(PMA2010)シグマ山木社長インタビュー(前編)

元記事
http://www.imaging-resource.com/NEWS/1266902659.html

PMA2010の会場で、イメージングリソースのデイブ・エッチェルズとショーン・バーネットはシグマCOOの山木和人氏にインタビューをすることができた。シグマは一眼レフ用交換レンズの生産では世界有数の企業である。

シグマに入社してから今年で17年目という山木氏は、カメラと交換レンズビジネスについて、非常に豊かな見識を持っている。例えば、現在、最新のコンピュータによって行われている光学演算は、もし1980年代だったなら、1万人分もの人力計算が必要なのだそうだ。詳しくはインタビューを読んでいただきたい。




イメージングリソース(IR)デイブ・エッチェルズ:
一眼レフカメラの売り上げは数年前と比べて飛躍的に上昇しています。カメラの売り上げが伸びるに伴ってレンズの売り上げも伸びているのでしょうか?それとも単にコンパクトカメラからのステップアップとして一眼レフを買うだけで、キットレンズのままで済ませてしまうのでしょうか?


シグマCOO山木和人:
キットレンズを含めた交換レンズ市場は5年前と比べてとても大きくなっています。けれどもおっしゃったように、はじめて一眼レフを買うような人が増えていて、そういう人はキットレンズをずっと使い続けます。初心者は良い写真を撮るために二つ目、三つ目のレンズを買わないので、これは交換レンズ産業にとっては問題です。

IR:
それでは、中級者が良く買うレンズの種類は、現在のシグマのラインアップと同じなのでしょうか?例えばズームがたくさん売れたり、単焦点はあまり売れなかったりといった、何か特徴はありますか?

山木:
90年代半ばからシグマは高級レンズに焦点を当ててきたのですが、1995年以前は主にフィルム用の交換レンズを作っていました。その頃はカメラメーカーは一眼レフにレンズを同包していなかったので、そこにチャンスがありました。私たちは小売店にキットレンズを卸していたので、大手メーカーのカメラとシグマのレンズがセットで売られていたのです。

IR:
面白いですね。それでは当時は完全に今と異なるマーケットだったのですか?

山木:
そうですね、実際にズームレンズ一本、あるいは二本のズームのセットをキットレンズとして売り出したのはシグマです。私の記憶では、シグマは80年代の終りにキットレンズを売り始め、それ以来、数えられないほどの交換レンズを販売してきました。

90年代後半にデジタル一眼レフが発売された時、大手メーカーは私たちを参考にしたのか、キットレンズも同包するようになりました。カメラにレンズを一本、二本付けて売り始めたのです。大手がそのようなビジネスを始めた結果、私たちはマーケットを失いました。

90年代半ばから戦略を変えて、シグマは高級レンズに集中する事にしました。単焦点、望遠、広角、マクロといったレンズです。もちろんシグマはそのようなレンズを過去にも生産していましたが、現在はキットレンズではなく、高級レンズに集中しています。今の主なユーザーはハイアマチュアで、これは一眼レフユーザー全体の10%ほどです。残りの90%は初心者で、ほとんどはキットレンズの付いた入門用カメラしか買いません。

IR:
18-200mmや18-250mmなどの高倍率のレンズが人気ですよね。こういった高倍率レンズはコンパクトからステップアップしてくるユーザーにとって魅力的だと思いますが、どう思われますか?

山木:
高倍率レンズを買うユーザーは二つのグループに分けられます。一つはおっしゃったように初心者のグループ。彼らはレンズ交換を嫌うので、倍率の高いレンズ一本だけを使いたがります。もう一つのグループはハイアマチュアです。彼らはたくさん交換レンズを持っていますが、撮影のために動く事が出来ない状況では、一本で広角から望遠まで必要になるのです。

正直に言うと、初期に発売していた高倍率レンズはあまり質が高くありませんでした。けれども光学技術の改良によって、現在の高倍率ズームはとても良い写りをします。プロの写真家も使っていますから、高倍率ズームは全てのユーザーの要求に応えることができると思います。

IR:
ユーザーによって売れ筋のレンズが違ったりするのでしょうか?例えば、サッカーマム(子供をサッカークラブに通わせているような、アメリカのミドルクラスの母親)の多くは、子供たちのプレーを撮るために望遠レンズを良く買います。明るい広角ズームが良く売れるといった、高倍率ズーム以外のトレンドはありますか?

山木:
人によって必要なレンズは異なります。風景写真が好きな人は広角レンズを買うし、野生の動物が好きな人は望遠レンズを買います。サッカーマムのようなトレンドが世界的な現象なのかは私にはわかりませんが、日本では30mmF1.4や50mmF1.4のような、明るい単焦点レンズを買う人が増え始めています。

アメリカの状況はわかりませんが、日本では奇麗な写真がたくさんあるブログがとても人気です。特に、被写界深度の薄い、背景のボケた写真が人気なのですが、多くの人はどうやってそういう写真を撮ればいいのかわかりません。

まずコンパクトカメラでそのような写真を撮ろうとするのですが、やはりコンパクトでは上手く撮れないので、キットレンズのついた一眼レフを買ってきます。一眼レフなら綺麗な写真が撮れるというCMがたくさん流れているからなのですが、被写界深度の深いキットレンズでは、やっぱり背景がボケた写真は撮れません。

そこでようやくレンズによって写りが違うということがわかるのです。入門用一眼レフとシグマの30mmや50mmのF1.4レンズが一緒に買われていくのを、私も店頭で見かけたことがあります。これはまだ大きなトレンドではありませんが、今までになかった新しい流れだと思います。とりわけお子さんを背景をぼかして撮るのは良いですね。とても可愛いく撮れます。

IR:
たくさんの人が被写界深度の違いに気づいて、明るいレンズを買うようになってきているということですか?

山木:
私の印象では、日本、韓国、中国、台湾のユーザーは背景がボケた絵を好みますね。もう一つのトレンドはマクロ撮影です。例えば、料理の写真を載せたブログも人気で、奇麗に料理を盛りつけて写真を撮り、ブログにアップしている人がたくさんいます。けれども、コンパクトカメラでは奇麗な写真を撮れないので、自分で調べて一眼レフとマクロレンズが必要だと知るわけです。私はこれも新しいトレンドだと思います。

これまでのシグマのユーザーは、写真についての知識が豊富なハイアマチュアがほとんどでした。けれども、新しく写真を撮り始めた人たちは、カメラの機材そのものには全く関心を示しません。料理の写真や子供の写真といった目的がまずあり、そのために必要な機材を選ぶのです。

IR:
シグマの製品の中で埋もれてしまった良品というものはありますか?良いレンズなのにあまり知られていなかったり、そのレンズでどのような写真が撮れるのか理解されていないようなレンズは?

山木:
レンズの理解についてはメーカーよりもユーザーの方が優れていますね。レンズを設計するときには、ユーザーを想定してどのように使われるか考えるのですが、発売されたあとでは、メーカーの想定外の使い方をユーザー自身が見つけることが多いです。

一つ不思議なのは、今のユーザーはとても知識が豊富なのに、焦点距離の選択だけはとても保守的に見えます。ほとんどの一眼レフはAPS-Cサイズのセンサーを使っているので、35mm換算後の焦点距離で考えたAPS-C用レンズがもっと普及してもいいと思います。

それなのに、多くのユーザーは70-200mmや70-300mmといったフルサイズ用のレンズを買っています。シグマには50-150mmというAPS-C専用レンズがあり、これは35mm換算で70-200mmと同等の焦点距離なのですが、このレンズはあまり人気がありません。APS-Cサイズのカメラを使っていても、わざわざ大きなフルサイズ用の70-200mmを買うのです。

IR:
それは面白いですね。昔の焦点距離で考えている人が多いという事ですか?

山木:
わざとAPS-Cで高倍率になるように選んでいるのか、それとも昔の表記のまま誤解して買っているのか、ちょっとわかりませんね。


続き

(PMA2010)シグマ山木社長インタビュー(後編)
http://blogs.yahoo.co.jp/ka_tate/60911342.html