(CES2012)シグマ山木社長インタビュー(その2)

その1の続き

デイブ:将来はどのような技術革新が起こると考えていますか?レンズの開発に何が一番大きな変化をもたらすのでしょうか?

山木:いい質問ですね。先ほども話しましたように、新しい素材がレンズの性能向上に大きな影響を与えると思います。また、レンズの開発ソフトも、もっと改良する必要がありますね。

デイブ:なるほど、設計するソフトも常にアップデートさせているのですか。

山木:そうです。ソフトを使ってレンズを開発することと、実際の画質や性能を評価することには少し違いがあります。現在でもレンズの評価は技術者の経験に頼る部分が多いのです。レンズの性能といっても本当に多くの要素がありますから、技術者の経験が重要になってきます。もしソフトがレンズの評価に役立てば、開発がもっとしやすくなります。

レンズというのは比較的設計の自由度が高いのですが、実際は様々な物理的・機械的な制約との戦いです。よりよいレンズを作るためには光学系だけではなく、他の様々な技術の向上が必要不可欠です。例えばより小型でトルクの強い高性能モーターを開発できれば、もっと良いレンズを作ることができるのです。

デイブ:なるほど、モーターが小型化できればレンズ性能向上のために工夫できる余地がさらに広がるのですね。

以前私たちのサイトでSD1をテストしたのですが、低ISO時の画質には本当に驚かされましたし、解像度は素晴らしいものでした。それだけではなく、写真そのものが他のカメラのとは違って立体感があって、これはベイヤー方式では得られないものだと思います。

山木:ありがとうございます。

デイブ:現在シグマではエントリー向けのSD15と、プロ用のSD1の2つのラインアップがあるのですが、この2つの価格の開きは大きいです。何かこの中間に位置するような、SD15よりも高性能で、かといって70万円もしないような、そういうカメラを開発する予定はありますか?

山木:私たちはSD1の価格がとても高いということをしっかりと認識しています。現在SD1に近い性能で、もっと手に入れやすい価格のカメラを発売できるよう全力で取り組んでいるところです。将来はシグマの一眼レフのラインアップを拡大する予定です。

デイブ:将来的にSD1の製造がもっと成熟して、製造コストが下がったらSD1の価格も下がるのでしょうか?

山木:現在はあらゆる努力をしているところです。もちろん、まずはSD1の一台あたりの製造コストを下げる必要があります。しかし、新型センサーの開発にも膨大なコストがかかっています。それゆえ、現在の問題を2つに分けることにしました。初期投資を回収するのには時間がかかるので、センサーの開発をもう少し長期的な視野で考えるようにしました。それと同時に製造コストを下げることに全力で取り組んでいます。

デイブ:なるほど、SD1の価格には2つの側面があるのですね。センサーの開発にかかるコストを長期的に回収する一方で、製造コストは出来る限り早く回収できるようにすると。

山木:そうです。

デイブ:毎回インタビュー相手全員に同じ質問をしているのですが、今後の経済はどのようになると考えていますか?今はとても厳しい状況ですが。

山木:そうですね。シグマにとっても今はかなり厳しい状況だと思います。シグマはヨーロッパでとても良く売れているのですが、昨年の冬、11月から12月までの間にヨーロッパ経済は後退しており、見通しは暗いです。さらにユーロが円に対してかなり下がっていますので、製品を全て日本国内で生産しているシグマにとっては大打撃ですね。

デイブ:アメリカ経済の先行きに関しては、少し希望が見えてきたように思えるのですが、アメリカ市場の動向についてはどう考えていますか?

山木:実際の所、アメリカの写真産業はそれほど悪くはないのですよ。景気は回復してきていると思います。私個人は写真産業は景気の動向にあまり左右されない業界だと思っています。趣味に関する産業ですし、シグマはその中でもさらにニッチな市場でビジネスを行なっていますから。けれども、ヨーロッパの状況は異なります。今回の景気後退でカメラ業界も大きな影響を受けており、これは私自身も、初めての経験です。

デイブ:つまり、アメリカはヨーロッパほど酷くはないと。

山木:そうですね。

デイブ:昨年はいろいろな意味でも厳しい一年でした。日本では地震津波があり、タイでは洪水が発生しました。シグマは日本の南のほうで製造を行なっているのですか?

山木:北のほうですね。震源地の比較的近くです。

デイブ:と言うことは、地震で大きな影響を受けたのですか?

山木:幸いにも被害はそれほど酷くはありませんでした。シグマの工場は海岸から100キロも離れた山地にありますから津波の被害は全くありませんでしたし。工場がある地域は地震にも強い場所なので、大きく被害を受けることもありませんでした。

デイブ:それは幸いでした。

山木:地震が発生したちょうどその時、私は会津の工場にいました。正直言ってとても恐ろしかったです。様々なものが崩れ落ちてきて、材料やガラスや巨大な工作機器が倒れ、あたりに散乱していました。地震はとても恐ろしかったのですが、工場そのものは無事でしたし、電力も供給されたままでしたので助かりました。次の日からさっそく取引先と従業員とが協力して、施設の復旧にあたりました。

デイブ:工場が大きく揺れ、物が散乱しているような状況で、設備そのものは大丈夫だったのですか。停電や節電の影響はなかったのですか?

山木:そうですね、節電への対応は大変でした。これまで通りの生産を続けながらできる限り節電するよう努めました。2年前と比べて15%以上節電したのですが、これは政府からの要請でもあったので私たちもそれに協力しました。

デイブ:震災の影響がさほど大きくはないと聞くことができてとても良かったです。今日はどうもありがとうございました。

山木:ありがとうございました。