シグマSD1レビュー&645D、M9、α900との比較(Luminous Landscape)

元記事
Sigma SD1 Review Including Comparisons with Pentax 645D / Leica M9 / Sony A900 / Sony A55
byミハエル・ライヒマン





(訳者注:このレビューはSD1発売直後の2011年7月に書かれました。カメラの動作や画質、現像ソフトSIGMA Photo Proへの評価は書かれた当時のものです。

その後ファームウェアやソフトのバージョンアップが何度かあり、例えば記事で言及されているカラースペースのバグは改善されています。このレビューに書かれた内容が現在のSD1の性能とは異なっている可能性があるので、その点を考慮に入れてお読みください)


シグマSD1はAPS-CサイズのフォビオンX3センサーを搭載した、長い間発売を待たれていた カメラである。2010年9月のフォトキナで開発が発表され、2011年の6月に発売となったが、その値段の発表はある種の怒りを引き起こした。というのも、シグマはSD1の価格は2000ドル以下になるとアナウンスしていたからだ。しかし、発表された希望小売価格は9700ドルであった。実売価格はすぐに7000ドル以下に落ち着いたが、依然として予想されていた値段よりもはるかに高い。SD1の値段については以前記事にしたことがあるが、今回の記事の後半でもう一度取り上げてみる。

フォビオンセンサーについての話は長く複雑になるので、詳しく知りたい人はウィキペディアを参考にするといいだろう。簡単に述べると、ベイヤーセンサーが赤、青、緑のカラーフィルターをモザイク状に配置しているのに対して、フォビオンセンサーはそれぞれの色に反応する層が三層に重なっている。


ベイヤーセンサー


フォビオンセンサー


ここで議論となっているのは、ベイヤーセンサーでは緑色が主に輝度情報に関わっているということだ。これは人間の視神経が緑色に最も反応して解像感や精細感を得ているからなのだが、三色のうちで緑色しか反応していないということは、実際のベイヤーセンサーの解像度は3分の1少ない3分の2程度と考えられるべきである。

実際に発売されているセンサーのほとんどすべてがベイヤー方式なので、解像度についてのこれ以上の議論は専門家に任せておいたほうがいいかもしれない。しかし、フォビオンセンサーは全てのピクセルで輝度情報を得ているので、ベイヤーセンサーと比較するときにはこのことを頭に入れておく必要がある。

ベイヤーセンサーは色モアレを防ぐためにローパスフィルターを使っている、ということも付け加えなければならない。それゆえ、フォビオンX3センサーはその出力画素数に対しておおよそ2倍の解像度を持つのに対して、ほとんどのカメラに搭載されているベイヤーセンサーは公称の画素数の3分の2程度の解像度しかない。プロの写真家やハイアマチュアはこの点に関して何年にもわたって延々と議論を続けている。

これまではベイヤーとフォビオンの正確な比較というものができなかった。というのも、SD1より前のモデルでは470万画素のサイズしか出力できなかったからだ。シグマの関係者と熱狂的なファンを除いて、旧型のセンサーが1400万画素と同等だと思う人はほとんどいなかっただろう。APS-Cサイズのベイヤーセンサーを搭載したカメラの多くは今では1400万から1800万画素となっており、これらと旧型センサーを比較するのは不可能だった。

さて、ようやく1500万画素のサイズを出力できる公称4600万画素のSD1が登場したことで、ベイヤーセンサーとの比較も可能となった。フォビオンX3のテクノロジーについてと、ベイヤーセンサーとの比較については後に詳細を述べる。


Sigma SD1 with 8-16mm @ ISO 100



テストの背景

2010年の後半に初めてSD1のベータ機を見た時、私はシグマにできるだけ早くテストをさせて欲しいと伝えた。SD1の発売後まもなく、私はローレンス・マトソンと一緒にこのSD1のレビューを行うことができた。ローレンスはシグマと長い付き合いがあり、シグマによる買収よりも前からフォビオンやその技術者たちと良い関係を保っている。ローレンス自身もまた長いキャリアを持つ才能にあふれた写真家であり、シグマ関係のフォーラムでも活発に議論をして、その存在は一目置かれている。

シグマはローレンスを通じて私にSD1のレビューを依頼し、私はそれを受諾した。ローレンスも実機を使ったテストに参加し、SD1についての情報やコメントを残してくれたが、このレビューそのものにはローレンスは一切関与していない。彼は彼で別のレビューを依頼されており、それはまた別の機会に紹介しよう。

フォビオンX3は画期的なテクノロジーなので、評価をする前にその技術についてしっかりと理解していなくてはならない。もちろん、このレビューにシグマは一切関与していない。記事の内容は全て、私と、Luminous Landscapeのレギュラーメンバーであり、今回の撮影のアシスタントをしてくれた、ニック・デブリンによるものである。

(筆者注:企業が新製品のレビューを依頼するときローレンスのような代理人を通じて行うことは異例のことではない。私はこれまでいくつものカメラ、例えば、エプソンソニーキヤノンハッセルブラッド、フェーズワン、リーフなどのレビューをしてきたが、新製品の操作方法や特徴について説明してくれる企業からの「専門家」がいつも一緒にいた。もちろん、そのような代理人の存在がレビューに影響をあたえることは一切無い。念のため記しておく)



Sigma SD1 with 120-300mm f/2.8 @ ISO 800


SD1の特徴とスペック

SD1のスペックは中級機と同等である。以下に主だったものを挙げる。

マグネシウム合金ボディ:丈夫で軽量

防塵防滴:プロシューマー用としては必須

77分割測光+11点クロスセンサーAF:素晴らしいスペック

ミラー専用モーターの採用とミラーアップモード:シャッターブレを最小限に抑える配慮がなされている

46万画素液晶:悪くはないが、もっと安価なカメラでも90万画素液晶を搭載しているので見劣りする

視野率98%ファインダー:よく出来ているが、多くの中級機は視野率100%を達成済み

内蔵フラッシュ:ないよりはいい。ハッセルブラッドですら内蔵フラッシュはある

脱着可能なダストプロテクター:振動でゴミを落とす機能はないが、容易に取り外しできるので清掃もしやすい

(筆者注:シグマのダストプロテクターは赤外線フィルターを兼ねている。シリコンは人間の目よりも赤外線に敏感なので全てのセンサーが赤外線フィルターを搭載している。私の知る限り、ユーザーが赤外線フィルターを簡単に取り外しできるのは、SD1とそれ以前のシグマの一眼レフだけである。赤外線写真に興味があればSD1は理想的なカメラの一つだ)

10万回耐久シャッター:とても信頼性が高い

最高5コマ秒連写:悪くはないが2000ドルで買える競合機種では6-8コマ秒の連写ができ、連続撮影枚数も多い



Sigma SD1 with 70-200mm f/2.8 @ ISO 800

SD1に足りないもの

シグマがSD1の7000ドルという値段を正当化しようとしている根拠は、その画質である。しかし、それについて語る前に、SD1のカメラとしての欠点についても指摘しておかなければならない。

ライブビューがない
これは驚くべきことだ。なぜなら、最新のCMOSを使用した一眼レフカメラは全てライブビューを搭載しているからだ。ライブビューは正確にピント合わせができるので、多くの写真家にとって必須の機能である。


動画がない
フォビオンX3センサーは動画に対応しているので、1000ドルのカメラにすら付いている動画機能がSD1にないということは、大きな欠点である。事実、昨年のフォトキナで行われたdpreviewのインタビューでシグマの重役はフォビオンの動画は素晴らしいものになると発言している。しかしSD1にはその機能は搭載されていない。


テザリング機能がない
プロ機種並みの値段であるにも関わらず、プロに必須であるテザリング機能がないというのは驚きだ。スタジオ撮影ではこの機能はもはや必要不可欠である。
(筆者注:この記事で比較しているペンタックス645Dにもテザリング機能はない)

(訳者注:現在SD1は専用ソフトSIGMA Capture Proを使用することでテザリングに対応しています)

プロレベルのアフターサービスがない
プロはサポートが必要だ。それも明日ではなく、来週でもなく、今すぐに!もし写真で食べていこうと思うのなら、小売店とメーカーによるサポート、例えば技術的な支援、ローン、代替機の準備、そして迅速な修理がなければならない。

ニコンキヤノンにはこのような支援体制があるし、ペンタックスも645Dを発売したときにプロ専用のサポートを開始した。シグマがSD1をプロレベルの値段で売ろうとするならば、それに見合ったサポートが必要だが、今の時点ではプロ用サポートはない。


サードパーティー製レンズがない
シグマは他のメーカーにとってサードパーティだから これは皮肉めいたことなのかもしれない。しかし、シグマ専用のSAマウントは他のレンズをサポートしていないし、マウントアダプターもほとんど使えない。キヤノンニコンソニーミノルタペンタックスなど他のカメラを使用しているプロは、現在使用しているレンズの全てをSD1用に揃え直さなければならない。シグマのレンズラインアップは豊富でいくつかのレンズは極めて優れているが、SD1用のレンズは全てシグマ製でなければならない。


デュアルカードに対応していない
SD1と同価格帯のカメラはデュアルカードに対応しており、片方にRAW、もう片方にJPEGを記録したり、カード間でデータの移動が可能である。(ライカM9にはこの機能はない)


他社製RAW現像ソフトが対応していない
SIGMAPhotoPro5は機能が少ししかなく、動作が不安定だ。いくつかのソフトメーカーによると、シグマは自社のRAWを他のソフトに対応させることにあまり熱心ではないようだ。それに対して、ほとんど全ての他のカメラメーカーは自社のRAWのサポートにとても熱心である。なぜならRAWのサポートは売上に直結するからだ。