FOVEON Quattroセンサーは何が凄いのか?

シグマからFOVEONの新センサーFOVEON Quattroが発表になりました。

新センサーはあと1年は出ないと勝手に思っていたので、このタイミングで出てくるとは恐れ入りました。

新センサーの構造を見てみると、よく考えられているなあと思うので、メリルセンサーと比べて画質で劣ることは、実用上はほとんどないでしょう。むしろ逆に、解像度・高感度・色再現性の向上で、メリルセンサーより優れた絵が撮れるシーンが増えるだろうと思います。

ということで、クワトロセンサーとメリルセンサーで出てくる絵がどう違うのか、例によって単純化したモデルで勝手な推測をしてみます。




それを踏まえた上で、クワトロセンサーの構造と、メリルセンサーの構造を比較してみます。

まずはメリルセンサーの二つを並べたのがこんな感じだとしましょう。


イメージ 1

あるピクセルに5-4-3の光が入って、その右隣に10-8-6の光が入るとします。

右側のピクセルでは輝度情報・色情報ともに完璧ですが、左側では最下層の赤で光が消え、情報が記録されません。

厳密には、入ってきた光が途中で消えることはなく、弱い光でも最下層に到達します。しかし、イメージセンサーには暗電流という、常にセンサーに流れている微弱なノイズがあって、センサーに入ってきた光子の量が少ないとノイズに紛れて検出できなくなってしまいます。なので、信号が検出できないくらいの少ない光のデータは実質消えてしまうことになります。

データがないものはしかたがないので、おそらく隣接するピクセルから情報を補完して、だいたい平均的な色になるよう演算をしていると思います。

フォビオンは原理上は青・緑・赤の三原色を分離して、各ピクセルごとに正確な色を再現できるのですが、実際は明るさが足りなくなると最下層のデータが取れず、情報を補完しなくてはいけなくなります。

そして、この「最下層の情報がなくなる」ケースは、かなり多いと推測されます。


これは裏を返せば「モノクロモードで赤100%にするとデータが足りず解像度が低くなる」ことを意味します。

実際に、ISO100で撮影して、青・緑・赤の各100%モノクロ画像を比較したのが下です。

イメージ 2
画像右下のボタンを押すと拡大します


一番左がカラーで現像した画像。その横に各色の100%モノクロ画像を並べました。

同じ絵なのに、緑、赤と下層に行くにつれて解像度が落ちていくのがわかると思います。ISO100でも、最下層の赤では解像度が落ちるのです。

メリルセンサーは原理上、最下層でも、各ピクセルごとに色の違いを検出できるのですが、実際は光が少なくなるとノイズに紛れてしまい、隣り合うピクセルとの差がなくなっていきます。

モノクロでこうなるということは、この情報を元にしたカラーでも、色の再現が完全ではなくなる可能性が高くなります。フォビオンは色が狂いやすかったりするのは、最下層の光が少なく検出しにくいという物理的な弱点によるものでしょう。

光子とノイズを分離しやすくするためには、各層の受光面積を広げればいいのですが、そうすると今度は解像度が減ってしまいます。センサーの発展の歴史は、この解像度と受光面積とのせめぎあいの歴史でもありました。



クワトロセンサーはこのメリルセンサーの弱点を克服するために設計されたのでしょう。光子が不足しがちな下層の受光面積を増やすことで色再現性を向上し、なおかつ最上面のピクセル数を増やすことで、解像度も向上させる。一石二鳥です。

唯一心配なのは、青4ピクセルに対して、緑と赤が1ピクセルしかないことですが、これは青の情報を基準にすることでかなり正確に元の色が再現できるのではないかと思います。ということでちょっとやってみましょう。



イメージ 3

左がメリルセンサー、右がクワトロセンサーの構造です。どちらも左に同じ青緑赤の弱い光、右に強い光が入るとします。


クワトロセンサーはメリルセンサーより構造が単純で、受光面積が広いので、各層の光子もより細かく数えられるようになるだろう、ということで、クワトロセンサーのモデルでは通過するごとに減る数字を2じゃなくて1にして計算してみます。


クワトロセンサーでは、4つにまとまった緑と赤のデータ量を、どうやってそれぞれの青に合わせてるのかわからないんですが、青に入った光の量の合計の差をそのままの比率として、緑と赤にも適応してると仮定します。実際に最上面ではすべての色の光子が検出できるので、この層の輝度情報の比を下位に当てはめれば、かなりの精度で元の色を復元できると思われます。


青層の右左の量の比は7:12なので、これをそのまま緑に当てはめると緑の右左の比は4.4:7.6。青の比は2.6:4.4となりました(四捨五入してます)。

これを縦に並べると左側は

青 7
緑 4.4
赤 2.6

となります。各層ごとに1ずつ減ってく計算なので、緑に1を足し、赤に2を足して、青から3を引くという逆算をしていくと、青4、緑5.4、赤4.6となり、元の青5、緑4、赤3からズレてしまいました。

右側は縦に並べると

青 12
緑 7.6
赤 4.4

になります。これも逆算すると、青9、緑8.6、赤6.4となり、元の青10、緑8、赤6からはズレます。

けれども、ここで注目すべきは右側の光が多かった部分は誤差が1以下。左の光が少なかった部分でもそれなりに近い数字に近づけているということです。これがメリルセンサーだったら光の多い右側は正確ですけど、左側はそもそもデータが取れず色の再現ができないので、完全な推測になってしまいます。


これのどちらが実用上優れているのか。僕はクワトロセンサーだと思います。

暗部でも実際に近い色は出せる。メリルセンサーと比較してデータ量は少なくなるので、実際の書き込み速度は上がり、使い勝手は増す。低照度でもデータが作れるということは、高感度性能が圧倒的に向上する。

大量の光が画面全面に降り注ぐような状況ならメリルセンサーのほうが上かもしれませんが、そういう状況に遭遇するほうが現実には稀だと思います。レンズは周辺の光量も落ちますから、そういう様々な状況を考えても、「少ない光でも色が出せる」クワトロセンサーは実用的で優れていると思います。


ただ、ここで書いたことは全て推測に推測を重ねた机上の空論に過ぎないので、実際の判断はサンプルを見てから判断したいと思います。

CP+が楽しみですね!