどうすべきかをまず考え始めました。まず望遠端を600mmまで伸ばしたいというのが最初に考えたことです。実際の設計を始めたのは2年前なのですが、その時私たちは3つのゴールを決めました。一つ目。最高の光学性能を達成すること。二つ目。防塵防滴を備えた最高の鏡筒を作ること。そして三つ目。軽量でコンパクトなレンズを作ることです。

しかし、実際に開発を始めてみると、この三つを同時に高いレベルで達成するのは極めて難しいことがわかりました。なので、二つ製品を作ろうと決めました。最高の画質と鏡筒をプロ向けとして作り、コンパクトで軽量なモデルを別に作ろうと。

Q:今後発売されるレンズはどのようなものになりそうでしょうか?70-200mmのように人気のあるレンズの後継機なのか、それとも他のメーカーが出していない新しい製品なのでしょうか?

山木:私たちには二つの方向性があります。一つは50mm F1.4のような歴史のあるレンズを作っていかなければいけないということ。もう一つはこれまで市場に存在していなかった斬新なレンズを作ることです。私はそういう製品を作りたいといつも思っていますし、大きなモチベーションでもあります。シグマ自身、それまでにはなかった新しいレンズを発売していくという伝統があります。例えば70年代にシグマは世界初の広角ズームレンズを発売しました。21-35mmです。私たちは常に新しいものに挑戦し続けているのです。

Q:では、今年もなにか新しいものが発売されるのでしょうか?

山木:今年発売の製品は既に発表済みです。来年もいくつか新製品を発売します。

Q:全く新しい何かですか?

山木:そうですね、来年出します。

Q:それはズームレンズですか?それとも単焦点ですか?

山木:両方です。いや、実際にはまだ開発中なんですよ。実を言うと、そもそも発売できるかどうかもわかっていません。新製品の開発というのはとてもリスクが高いのです。時には開発の途中で発売を断念しなければいけないこともあります。そういう意味で18-35mm F1.8を発売までこぎつけたのはとても幸運だったと思っています。

Q:シグマのカメラについてはどうでしょうか?独自のフォビオンセンサーを搭載していますが、あまり成功しているようには見えません。

山木:カメラメーカーになるというのは私の父の夢でした。彼のビジネスを引き継いだ以上、それは私の夢でもあります。ここでやめるわけには行きません。

もう一つ続けている理由は、デジタルカメラを作り始めてから、私たちのレンズの性能が飛躍的に向上したからです。私たちの使用しているフォビオンセンサーはとても高解像です。このセンサーの解像度についていくためには、レンズ性能も高くなければいけません。カメラとレンズを両方作ることで、大きな相乗効果があるのです。

Q:カメラ事業が会社にもたらす利益はどれほどなのでしょうか?

山木:全くありません(笑)

私たちはとても独特な会社なんです。シグマはセンサーも自分たちで作っています。これはとてもお金がかかります。通常はキヤノンソニー、サムソン、パナソニックといった大手企業しかセンサーを開発しません。自社でセンサー開発部門を持っている会社はそれほど多くはないんです。

Q:ビジネス的に、センサー事業は今後伸びていくのでしょうか?例えばフォビオンセンサーを他社に供給することはできるのですか?

山木:工場の生産工程を監視するモニター用のセンサーとして販売できるのではないかと考えています。現在は協力してくれる企業を探しているところですが、今のところそういう会社はないですね。

なぜかというと、もし他社がフォビオンを使おうと思ったら、その会社が自前でイメージプロセッサ―を開発する必要があるからです。センサーを販売すると、その開発に協力しなければいけなくなります。残念ながら私たちの技術者の数も限られているので、どうしても積極的に売るということは難しくなります。

Q:ニコンはD750を発表し、キヤノンも6Dがあります。フルサイズ一眼レフはコストが下がりマーケットシェアも上昇していますが、シグマはこの流れについてどう考えていますか?

山木:それについていかなくてはいけないと思っています。フルサイズを使うユーザーは増えています。シグマはそれに合うレンズを出していかなくてはなりません。

しかし、それと同時にAPS-C用レンズの開発も意識的に行っていきます。APS-Cにはいくつか利点があります。例えばフルサイズ用にレンズを作るとき、周辺まで高解像なレンズを作るのはとても難しくなります。仮に出来たとしてもサイズが大きく値段も高くなります。性能の良いレンズを作りやすいという意味では、まだまだAPS-Cにアドバンテージがあると思います。