シグマCEO 山木和人氏 独占インタビュー


2012年7月11日


2012年1月、前CEO山木道広氏の死去に伴い、シグマの新しいCEOに就任したのは子息の和人氏である。この度パリを訪問された和人氏に独占インタビューを行うことが出来た。シグマの現状と将来の展望について話を伺った。


CEOに就任されてから数ヶ月経ちますが、現在の世界経済の状況についていかがお考えでしょうか?

山木「カメラ市場のことしか話せないのですが、世界的に見て、ここ数年と比べると成長が鈍化していると感じています。もちろん中国のような市場は今でも伸びているのですが、それでも以前と比較すると緩やかになっていると思います

マーケットが拡大を続けているとメーカー間で生産やシェアの争いに意識がいきすぎて、カメラそのものの進歩が頭打ちになってしまうことがありますね。逆に市場が限定されてる方がイノベーションは起こりやすいです。限られた消費者の注目をいかに集めるか、メーカーは自社製品の差別化にエネルギーを注ぎますから」



2011年と2012年は単焦点のカメラシステムに注目が集まった年だと思うのですが、こういった傾向は感じられていますか?

「消費者は以前よりも品質の高い製品を求めています。例えば、写真のサンプルを見てデスクトップ上で拡大し、画質を比べるといったことが誰でもできるようになっています。かつてはこういった比較をするのは容易ではありませんでした。実際に使用するときにそれほどまでの品質が必要なくても、消費者はより画質の良い製品を欲しがります。例えば3600万画素のニコンD800のような高性能のカメラが増えてくれば、それに見合うだけの高画質のレンズへの需要も増えていきます」


デジタルカメラ市場の中でも、シグマのカメラの存在感は、とりわけフォビオン社の買収以降、際立ってると思います。シグマの将来についてどのようにお考えでしょうか?

「カメラに関して言えば、私たちはマーケットの中で大きなシェアを獲得したいとは考えていません。私たちのカメラは画質に特化しているので、写真に対して真剣に取り組んでいる、熱心なユーザーに使ってもらえるような製品づくりを心がけています。独自の技術を使っているので、画質を何よりも重視するスタジオ写真家や風景、ポートレートを撮っている写真家に使って欲しいですね。これまでキヤノンニコンといった大手のメーカーのカメラを使ってきた人にも試して欲しいと思います。特にここフランスでは、人とは違う、ユニークであることに価値を置く人が多いと思いますので、私たちの製品も受け入れられやすいのではないかと思います」


SD1の発売から半年ほどで価格が3分の1になったSD1 Merrillが発売されたのですが、このことについて説明をお願いできますか?

「フォビオンはシグマの子会社で、フォビオンセンサーを開発しているのは世界で一つだけです。シリコンウエハーは直径30センチほどなのですが、一つにつき2500ドルから3000ドルほどのコストが掛かります。この一枚のウエハーからセンサーを10個、20個と取ることでセンサーの値段を下げることができるのですが、生産を始めた段階では一枚のウエハーからフォビオンセンサーを一つだけ、あるいは一つも取れないという状況が続きました。それがSD1の高価格の理由です。その後の技術者たちの働きもあって歩留まりを改善することが出来たので、SD1の価格も大幅に下げることが可能になりました」


SD1ではシリコンウエハー1枚につきセンサーを一つしか作れなかったのですか?

「フォビオンはまだ発展途上の技術ですし、私たちも画質に妥協はしたくありませんでした。製造の過程でウエハー上に画素の欠損がどうしても出てしまいますし、センサーサイズが大きくなればなるほどその可能性は高くなります。通常は一枚のウエハーにランダムに50くらいの画素欠損が発生しますから、ここからフルサイズセンサーを作るとすると、ほとんどのセンサーに欠損が発生してしまいます。この欠損の数をいかにして減らすかがセンサー製造の鍵になります。現在はウエハー1枚から26個のAPS-Cフォビオンセンサーを生産しています。APS-Cやそれよりも小さなコンデジ用のセンサーでは、画素欠損はフルサイズほど大きな問題にはなりません。新型センサーは以前のセンサーとはピクセル構造から変わっているので生産は容易ではありませんでした。しかし、結果として、他のカメラとは全く違う高画質なカメラを提供できたと思っています」


前回のCESでシグマは初のミラーレス用レンズを発表しました。今後はシグマもミラーレスを重視していく流れになるのでしょうか?

「そうですね。ミラーレスは日本の交換レンズ市場では35%から50%ものシェアを持っています。消費者はミラーレスのコンパクトで軽量なボディや、低価格であるという部分を歓迎しています。これからもシェアは増えていくのではないでしょうか。私たちはこれからもミラーレス用のレンズを開発していきます。しかし、現在では、やはりキヤノンニコンのユーザーに、私たちの製品を最もよく使ってもらっていますね」


キヤノンが24-70mm F2.8の新型を発表しましたが、あの値段に対して何か感想をお持ちになりましたか?

「正直に言って、あのレンズの品質には驚かされました。サンプル写真を見て、この品質ならこの値段になるだろうと納得しましたね。私たちはすべての製品を日本の会津で生産しているので、どうしてもコストが高くなってしまいます。けれども、私たちの24-70mmも自信作ですのでぜひとも使って欲しいですね」


円高の影響についてはどうでしょうか?

「輸出を拡大するために、これまで日本政府は円安に誘導してきたのですが、そういった側面は私たちではどうしようもできない部分があります。日本政府だけではなく、アメリカや他の国の経済状況との関係からも円の価値は決まってきますので。この二年間ずっと円高の状況が続いており、海外輸出をするには厳しい状況ですが、なるべくそれを製品の価格に反映させないように努力を続けています」


フォトキナが近づいて来ましたが、シグマから何かサプライズはあるのでしょうか?

「ここですべてを話すことはできないのですが、フォトキナで皆さんを驚かせるような発表があることは約束します。しばしお待ちください」


新たなCEOになってから何か新しいプロジェクトが始まっているのでしょうか?

「今ちょうどそれに取り組んでいるところです。2013年と2014年はさらに皆さんを驚かせるような製品を発表できると思いますのでご期待ください」